オレンジ色 part2

「琴子さん!」

呼び止められた声を探して琴子は振り向く。
すると数歩後ろに武人と綾子が連れ立ってこちらへ歩み寄っているところだった。
思いのほか近い距離から突然呼び止めれたことに琴子は少しビクっとする。

「ああ、武人くんと松本妹か。もしかしてずっとあたしのこと呼んでた?」

「ええ、何回もね。武人が大きい声で呼んでるのに、琴子さんぜーんぜん気がつかないんだもん。」

「あは、ごめんね!ボーとしちゃってた」

いつもの辛辣な松本妹なら、そんなあたしのボケにすかさず突っ込んでくるところだけど
今日は静かに笑うだけ。武人くんも心配そうにあたしを見つめる。
どうやら今の自分は一目で弱り切っているのがばればれらしい。

「琴子さん、もう講義終わって帰るところですよね?
なんかうまいもんでも食いにいきましょうよ!たまには楽しまなきゃ!」

武人くんのさわやかな笑顔がまぶしい。むかし、入江くんに嫉妬してもらいたくてデートした時と変わらない笑顔。
いやでも、今はちょっと違うかな。
あくまで松本妹を立てたうえでの言葉。

「ふふ、いくらあたしでもラブラブカップルのデートの邪魔するほど野暮じゃないわよ」

「あら、琴子さんでもそんな遠慮するんですね。ったく、調子狂うわ。」

「そーだよね、いつも図々しいって言われるあたしなのにね。でもなんか食欲ないんだ。
せっかく誘ってもらったけど今日は遠慮しとく、ほんとごめんね」

「そーすか、、、。琴子さん、ちゃんと食べないと駄目ですよ。
あ、そうそう最近、学食の兄ちゃんとデートしてるって聞きましたよ。なんか、なんつーか、、、
琴子さんがそうしたいならオレ、応援しますから」

金ちゃんとデートしてること、噂になるのが早いのね。
入江くんのお見合い話も大学中に広まってるみたいだし、あたし達って最後まで噂の的なんだわ。

心配してくれる武人くんに(一応、松本妹も心配してくれてたのかな?)
お礼を言って踵を返した。
本当に声を掛けてもらって素直に嬉しいし、ありがたいと思ってる。
でも今はこれ以上、誰かと普通に会話をすることすらも辛い。
特に入江くんを思い起こす人達を見ると。



「ねぇ武人、直樹先生、本当にあの見合い相手と結婚すると思う?」

頼りなくとぼとぼ歩く琴子の後ろ姿を見届けながら綾子が言った。

「-----どーかな。でもさ、入江さんって元来は嘘つけない人だろ」

「元来、、、はね。今は理論的な思考と本能的な欲求のせめぎ合いってとこかしら」

「自分の意識下でどーにもならないことなんて入江さんにとっては初めてかもな。
あーあ、オレなんてそんなことばっかりの毎日だけど」

「ふふ、そこは直樹先生と比べるだけ無駄よ」

「うっせーな!とにかくさ、オレはあれだな。ロボットみたいに生きてく入江さんなんて見たくないね」

「-----そうね、結局琴子さんが必要なのよね、直樹先生には」


続く
ひらひら
2014年12月20日(土) 18時52分41秒 公開
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