SHINE


1989年7月某日。

取寄せに時間が掛かっていた本がやっと入荷したと連絡を貰い取りに行った帰り、家まで待てずに近くの喫茶店に入り読む事にした。
アイスコーヒーを注文して、早速本を開いた時「ちょっと良いかしら?」突然声を掛けられた。
顔を上げると、お袋と同世代位の女性が、まだ良いとも返事をしていないのに勝手に目の前の席に座る。

「難しそうな本ね。おばさんだったらそんなの開いた瞬間寝ちゃいそう。」
馴れ馴れしく話し掛けて来た女性に不信感を持ち、席を変えようと腰を上げた。
「あ〜!ちょっと待って!怪しいと思うけど、勧誘とか押し売りでは無いの。直ぐに用事は済むから、少しだけ、少しだけでいいから話聞いて貰えないかな?」
テーブルから身を乗り出して、俺のシャツを掴んで引き留めを図る。その図々しいまでのパワーに気圧され腰を下ろした。

「ありがとう。」
ニッコリ微笑む。先程はお袋と同世代位と思ったが、笑うとそれよりも若く、いや幼く見える不思議な人だ。

「ねぇ、今の自分ってどう思う?」
「質問の意図が分かりかねます。」
冷たくあしらう。だが、女性はめげない。
「え〜、IQ200の天才なのに?それ位汲んでよ。」
天才だとか関係無いだろ。んな事言われても困る。てか、この人初対面だよな。何で、IQ200なんて分かるんだ?
「困ってる?でも、たまには困るのもいいものよ。」
こちらの怪訝な顔などお構いなしに反応を楽しんでいる。
「何でも出来て完璧、見た目も良いし、家だって裕福で何不自由無い。でもどこか窮屈で満たされ無い。違う?」
女性の一方的な見解だが、間違ってはおらず何も返せず押し黙る。そんな俺を満足そうに見つめる。
「当たりかな。でもね、もうすぐそれが一変する様な出会いがあるわ。まさに運命!」
頬に手を当て、「きゃー!素敵‼」身をくねらせ暫し自分の世界に入る。ある程度満足したのだろう、こちらの世界に戻りまた続ける。
「今まで経験した事の無い困難ばかりで、正直戸惑うと思う。自分にこんな感情があったのかって気付かされて驚く事になるだろうし。」
うふふと意味深に笑う。
「あっ!悪い事だけじゃ無いのよ?本来の自分を出せる、かけがえのない相手よ〜。貴方が欲しがっているもののキッカケも与えてくれるわ。安心して思う存分振り回されて頂戴♪…だから、」
笑顔から一転、真剣な顔になって、
「絶対、絶対手放さないで。おばさんからは、それだけ。お邪魔してごめんなさい。」
一方的に喋り続けた女性はスッと席を立った。俺は初対面だが相手は自分を良く知っている感じでフェアじゃない。名前くらいは名乗ってくれと言おうとした時、
「お待たせしました。アイスコーヒーです。」
目の前にコースターを置きその上にグラスを乗せる。
目を離したのは一瞬だったのに、もう女性は何処にも居なかった。何だったんだろう。俺は夢でも、見たのか。

普段の俺ならくだらないと一蹴する様な話。でも、やたら自信あり気に言い放った彼女の『もう直ぐやってくる運命の出会い』とやらを待ってみるのも悪く無いかな。不思議とそんな気になっていた。




りん
2016年05月05日(木) 17時47分42秒 公開
■この作品の著作権はりんさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、りんと申します。
二次小説の世界にすっかり魅力されて、憧れのブロガー様方が沢山投稿されてきたこちらに自分も書いてみたいと、文章力も無いのに無謀にも書いてしまいました^_^;

このお話は、作中から分かりにくいかも知れませんが、入江くんと琴子ママのお話です。時期も告白前で、何となく夏がいいと思い設定しました。一人でも読んで下さる方が居たら幸いです。

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ちゃみ様
コメントありがとうございますm(_ _)m
まさか私の作品に感想頂けるとは思っていなかったので嬉しいです!
これを励みに調子に乗って開設したブログも頑張れそうです(T ^ T)本当にありがとうございました!
りん ■2016-06-23 23:03:52 221.29.95.134
イタキス大好きで、いまじゃ二次の世界でイリコトワールドに嵌り癒され続けています(読み専門♪)!!
ぜひイリコトワールドを今後も書き続けてください!!!
ちゃみ ■2016-06-02 17:44:18 122.255.214.62
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