青いキミ part2

琴子がオレの家に居候していることが学校中に知れ渡った。
それも下世話に。
ご丁寧にイラスト付きの張り紙が校内の掲示板に張り出された。
これだからF組の奴らは嫌なんだ。

オレは怒りにまかせて琴子をその掲示板前まで連れ出した。
琴子本人が書いてなくとも、アイツの友達がこんなくだらないことをやらかしたに違いない。
アイツを台風の目として嵐のよう巻き起こる騒動にオレはうんざりだった。

「あんたはオレにラブレター書いたくらいだからウワサされても平気かもしれないけど、
オレは迷惑だね」

そのくらい言ってやらないと琴子の奴はわからないだろう。
次に来るであろう琴子の支離滅裂な反論にオレは身構えた。
だが。
琴子は泣いていた。
スローモーションで涙がポロポロとこぼれ落ちるのが見える。

「なによ、、、なによ!!」

そう言ってアイツはその場から走り去って行った。

なんだっていうんだ。
いつもの威勢はどうしたんだよ。

いや、正直オレは動揺したのかもしれない。
今ままでも、オレのことを好きだと言ってくる女を適当にあしらった結果、目の前で泣かれたことがある。
でもそんなとき、オレの心はいつものように冷徹である。
泣いている原因がオレとは無関係のことのように思えるから。
それなのに、琴子の涙を見てオレはーーー

:::::::::::

落ち込むなぁ。
ラブレターを渡して「いらない」って言われた時よりもこのダメージは大きい。
「迷惑、か、、、」
誰にも聞こえない小さな声で吐き出してみた。
里美とじん子が心配して帰りにアイスを奢ってくれると言ってくれたけど、
とてもそんな気になれなくて、あたしは一人家に帰ることにした。

校門を出ようとしたその時、下校する生徒達の群れのなかでひと際目立つ佇まいの人を見つけた。
こんなに落ち込んでいるのに、入江くんの姿を発見するあたしのレーダーは絶好調。
ああ、改めてあたしって入江くんのことが好きなんだ。
それでも今は入江くんと顔を合わせたくない。
距離が離れるようにわざとゆっくりゆっくり歩く。
それなのに、なんでなの?
こんな時に限って入江くんが急に後ろを振り返った。

「よお」
「ーーーーー」

入江くんが足を止める。そのままゆっくりあたしの方に歩み寄って来た。
あたしは俯いたままで前を見据えることができない。

「学校で話しかけるなって言ってたじゃない」
「今更だろ。それより、なんでなんだ?」
「ーーー?な、何が?」
「昼間。泣くことないだろ。」

立ち止まるあたし達の横を、生徒達がちらりと視線をよこしながら通り過ぎる。
あ、だめ。あたしここに立っていられない。
右足がズズ、、、と動いたのを見た入江くんがすかさず言った。

「逃げんの?」
「ーーーー!」

どーいうつもりなの?
あたしが泣いた気持ちを聞いて、入江くんはどうするつもりなの?
あたしのことなんか、迷惑としか思ってないんでしょ?
それなのに、なんでそんなこと聞くの?
やるせない気持ちが体の底に沈殿していくと、無性に腹立たしさが込み上げてきた。

「入江くんは、入江くんにとっては、女の子の気持ちなんてどーでもいいのかもしれないけど、
誰かを好きになる気持ちはその人だけのものだよ。
入江くんには迷惑、、、って思うことでも、好きって思う気持ちは誰にも止められないよ。」

「ーーー碌に知らない人間のことよく好きになれんな」

「しょーがないじゃない!好きになるのって、その人のこと知りたいって思うのって理屈じゃないんだから。」

いや、ちょっと待って。これってあたし、また入江くんに告白してるみたいだけど?
慌てて言葉を付け足した。

「あ、いや、その、、、今のはラブレターを渡した女の子たちの総意よ!
あたしの個人的な思いではないわ!」

横切る学生達があたし達の会話を拾おうと一瞬歩くスピードを緩めていくのがわかる。
こんな真っ昼間からこんな話、、、しかも好きな本人を目の前にして。
なんだか恥ずかしくなってきた。

「そ、そーいうことだから!」

捨て台詞のように強い口調で言い放つと同時に、入江くんの左横をすり抜けて
目一杯大きい歩幅でその場を立ち去る。
入江くんは何も言わず、ぐんぐんと歩くあたしの背中を後ろから見ていた?気がする。


その夜。
あたしは机の一番奥にしまいこんでたあのラブレターをそっと取り出してみた。
(一度も読んでもらえなかった、かわいそうなあたしのラブレター、、、)

書かなければ良かった?渡さなければ良かった?
もしも、を考えてもその先に答えはない。
きっとどんな仮定の話をしても、あたし達の関係が変わることはないから。
どんなに冷たく酷いことを言われようが、悲しいかな、入江くんのことが好きなあたし。
なんであたしの好きな人は入江くんなんだろーーーー


だけど、それから数日後のある晴れた休日。
まさか入江くんがそのラブレターをいつの間にか読んでいたことを知る。
ラブレターの内容を暗記してみんなの前で朗読するっていう暴挙に出た。
ーーーー本当にイジワル

でもその日、金ちゃん達が入江家まで押し掛けてくれたお陰で、
入江くんが嬉しいこと言ってくれたんだ。
たとえ売り言葉に買い言葉だったとしても、あたしにとっては忘れられない一言。

「今日嫌いでも、明日は好きになってるかもしれない」

fin

ひらひら
2014年12月17日(水) 14時43分17秒 公開
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