やがて来る未来
キュッ。
蛇口を捻ると軽い音がして水が止まった。
頬を一筋水滴が伝う。
洗面台の脇に掛けられたタオルを手にとって視線を前に戻すと男と目が合った。

今朝までの張り詰めたような、どこかどんよりとした色がなくっている。
さっき自分がした宣言で、ここ数ヶ月家の中に漂っていた空気も感じられない。

結婚なんて考えた事もなかったのに、いつの間にか自分の中で相手は決まっていた。
素直になれなくて認める事が出来なかったけど。
試練に立ち向かっているつもりが、いつしかそばにいるのが当たり前になっていた。
からかって泣かせて、それでもそばにいた。
泣いたと思ったら、笑って、赤くなって。
俺にはない反応を思い出して思わず口元を緩ませながら顔についた雫を拭う。

琴子はもう寝ただろうか。

昨日までは向き合う事さえしなかったのに、ついさっき自分のものにしたと思っただけで顔を見たくて堪らなかった。
顔を見て抱きしめて、柔らかい唇を塞ぎたかった。
この先一緒にいるのはあいつだけ。
遠回りして傷つけたけど、これからは一緒に生きていく。
この決意だけは揺るがない。
思い立ったら顔だけでも見たくなってタオルを脱衣籠に投げ捨てると鏡の自分に背を向けた。

部屋の扉の前で未来を手にする。

「大好きだよ。」
5×9=63
2011年05月27日(金) 23時19分51秒 公開
■この作品の著作権は5×9=63さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お目汚しすみません。
調子に乗ってまた書いてしまいました。
プロポーズの夜の話。

前作も今回も会話文がほとんどないせいで琴子が出てきていませんが、次はラブラブが書けたらいいな、なんて思っとります。

ある歌の歌詞が私的どんぴしゃだったのでそこから勝手にイメージ。

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ヒナ様

コメントありがとうございます!
正解です!(笑)
カメムシ扱いされない分、入江君の方が優しいかも…
5×9=63 ■2011-06-09 21:01:13 211.128.185.16
 そうさ 真実の僕を
 気づかせてくれたのは
 君の笑顔だけだったから♪
って言う曲ですね〜^^ 
ええ、あの人も、冷たくって、賢くって、きれいで、人の気持ちが読めなくって、入江君に似ているかも・・・ (身長以外はね)
ヒナ ■2011-05-30 22:03:11 210.134.198.73
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