Coffee Break   〜Act.V〜
 Coffee Break 〜Act.V〜
   〈newly couple ver.〉






 「お帰りなさ〜い、入江くん!」

 
 玄関のドアを開けるとパタパタと音を立てて琴子が迎えてくれる。


 「コーヒー淹れて。」


 俺は琴子に一言残し二階へ上がる。
 琴子は「用意するね。」とリビングへ戻っていった。
 荷物を寝室に置いてからリビングに入るとコーヒーの香りが部屋中に広がっている。


 「はい、どうぞ。」

 「ああ。」


 一口飲むと広がる苦み・・・と、甘み。
 落ち着く。
 気持ちが和らぐ。
 心が解けていく感覚に浸っていると、目の前に座っている琴子と目が合った。


 「なんだよ。」

 「ううん、なんでも。」


 そう言う琴子は自分のカフェオレを一口飲んでいた。
 カップを両手で大事そうに持ち、一口をゆっくり、ゆっくり飲んでいる。
 幼い子供が飲んでいるように見える仕草だが、琴子らしいと思う。


 「入江くんどうしたの?」

 
 そんなに見ていただろうか。
 琴子が心配そうに俺を見ていた。


 「お袋は?」

 「お母さんは買い物に出掛けてたよ。裕樹くんも荷物持ちで一緒に。」

 「あっそ。」


 俺は、ダイニングのイスから立ち上がり、リビングのソファに座り直した。
 琴子は突然俺が立ち上がり目の前からいなくなった事に驚いてか「え?え?」と軽くパニックになっていた。
 それがまた可笑しい。

 
 「琴子。」


 俺は横のソファをポンポンと軽く叩いた。
 すると不安でいっぱいだった琴子の目が急に輝きだしてカフェオレ片手に近寄ってきた。
 俺の隣に腰を下ろすと、ふんわり笑ってまたカフェオレを一口飲んでいる。
 俺も琴子に合わせてコーヒーを一口飲んだ。


 「入江くん、ブラックってやっぱり苦いよね。」

 「・・・まぁ、砂糖も何も入ってないしな。」

 「だよね。」


 そう言うとまた琴子はカフェオレを飲む。


 「なんだよ。」


 意味の分からない質問に『?』が頭の中で飛び交いながら琴子を見る。
 琴子はトン、と俺の肩に身体を預けながら呟いた。


 「ううん。ただあたしはブラックは苦くて飲めないし、その美味しさもよく分からないから。香りは好きなんだけど。入江くんは、どういう所が好きなのかなぁって。」


 なんだよそれ。
 
 子供の「ビールっておいしいの?」みたいな発言は。
 まぁ、確かに苦いよな。
 でも俺は琴子が淹れたコーヒー以外は美味いと感じたこと無いんだけど。
 琴子が淹れたコーヒーだけがほのかに甘く美味いと感じる。

 俺はコーヒーを一口含み、そのまま琴子に口づけた。


 「んっ・・・」


 コクン・・・と喉を通っていく音。
 しばらく琴子の唇を堪能したあと、ちゅっとわざと音を立てて離した。


 「苦かったか?」

 「う・・・ん・・・苦い/// たぶん。」


 きっと味なんて分からなかっただろう。
 真っ赤な顔をして俺を見つめている。
 キスだけなのにこの初々しい反応に思わず笑ってしまった。

 
 「も・・・もう! イジワルなんだからっ」


 大きな瞳をうるませてこっちを見ている。
 睨んでるんだろうけど。
 
 俺が口に手を当てながら琴子の髪を梳いていると、琴子が えへへ と笑みをこぼした。



 
 ―――いつまでも変わらない琴子。

 ―――いつまでも変わらない琴子のコーヒー。



 
 初めて琴子が淹れたコーヒーを飲んだあの日。
 この味が当たり前になっていくのだろうかと考えた。
 


 ―――朝起きたとき。

 ―――高校から帰ったとき。

 ―――大学から帰ったとき。



 いつの間にか琴子のコーヒーを飲む事が当たり前になっていた。

 一度はこのコーヒーを飲むことを諦めようとした。
 けれど、あの時諦めなくて良かったと心底思う。


 「琴子。」

 「ん?」

 「おまえのカフェオレも美味いか?」

 「うん。あたしのは入江くんのみたいに苦くはないけど、甘くてクリーミーでおいしいよ。 でも―――。」

 「でも?」

 「なんだろう・・・ 一人で飲む時と入江くんと一緒に飲む時とではおいしさが違うっていうか・・・。
  入江くんと二人で飲む方が幸せな分、味も甘みも全てがうんとおいしくなるんだろうね。」

 
 琴子は俺にカフェオレを差し出す。
 琴子のリップ付きの。
 俺はわざと琴子のリップ跡に口を付け一口飲んだ。

 ――甘ったるい。――

 そしてもう一口。
 そのまま琴子に口づけカフェオレを流す。
 また コクン― と喉が鳴っている。


 「どっちが美味い?」


 にやりとすると、また琴子が真っ赤になっている。
 息、してるよな?
 しばらく観察していると、ぎゅっと俺の腕を握ってきた。

 
 「両方/// でも今のほうが甘い気がした///」

 
 コーヒーもカフェオレも俺の気持ちと一緒に口づけで飲ませた。
 日頃言えない気持ちを乗せて。
 お前のように毎度毎度告白は出来ねぇから。

 
 いつものキスとはまた違う伝え方もいいかも知れない。
 真っ赤な顔で幸せそうにカフェオレを飲んでいる琴子を見て思った。


                           《END》
narack
2011年06月16日(木) 14時42分20秒 公開
■この作品の著作権はnarackさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは。
 ・・・あ、甘っっ・・・。
 って思いますよね?私も読み返してて思いました。
 
 でも、読んでくださった方、ありがとうございました。 

この作品の感想をお寄せください。
7Wgo7q Click!! JimmiXS ■2016-08-12 09:46:35 188.143.232.41
QHtJwC eubrrkzpklej, [url=Click!! [link=Click!! Click!! kzzhnhjfplp ■2013-07-06 14:28:49 212.96.64.176
☆藤夏さま。
 こんにちわ。
 「あまぁぁ〜〜い!!」と叫びたくなりますよね・・・。
 琴子ちゃんが「亭主元気で・・・」になるとは到底思えないですよね。
 倦怠期の心配は皆無でしょう。ずっとラブラブでいて欲しいです。
 
ありがとうございました! 
narack ■2011-06-17 19:11:23 203.133.243.101
narackさん こんにちは

あまぁ〜いっ*>▽<*!!!でもそれでことイリコトです。
口数は少ないけどその分を口付けで!

この2人はずっとずっと甘いままでケンカはしても
倦怠期とか絶対なさそうだな(笑)なんて思っちゃいました。
藤夏 ■2011-06-17 13:23:49 183.180.16.70
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