「再会」の裏側で〜心の奥に潜む黒〜

おれと琴子が内科の応援にきて、はや数日。予想通りこちらの状況はまさに”猫の手も借りたい”だった。

その忙しさは『近藤と琴子が会える機会がなくなれば』という自己満足な思考に浸る余裕すら与えてくれないほど。


そしてその忙しさでいつも以上に働きづめの琴子。

他の科からの応援、ということでどうやら夜勤は免除されているようだが、それでも帰宅は毎晩夜の9時を
過ぎているらしく、元気が取り柄の琴子とはいえ、少し過労気味なのが気にかかっていた―――。



☆          ☆          ☆         ☆          ☆          ☆  



「お、入江っ。久しぶりだなあ」
「何ですか、西垣先生」

食堂では今日も相変わらずおれの隣に腰掛ける西垣先生。
他の科の手伝いをしているときくらい、この人の顔は正直あまりみたくないのが本音なのだが。

「しっかしおまえ巧いことやったよな」
「何のことですか?」
「琴子ちゃんの内科応援のことだよ。あれだけオレが忠告したのにしょうのない奴」

「内科の要望する人材に外科のナースで一番適した人間がたまたま琴子だっただけですよ」
「ふーん。ま、それなら別にいいんだけどね。あんまり束縛しるぎるのもよくないからな」

そう言って西垣先生はおれの肩をぽん、と軽く叩く。

―――やはりこの人は侮れない。ちゃらんぽらんに見えておれの周りの誰よりも観察力が鋭い。


いくら琴子が「入江くんと一緒に内科のヘルプなんてあたしは幸せだね」と笑顔で言ったところで
おれがしている事は結局束縛だ、と気づかされる。どす黒い策略に変わりはない、と。

それでも琴子が幸せと言っているんだから…とおれはひたすら自分自身への言い訳を繰り返した。



その日の夕方、一息つこうと自動販売機に飲み物を買いにいくと、向こうからちょうど琴子がやってきた。

疲れた顔も見せず元気いっぱいにこちらへ向かって手を振っている。

「あ、入江くん!お疲れさま、入江くんの方もやっぱり大変?」
「相変わらずだな。まあおれもおまえも、もうすぐ外科には戻れるかもな」

「・・・そうだね。向こうの患者さんとかにも早く会いたいしなあ」
「まあおまえに注射されずにすんでほっとしてるかもな」
「もうっ入江くんったらっ」

そんな何気ない琴子との会話。だが・・・

「そーいえば治くんっていつ退院なのかなー。最近外科に行ってないからわかんないや」

何故、今その名前を――?


「それならもうすぐ退院だろ。虫垂炎なんてすぐ治るからな」
「治くんが退院するときはあたしも外科の方にちょっとは顔をだしたいなあ」

顔を出す―――?


「・・・なんで?別におまえが担当していた患者じゃないだろう」

このおれの言葉に琴子の声が徐々に小さくなっていくのが分かる。


「・・だ、だって友達だし、治くんの様子、気になるし、ほら今度同窓会もあるから色々話もしたいかな・・・って」

しぼりだすようにその理由を話す琴子を、おれは自分でも驚くほどの冷たい声色で突っぱねた。


「色々と話があるなら今度の同窓会ですればそれでじゅうぶん事は足りるだろうが。
それじゃなくても今ここ(内科)は忙しいんだから、くれぐれも抜け出したりしていくなよ、おまえ」

しまった。これはさすがに言い過ぎた―――が、時すでに遅し。


「うん…わかってるもん」

琴子は俯きながら、消え入るような声でそういったきり、こちらに背を向けて歩いていってしまった。



「くそっ」

一気に飲みほしたスポーツ飲料の空き缶を苛立ちまかせにゴミ箱に投げつける。


あんな言い方じゃなくても違う言い方があった筈。だが口からこぼれ出て行ったのは、琴子を諌める言葉ばかり。


おれが琴子にいったことは決して間違っていない。仕事に私情を持ち込まないよう忠告することは当たり前。

いや、それはあくまでも建前であって、本音は――琴子とあの男の接触を恐れているから。
琴子があの男を心配したり気にかけたりすると、どす黒い感情がかきたてされるのが自分でも分かるから。


だめだ。

これ以上、琴子を傷つけるような事を言ってしまう前に。どうか、どうか―――何も見ないように、聞かないように―――。



だが、おれのそんな思いは翌日、あっけなく崩れ去ることになる。


急遽西垣先生からある患者のカルテを持って来いと言われて外科病棟に足を踏み入れようとしたその時。
聞き覚えのある笑い声が離れたところから聞こえる。そして…見たくないのにみてしまったその光景は―――。

足が動かない。まるで重力が普段の十倍になったかのように―――。


あそこにいるのは琴子だ。こんなに遠くからでもよく分かる。その隣に居るのは―――近藤!?
藤夏
2010年02月07日(日) 22時08分14秒 公開
■この作品の著作権は藤夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
裏側といいながら本編の場面をちゃっかり拝借しております矛盾をお許しください。
ここまでくると、再会の裏側じゃなくて単なる直樹の嫉妬物語としてお読みいただいた方がいいかもしれません。
それにしても回を重ねるごとにサブタイトルのセンスのなさが際立ってきてような気がします(笑)
誰か素敵なタイトルをつけられる才能を私に分けてください(―▽―;)

この作品の感想をお寄せください。
k6WB6D Click!! Bradley ■2015-08-11 02:57:33 188.143.232.26
arcserve abdul pass Mnfoxsxa ■2013-10-05 04:22:44 91.207.116.178
mraz lafollette school Vjujoqxs ■2013-10-04 00:26:32 91.207.116.118
nRUcYB gzxuizsteqqb, [url=Click!! [link=Click!! Click!! yusnfbvuzz ■2013-09-21 00:24:45 178.122.226.4
nRUcYB gzxuizsteqqb, [url=Click!! [link=Click!! Click!! yusnfbvuzz ■2013-09-21 00:24:00 178.210.206.245
nRUcYB gzxuizsteqqb, [url=Click!! [link=Click!! Click!! yusnfbvuzz ■2013-09-21 00:23:15 93.77.79.72
nRUcYB gzxuizsteqqb, [url=Click!! [link=Click!! Click!! yusnfbvuzz ■2013-09-21 00:22:30 178.124.107.102
nRUcYB gzxuizsteqqb, [url=Click!! [link=Click!! Click!! yusnfbvuzz ■2013-09-21 00:21:28 95.135.166.46
asylums payday loans london ontario Bnyqkcal ■2013-05-18 04:28:20 46.119.142.200
dinosaurios payday loans canada Svpkdhrj ■2013-05-08 09:17:06 187.57.248.183
wcb instant payday loans Kdnxaqjk ■2013-04-30 08:07:39 95.133.172.211
mugler rezeptfreie potenzmittel Hrmqedjk ■2013-04-30 01:52:26 37.45.152.181
iNab0U cmkbperxrakn, [url=Click!! [link=Click!! Click!! maktnbr ■2013-04-26 07:40:38 94.178.58.58
ナツさん、コメントありがとうございます!
まあ何だかんだで直樹は琴子が傍にいないとだめなんですよね♪
素直になれたらいいけどそれはできない。
本当抱きしめちゃえばいいのに!ってはがゆくなります。自分の作品なのに(笑)
藤夏 ■2010-02-11 17:04:44 110.4.129.144
藤夏さん、こんばんは
ブラック直樹のヤキモチ全開ですね(^∀^)
今までうるさいほど付き纏っていた琴子が傍にいない事が不安になったのでしょうね!
自分の感情に素直になれない直樹がカワイイです♪
もう、何も言わず琴子を抱きしめれば良いのにーーーー!!
ナツ ■2010-02-09 22:17:59 113.151.157.43
コメントありがとうございます。続きが楽しみといっていただき、本当に嬉しいです。
皆様の温かい言葉1つ1つが私にとっての励みになります。ありがとうございます。


ぴくもんさん、こんにちは
チラチラとみてきてくださってたんですか!すみませんいつも拍手コメでのお知らせで…。
ブラック直樹、書いているうちにどんどん感情の起伏が激しくなってきて、「くそっ」の空き缶投げつけの
シーンも「これはアリなのかな?アリだよね」と自分に言い聞かせながら書いてました(笑)
琴子を止めたつもりが琴子が外科まで近藤に会いにいった!とのは直樹としては誤算だったでしょう。でも計算がきかないのが琴子なのですよ^^)
サブタイ、こんなんでいいんですかー!(よかった…)気持ちの切り替えうまく描けるように頑張ります。

chan BBさん、こんにちは
サブタイ、本当に直樹の心のまんまですよね。最適とまで言っていただけるなんて…嬉しいです♪
どす黒いけど確かに見ようによっては可愛いかも、直樹(^◇^;)あまりに必死だからそれが余計に可愛い。
嫉妬の炎が既にめらめら燃えてますけど人より、西垣先生の方がよく分かってるかもしれません(笑)
琴子は本当、何にも気づいてないんですよねーこの辺りは。ただ純粋に友達思いなだけ。それが直樹の苛々を加速させてる気がしますが。

maroさんこんにちは
お久しぶりですっ!!お会いしたかった〜>▽<
心躍らされたとのお言葉、本当に嬉しいです。空き缶投げつけのシーンに反応していただいてありがとうございますv
本当、琴子とのやりとりのところ小学生ですよね。天才だけど恋愛に関しては不器用すぎるというか。
二人の姿を見ただけでショックで重力が10倍になる直樹は意外と打たれ弱いのかもしれませんね(笑)
藤夏 ■2010-02-09 12:27:24 122.103.107.194
こんばんは〜^^)
せ、藤夏様!お久しぶりです。
直樹の束縛に心躍らされました(←!?)スポーツ飲料投げ飛ばした!!笑・・・直樹可愛すぎ・・・・
琴子が少しでも近藤君の話を出しただけで急に意地悪になって、小学生か!!笑 もう、大好きですって!!(><)
二人の密会を見ただけで足が十倍の重さに・・・よほどのショックが見受けられました!笑 続き楽しみです^^)
maro ■2010-02-08 22:44:17 125.194.5.17
藤夏さん、こんにちは。
サブタイトルにうけました!(笑)だって、直樹の心、そのままですもん!!(●´艸`)私は、このタイトルが最適だと思います( ̄m ̄*)
でもドス黒い策略なんですが、なんだか必死な直樹がおかしくって、かわいくって!
自分で必死で正当化しようとして、自問しながら活動してるのが、もうたまりません!それを「嫉妬」と言うのですよ、直樹!!
また、それに気づかない純粋な琴子がかわいいですよね。近藤くん・・・どうなるやら・・・楽しみです。
chan BB ■2010-02-08 12:16:20 211.124.255.90
藤夏様こんばんは。早速やって来ました(^-^)実はそろそろかなぁ、ってお昼あたりからチラチラ見に来てました。お知らせ下さってありがとうございます♪
フフフ、すっごくブラックな直樹ですね(;^_^A言っている事は正論なんですけど、嫉妬の余り理詰めで琴子を封じ込めて。自分でもこんな態度を取りたくないと思っているのに…ほんと琴子の事となると頭より感情が先走るんですよね〜。「くそっ!」と自己嫌悪に陥る所を誰かが見ていたら、クールな直樹とのギャップにさぞ驚いたでしょうね〜!…そしてそこまでして琴子を止めたつもりが、二人は会っていて!!さぁどうする!?直樹!
サブタイトルいいですよー(^^)vこるからもどんどんどす黒い直樹見せて下さい!そしてどう気持ちを切り替えていくのか楽しみにしています(^-^)
ぴくもん ■2010-02-07 22:58:18 210.153.87.33
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ


<<戻る
感想記事削除PASSWORD
PASSWORD 編集 削除