ブライズメイド


「えっと、ただ今ご紹介にあずかりました、琴子さんと高校大学で
同級生の高宮里美と申します。」
「同じく同級生の小森じん子です。」
「「直樹さん、琴子さん!本日はおめでとうございます!!」」

2人のスピーチが始まり、来賓客の視線がそちらに向かう。
入江くんは意に沿わない披露宴のプログラムに相変わらずムスっとしているけど、
お祝いの言葉に反応するようにチラっと里美とじん子を見た。
そしてまた会場の遠いどこかに視線を戻す。
入江くん、自分の結婚式なのにもはやその姿、哀愁さえ感じるよ----

2人のスピーチが続く。

「なんと言いますか、まさかの急展開に私たち本当に驚いてます。
でも、こうして入江くんと琴子、2人が並んでる姿を見ていると、長年、琴子の方想いを
傍らで応援してきた立場としては感慨深いですし、とっても嬉しい気持ちです!ね、じん子!」
「うん!綺麗だよ、琴子!」

ああああ、やばいわ!早くも目がウルウルしてきて視界がぼんやり---

「えーーー、琴子さんと私たちは、斗南高校時代から同じクラスで共に青春を過ごしてきた
わけですけども、楽しいこと悲しいこと、色々な気持ちを共有してきました。
そのなかでも、琴子はみなさんご存知のとおり、とーっても明るくてお話好きな子で、
一緒にいると本当に楽しませてくれる存在です。そして、頼りなげに見える彼女なんですけど、
実は仕切りたがりなので、3人の絆を強く結びつけてくれる人でもあります。」

「えっと、1つエピソードをお話させていただきます。あれは高校2年の時だった思います。
学校の購買に売っているパンで、毎年、秋限定の超人気商品である『マロンケーキパン』なるものがあったんですけど、
あたしと里美、それが発端でケンカしちゃったことがありました---」

----ん?購買のパンでケンカ?
あたしは記憶を辿ってみるけど、なかなかその事柄が頭に出て来ない。

「そうなんです。恥ずかしながら、たかがパンのことでケンカになりまして---。
まぁ、あのですね、あまりにも人気のパンなのでお昼休みになったらすぐに買いに行かないと
売れちゃうわけです。で、ある日、じん子が最後の1つを抜け駆けして買ったことがありまして。
まぁ始めはあたしも仕方ないって思ってたんですけど、なんというか、多感な
時期っていうのもありまして、ちょっとした皮肉から始まり、それが段々とケンカに発展してしまったわけです。
もう私たち、引っ込みがつかなくなってしまって、数日口をきかなかったんですけど、
その時、琴子は私たちの間を行き来してなんとか仲を取りもとうとしてくれました。」

「でもそんな琴子の気遣いを省みずに、私たちは相変わらず冷戦を続けてました。
そうしたら突然、琴子が言い出しました。3人で仲良くお弁当を食べればいいと思うって。
明日から自分が3人のお弁当を作ってくるからって。」

そこまで聞いてあたしはやっと、その時の記憶が甦った。
そうだ、その時は友達関係がうまくいかないことがこんなにも辛いことかと随分と悩んだものだ。
と、それまで無言だった入江くんがボソリ---

「おまえの弁当は爆弾そのものだろ----」

--------ひ、ひどい!

「で、本当に翌日から琴子が私たちのお弁当を作って持ってきてくれたんですけど----
い、いやぁ、これがその、独特な味っていうかぁ」
「まぁ、その時は高校生だったんで!!料理ってなかなか難しかったんだと思います---。
だからその、私たち、このお弁当食べさせられるなら、もう仲直りしようって!!
どちらからともなくそんな風に言い出して、あっと言う間に仲直りしました。」
「そうんなんです!琴子のお弁当作戦は見事に成功したわけです!」

会場がドっと笑いに包まれた。
あ、あいつらーーー!!!
入江くんが口角を上げてニヤついていてので、あたしは「もう、笑わないで!」と言いながら
左右の拳を交互にポカポカと入江くんに当てる。

しばらく会場が騒然としていたけど、だんだん落ち着いてきたタイミングで
再度、里美のしっかりとした落ち着いた声が響き始めた。

「まぁ、お弁当はともかくなんですけど笑。
私たち、琴子のそういう強いパワーっていうか、黒かったものをいつのまにか白に変えてしまうような、
そんな不思議な力に何度も助けられました。
理屈じゃないですよね。人を引きつける彼女の魅力、ここにいらっしゃる皆さん始め、一番よくわかっているのは---------」

「お兄ちゃんよーーーーー!!!!」

と、一番遠くに位置する親族席からその甲高い声が響いた。
そう、それは紛れも無くお母義さまの声。
白いハンカチを振りながらこちらに熱い視線を向けている。
入江くんは視線を合わせようとせず、遠くを見つめながら盛大にため息をついた。

会場中はなぜか拍手喝采となり、「いよ!!色男!」「泣かすねー!」など、男性のかけ声まで聞こえる。
あたしはなんだか喜びたい反面、入江くんの微妙な表情を見ると思わず申し訳ないような、
気まずいような、複雑な気持ちになる。

「琴子が長らく入江くんに片想いしてた時、入江くんみたいな人、高嶺の花って感じだし、
いくら琴子がどれだけ頑張ったとしても報われる日がくるのか、正直そんな風に思ってしまったこともあります。
それでも、琴子はめげないんです。全力のパワーで入江くんに突進していく。
いつしかそんな琴子を見ていて、私たち、羨ましくも思っていました。
そこまで好きな人がいる人生って楽しいだろうなって。そして今、その琴子の真っ直ぐな
想いが入江くんに届いたんだと思うと、その、なんていうか、人間って何が大切なのか、教えられた気にもなるんです。」

「私たちも琴子みたいに熱い恋をして、全力で生きて行こうって思えるんです。
だから琴子!これからも私たちに人生の楽しさを教えてってね!」

「「改めて、結婚おめでとーーー!!!末永くお幸せに!」」



もはや入江くんがどんな表情してるか気に留めることもできないくらい、
あたしの涙のダムは完全に決壊した。
こんな風に他人から、友達から褒めてもらうことなんて、今日のこの日くらいかもしれない。
それでも、自分を肯定していいんだと、幸せであることを認めていいんだと、
そう言われたようで、あたしの気持ちがどんどん解放されていく。

ふと、テーブルの下に置いていた左手に温かい感触を感じた。

「入江くん----」

入江くんの大きくてほっそりした手があたしの左手に重なっていた。
顔を見上げると視線は相変わらず遠いどこかを見ている。
そのまま視線をこちらに向けず入江くんの口が開いた。

「-----癪だけど」
「え、なに?」

「俺が一番知ってるに決まってるだろ。おまえの魅力。」

それは多分、あたしにしか聞こえないくらいの囁き。

「だろ?」
そう言ってようやく入江くんはあたしの方を向いてくれて、この披露宴が
始まってから初めて目があった。

既に決壊してるダムはもはや崩れるところもないくらいにボロボロになり、
滝のように流れる涙でせっかくの化粧が無惨にもはがれていく。

「ひでぇ顔」
入江くんはフっと笑うと、あたしが右手で握りしめているハンカチを奪い取り、優しく顔を拭ってくれる。

あたしはフニャフニャになって入江くんの腕にしがみついた。


fin
ひらひら
2015年01月12日(月) 23時18分49秒 公開
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こちらこそ素敵なコメントありがとうございます! ひらひら ■2015-01-23 20:24:03 202.235.251.103
幸せすぎる!!!!!!寒い冬に素敵なお話ですっ♥ RRR ■2015-01-23 01:33:15 106.188.126.202
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