オレンジ色 part1

カーテンの隙間から柔らかい日差しが頬をそっと撫でる。
あまり寝た気がしない。それでも今日という一日をやり過ごすために起きなければ。

ここ1ヶ月の記憶といえば、目の前に山積みとなった問題をただ遮二無二次々とさばいてく日々。
そして会社を立て直す術をあれこれ模索すること。
そんな無味乾燥なものでしかない。
本来なら仕事の合間に婚約者とデートすることが息抜きとなるものだろう。
いや、あれはデートなのだろうか?
まるで自分ではない別の誰かが、沙穂子さんをエスコートしているような感覚。
心はどこかへ彷徨っているのも関わらず、耳だけで捉える彼女の会話に相づちを打つ。
そんな自分に嫌気がさしているのに、入江直樹という固い殻でそれを覆いつくして
深い深いところへと押し込んでいく。

くそっ!

ベッドからまだ起き上がれない体にムチ打つべく、オレは一言悪態をついた。


顔を洗ってダイニングに入ると裕樹が朝食の準備をしていた。
朝からオフクロは親父の見舞いに出かけているから、小学生なりに
できるもので食事を取ろうとしているらしい。

「おはよう。お兄ちゃんもトーストでいい?」
裕樹が自分用に用意していた食パンと、もう1枚を袋から取り出して言った。
「ああ」
家中が静かだ。ダイニングからキッチン、そして振り返ってリビングを
見渡してもアイツの姿は見えない。
ここ最近、琴子はずっと引きつった顔でオレを見やがる。
そんな顔でさえも一目見たかったのか、オレは。

「アイツは?」
「デートなんだって。めかしこんで出かけて行ったよ」

一瞬、思いもよらないアイツのいない理由に体が固まった。
はっと我に返り、隙あらば出て来ようとするある種の感情をいつもの皮肉ですぐさま蓋をする。
「ふーん。またもの好きがいるもんだな」

裕樹がチラとこちらを見た気がした。
知ってるよ、裕樹。オレが今どんな卑怯な顔をしているか。
でもいいんだ、これで。
青臭い気持ちなどはどこかに追いやり、今日も仕事をするだけ。
そして琴子は誰かとのデートで帰りが遅い。
それだけのことだ。

続く
ひらひら
2014年12月20日(土) 18時51分12秒 公開
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