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★☆『Ring』の入江くん目線のお話☆★




 
 「それでは失礼します。」


 頭を下げて俺は取引先を出る。
 あとどれくらいやらなければならない仕事があるのだろう。
 ざっと思い浮かべるだけで―――――俺は大きな溜め息をついた。

 眠くて、身体はボロボロ。
 できることなら帰ってベッドでぐっすりと眠りたい。
 けれど、心だけは疲れていない。
 あの雨の日からずっと――心だけは充実感に満ちていた。


 待たせていた車に乗り込み流れる外の景色を見る。
 陽が短くなってきて、少し薄暗くなり始めている。
 街のディスプレイもX'masに変わり始め華やかさが増す。

 X'masの前には、俺と琴子にとって大切な事がある。
  しかも、来週。

 
 お袋から結婚式の日を打ち明けられた時はあまりにも突然で腹が立って思いっきり怒鳴ってしまった。

 結婚が嫌だったんじゃない。
 俺の密かな決意や気持ちを無視したお袋にムカついただけ。
 結局どうしようもないとはいえ、俺はそれを受け入れた。
 その裏には少しでも早く琴子を俺のモンにしたかったから・・・。



 車中で手帳を開き、今日のスケジュールを確認する。
 この後の仕事の予定はない。
 この時間を作るために俺は今日まで働きまくった。


 「もしもし。直樹だけど、琴子は?」


 家に電話をしたら家にはお袋だけで、琴子は居なかった。
 どうやら式の打ち合わせの後、一人で買い物に出掛けたらしい。
 今日俺が計画しているこれからの予定は琴子には言っていない。
 サプライズっていう訳ではないが、もし話した後、急な仕事が入って行けなくなった時の琴子の悲しい顔が見たくなかったから・・・。

 ここに至るまで、俺は嫌っていうくらい琴子の悲しい、辛い泣き顔を見てきた。
 ・・・俺がさせていたんだけど・・・。
 だから、わざわざそんな顔なんてさせたくなかった。


 結婚が決まってから今日の時間と結婚式、新婚旅行の時間を捻出する為に仕事にかかりっきりだ。
 だから結婚式の準備は全てお袋と琴子に任せっきり。
 衣装は一緒に選びたかったんだろうと思うが、俺の終わりの見えない多忙さを理解してくれてるのか琴子は何も言ってこない。
 悪いな・・・と思いつつ、それに甘えた。

 でもこれだけは。
 指輪だけは俺と琴子で選びたい。
 エンゲージもマリッジも、俺が選んでやりたい。
 だからお袋にもこの事を早い段階から言っておいた。


 ――ショーケースの前で、嬉しそうに指輪を選ぶ琴子。
 それを想像すると、自然と笑っている自分が居る――。



 車が信号待ちで止まった時、何気に外を見れば目の前にはウエディングドレスの店があった。
 ディスプレイされているドレスは大人っぽいものばかり。
  
 琴子はどんなドレスを選んだのだろうか。


 ウエディングドレスの店の前には、一人の女性がずっとドレスを見つめている。
 髪が長くて栗色のストレートの髪。

 ――もしかして――
  


 「琴子!!!」

 「え? 入江くん!?」



 あぁ…見つけた。

 俺は運転手に もう帰っていい と言い残して車を降りた。
 街中で俺に声をかけられた事に目をパチパチさせている琴子の元へ急ぐ。


 「良かった。探してたんだ」

 「え?あたしを?」


 そう言うと首を傾げて見つめてくる琴子。
 久しぶりに見るコイツに愛しさがこみ上げてくる。

 やっと手に入れた愛しい奴。
 俺が初めて手離したくないと、誰にも渡したくないと思った唯一の存在。


 
 もうすぐ堂々と「俺のモン」って言える日が来るんだ。


 
 結婚式が終わったら、今まで抑えていた気持ちも乗せて抱きしめてやりたい。
 口に出して言うのは恥ずかしくて言えやしないけど…。


 本人の俺ですら忘れていた誕生日ばかり考えてて、肝心な指輪を忘れている琴子。
 珍しいなと思いつつも、自分の事より俺やお袋の事を優先して考えるのも琴子らしいともいえる。

 俺は呆れつつも、肌寒くなって冷たくなった琴子の手を握り歩き出す。


 「ほら…行くぞ。」

 「うん。」


 この先、俺達は二人並んで歩く。
 何があってもこの手を離さない。


 ―――隣に琴子が居ることが、俺の統べてなのだから―――

                            《END》
 

  

narack
2011年06月04日(土) 00時28分08秒 公開
■この作品の著作権はnarackさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。

 琴子ちゃん目線を書いたあとに何となく浮かんだお話なんですが・・・。
 思ったように文章に収まらなくて・・・。
 入江くん目線のお話って難しい・・・。と改めて感じました。(今更かいっ)

 そんなお話ですが、読んでみてくださいね。


この作品の感想をお寄せください。
あなたにピッタリの男性みつかります!(´-ω-) Click!! 有希子 ■2012-07-12 08:15:10 110.3.96.100
藤夏さま。
 
 こんにちは!
 藤夏さんの温かいお言葉とっても嬉しかったです!!
 入江くん研究、頑張れそうです(笑)

 ありがとうございました!

 
narack ■2011-06-06 21:34:28 203.133.243.101
narackさん こんにちは!

確かに入江くんの心情、目線でえがくって難しいですもんね…。
でもnarackさんのこのお話は入江くんの繊細で優しげな
琴子への愛が丁寧に表されているなぁと思いました。

隣に琴子が居ることが、俺の統べて。 これに尽きますね!
藤夏 ■2011-06-06 13:00:09 183.180.16.70
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