Coffee Break  〜Act.U〜
Coffee Break 〜Act.U〜
   〈university ver.〉




 「おはようございます。」


 あたしは元気におじさん、おばさん、裕樹くんに挨拶を済ますと、ダイニングテーブルに座らずおばさんの居るキッチンに向かう。


 「琴子ちゃん、今日もお願いしてもいいかしら?」

 「はいっ」


 あたしはニッコリと笑っていつもの準備をする。
 棚から必要なモノを取って、丁寧に心を込めてゆっくりと。
 しばらくするとキッチンから香ばしい香りが広がる。

 あたしは、この香りが大好き!
 あたしの気持ちもこの香りと一緒に広がってくれればいいのに。

 少しずつ出来上がる滴をじっくり見つめているとリビングの扉が開く音がした。


 「おはよ。」


 大好きな人。
 あたしは大好きな気持ちをたっぷり込めて作ったそれをカップに注ぎ、丁寧にゆっくりと運んだ。


 「おはよう、入江くん。」


 あたしは入江くんの前にコーヒーを置く。


 「・・・(お)はよ。」
 

 そう言って入江くんは迷わずカップを手に取ってくれる。
 あたしは入江くんの隣に座って、じぃっと入江くんを見つめる。
 入江くんはゆっくりとコーヒーを口に含むと「コクンッ」と小さな音を立てて喉に通していく。

 その光景がもう幸せで、うっとりする。
 だけど、もっと素敵と思うのはこの後で。

 入江くんは一口コーヒーを飲むと必ずっていっていいほど目を細めて優しい顔をするの。
 あたしはこの入江くんの表情が大好き。
 そんな入江くんを飽きることなく眺めていると、入江くんがあたしをジロッと睨んだ。


 「・・・なんだよ。ジロジロと朝から気持ちワリーな。」

 「・・・ね・・・コーヒーどう?おいしい?」

 「別に、フツー。」

 「そっか・・・。」


 あたしは最後にはコーヒーを飲み干してくれる入江くんを知ってるから、思わず笑みが零れてしまう。

 
 「ふふ・・・。」


 入江くんが眉間に皺を寄せてあたしを見てるのを感じつつ目の前の朝食を食べた。







 「行ってきま〜す。」


 先に行ってしまった入江くんを追いかける為に早足で急ぐ。
 入江くんに追いつくと、あたしはそっと入江くんのシャツを掴む。


 「ね、入江くん。今日はテニスしに来る?」

 「今日は忙しいから無理。」


 あたしは見上げて入江くんの顔を見ながら話すけど、入江くんは前ばっかり見て目も合わせてくれないの。

 でもいいの。
 今は両思いにならなくたって。
 いや、そりゃあ両思いになれたらすっごくいいんだけど・・・。
 あのね、なんでそう思っちゃうかというとね。

 今、入江くんの隣を一緒に歩かせてくれるから。
 掴んだシャツを振り払うことなくずっとそのままでいさせてくれること。

 あたしは、それだけで幸せ。


 「なんだよ・・・朝からずっとニタニタ気分ワルイ。」

 「もう・・・! ニコニコって言ってよ!」

 
 前を見ず入江くんを睨みながら歩いていると、小さな段差に躓いて転びそうになった。

 「キャッ」っと前に倒れそうになる。

 あたしは咄嗟に手を出そうとしたけど間に合わず、そのまま顔面から地に着きそうになり思わず目を閉じてしまった。

 ―――けれど。

 
 ふわり。


 宙に浮いた。



 「おまっ あっぶねーな! ガキじゃあるまいし、前を向いて歩けよ!!」


 入江くんが抱きとめてくれてた。
 予想される痛みを覚悟してたけど、着地したのは入江くんの腕の中。
 あたしはビックリしたのと恥ずかしいのでドキドキ、顔の熱さが収まらない。


 「あ、ありがとう///」


 きっと茹でダコになっているだろう、あたしの顔を覗いてる入江くん。
 そしたら入江くんは「ったくー。」って溜め息をついてあたしの手をぎゅっと握った。


 「・・・ほら、行くぞ!」


 あたしは引きずられるように早足の入江くんに合わせて歩く。
 どっちかといえば歩くより走ってるに近い。

 シャツを掴んでるだけで幸せなのに、今日は入江くんと手を繋いで大学へ向かう。
 あたしは胸がキュンっとなる。


 「ね・・・入江くん。」

 「・・・なんだよ。」

 「コーヒー美味しかった?」

 「・・・。」


 あたしはしつこく朝と同じ質問をする。
 入江くんは何も答えない。
 でも「おいしかった」って言ってくれた気がするの。
 なんで分かったか・・・っていうとね、繋いだ手から伝わった気がしたから。

 あたしが入江くんに聞いた後、何も言ってくれなかったけど入江くんは繋いだ手をぎゅって力を込めて握ってくれたから。


 ますます大好きになっちゃうよ・・・入江くん。

 いつもはあたしの事相手にしてくれないし、してくれても馬鹿にしたりするばっかり。
 けれど、分かりづらいけど、こんな小さな優しさがあたしの気持ちを大きくしてくれる。


 「入江くん。やっぱり大好き。」

 「耳にタコ。」

 「ホントだよ〜。ずっと好きでいるから、振り向いてくれなくてもずっとだよ。」

 「好きにすれば?」


 あたしは、入江くんのぬくもりを感じながら大学へ向かった。

                      
                         《END》
narack
2011年06月13日(月) 23時16分27秒 公開
■この作品の著作権はnarackさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。
 
 いつも読んでくださりありがとうございます。

 こちらは「大学時代」となっています。
 ・・・微妙?に変わっているような・・・。
 そんな感じでございます(苦笑)

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☆藤夏さま。
 こんにちは。
 ほ、本当ですね!藤夏さんの解釈で読むと・・・
 わああああ!!(驚)
 ・・・でございます(笑)
 さすがです!!尊敬です!!
 ほんと素直じゃないんだから・・・入江くん。
 いろんな意味を含めてありがとうございました。
narack ■2011-06-14 20:50:19 203.133.243.101
☆杏子さま。
 こんにちは。
 嬉しいお言葉ありがとうございます。
 私も杏子さんの書く入江くんが好きです(告白?)
 大学時代は琴子ちゃんが自分に向いていないと落ち着かない程ですから。
 心の奥底は「ったく、しょうがないな」って思ってるはず(多分)
 
 恋人時代はやっぱり書けず(涙)で、次回は新婚時代でお送りいたします〜(さほど変わらずだったりして・・・(大汗))
 ありがとうございました。
narack ■2011-06-14 20:44:27 203.133.243.101
narackさん こちらにもこんにちは!
すっかり琴子(と琴子の淹れる珈琲に)メロメロですね。
この頃の入江くんは自覚ないですが間違いなく琴子を好きですから
本能的には
耳にタコ→おれも  好きにすれば?→ありがとう
だと勝手に解釈しております(笑)
藤夏 ■2011-06-14 13:23:45 183.180.16.70
narackさんの書く琴子ちゃんって本当に可愛いですね。
いつから直樹は好きなんだろう?たぶんずっとずっと前からなんでしょうね。
また、可愛い琴子ちゃんに会わせてくださいね。
杏子−anko− ■2011-06-14 11:16:23 175.28.222.125
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