隠れフラグ


9月28日が何の日であるか。

素知らぬ顔をしているが、もちろん覚えている。
オフクロがわざわざ大学にまで忠告しに来なくとも。
だけどオレは「そういえばそうだった」という顔をしてやり過ごす。

「必ずプレゼント持参よ!形あるものばりがプレゼントとは決まってないけどねぇ、
ねっお兄ちゃん」

何言ってやがる。
誕生会なんて、そんなガキみたいなこと。

と思いながらも、いつのまにかオレの一年間のスケジュールに居座るように
なった「琴子の誕生日」。
どうだっていいだろ、と冷たくやり過ごそうとしているのに、「琴子の誕生日」
は図々しくドカっと居座りオレの頭から動く気配がない。
どうしたものか--------


だからある意味、綾子ちゃんからの誘いがあってホっとした自分がいる。
「試験の前の日、少し勉強みてくれないですか?」
「っていうと何日?」
「28日」

そんな会話を青い顔で聞いていた琴子が「ダメーッ」と甲高く叫んだが、
オレは構わず素知らぬ顔を続ける。
みるみる紅潮していく琴子の顔を横目で確認したが、もう、今更、この流れを
止めることはできない。
『28日は琴子の誕生日会があるから無理なんだ』
そんなこと言えるわけもなく。

だけど、なんだ?
琴子の悲しそうな顔が瞼から離れない。
まったく、本当に厄介だな。

自分の気持ちなんてとうに気がついている。
だからといってそれを言葉にして、態度に示して、それがどうなる?
彼氏、彼女、恋人
そんなものの定義は曖昧で不透明だ。
アイツがオレを好きだと言っている限り、オレはここから動けない。
オレが動く時は----
アイツがオレから離れて行こうとした時かもしれない。



その日から琴子はあからさまにオレを避けているようだ。
用もないのにいつも理工学部にやってくるくせに、めっきり姿を現さない。
はっきり言って----
ムカツク

そんなことを講義中に考えていたら、後ろの席に座っていたササキが声を掛けてきた。

「入江、最近あの子見ないな。喧嘩でもしたんか?」
「は?あの子って誰だよ」
「またまたぁ〜入江の実家で同居してるっていう、あの子だよ。
 えーっと、なんて言ったっけ。目がクリっとしたロングヘアの」
「相原」
「あ、そうそう!相原さん。密かな楽しみなんだけど、あの子見るの。
 最近入江のとこ来ないからさー。なんでだよ?」
「知るか。というかオマエ、モノ好きだな」

たまに現れるこの類いの男。
なんだ、世の中にはモノ好きが結構いるものなんだな。
と、誰に聞かれるでもないのに心のなかで何故か皮肉を言う-----

「オレも大概だな」
「え、なんか言ったか?」
「いや、こっちのこと」

ササキの間抜け面を見ていたら、虚勢を張っている自分がなんだか笑えてきた。
恋愛などに自分が溺れるとは思えないし思いたくもないが、たまには
そんな素振りを見せるのもいいのかもしれない。
何より、オレのスケジュールにある「琴子の誕生日」には、どうやら重要フラグが
付いていて、本人に「おめでとう」と言わなければならないらしい。

そうだ。琴子のこととなると、頭で考えたことが何故かしっくり来ない。
気持ちが思考に追いつかなくなる。
それ以上は危険だと自身に警笛を鳴らすが、最近はどうも違う。
それならばいっそのこと、気持ちに従ってしまえばなんと清々しいことだろうとさえ思える。
でも----
オフクロの思惑、同居という環境、外野からの好奇の目
正直、それらは今のオレにとって弊害でしかない。

今はまだ、このまま距離を保っていた方が懸命だろう。
だからせめても、「誕生日おめでとう」とだけ伝えに行こう。

fin
ひらひら
2015年01月25日(日) 22時16分09秒 公開
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■作者からのメッセージ

イタキスのなかで疑問に思っていたことなんです。
入江くんは割と早い段階で琴子のことが好きになっていたのに、何故それをずっとひた隠しにしていたのか?です。

なんとなくな理由は原作からも読み取れますが、うーん、健全な若者が好きな人を前にして気持ちを隠し続けるってスゴいなと。
凡人にはわからない領域です。
という個人的な疑問から、今回は直樹の気持ちになってみたくて書いてみました。

でも、今イチやっぱりわからずです!すみません。とほほ。

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