すのものの「純正律について」(その1B)

このページは、試行錯誤の段階のものも含んでいる。

増音程などの音程を定める試み

以下のような試みを行なってみたが、 長短の三度と六度、完全四度、完全一度、完全五度以外は使わないほうがよいようなので、 取り消し線つきとした。表も取り消しである。

ここまでに出てきた音程をまとめ、さらにいくつかを追加しよう。 「完五」は「完全五度」、「長三」は「長三度」、「短三」は「短三度」である。 完全五度+長三度=長七度、などは納得されるであろう。 長三度+長三度=増五度、短三度+短三度=減五度である。 増二度は、あとで、短調の第六音と半音高められた第七音との間の音程として現れる。
######################################################
 FisCisGisDisAisEisHisFisisCisisGisisDisisAisisEisis
DAEHFis
25/18
増四
Cis
25/24
増一
Gis
25/16
増五
Dis
75/64
増二
AisEisHisFisisCisis 
 FCGD
10/9
長二
A
5/3
長六
E
5/4
長三
H
15/8
長七
FisCisGisDisAisEis
DesAsEsB
16/9
完七
F
4/3
完四
C
1
完一
G
3/2
完五
D
9/8
完二
AEHFisCis 
 FesCesGesDes
16/15
短二
As
8/5
短六
Es
6/5
短三
B
9/5
短七
FCGDAE
DesesAsesEsesBes
128/75
減七
Fes
32/25
減四
Ces
48/25
減一
Ges
36/25
減五
DesAsEsBFC 
 FesesCesesGesesDesesAsesEsesBesFesCesGesDesAsEs
赤字で書いた「完全二度」「完全七度」は、普通の楽典では見られない用語であるが、 基準点の C に近いこれらの音に名前がないのはまずかろうと、 仮に名づけてみた。 (歴史的には、9/8 を「大全音」、10/9 を「小全音」と呼ぶようである。)

上の表は、最初にとった行に「完全〜度」が並び、 その上に「長〜度」、下に「短〜度」、 それらの上下に「増〜度」「減〜度」が並ぶので気持がよく、 やや適当に名前を付けてしまったが、「増〜度」と「減〜度」には意味がないかもしれない。 完全五度、長三度、短三度を純正にとるのが純正律であり、 「増〜度」「減〜度」には純正はあり得ないからである。 増二度は、C のすぐ上の行の Cis を指すべきかもしれない。 後述するように、G-dur から D-dur に転調して C が Cis になるときは、この Cis に変わる。

純正律による和音伴奏

上の(平面の)図の形に鍵盤を並べた楽器で、 ある鍵を押すとその音が何オクターブにもわたってユニゾンで奏される、 というものを作れば、(通常は)三つの鍵を同時に押すことで、 純正律による和音伴奏が可能である。

第七音も重ねた四和音を使いたいなら、 鍵盤とは別のあるボタンを押すと第七音も出る、というようにできるだろう。

同じ音名をもつ複数の鍵があるが、どの鍵を選ぶかは、以下で述べる。

純正律で作曲・演奏するには(その1)

和声進行に共通音がある場合は、 何も書かなければその共通音は同じ高さにとるとし、 そうでない場合はなんらかの形で指示をする。

以下、C 上の長三和音は「C 長」、C 上の短三和音は「c 短」と書く。 また、四和音ではなく、三和音で考える。 四和音を使う場合については、拡張のしかたは自明なので、 各自で考えられたい。

C 長 と共通音のある和音をあげてみよう。

################
FisCisGisDis
 A[E]H 
F[C][G]D
 AsEsB 

三和音は、 その三つの四角形が一点に集まっている、 中心の「T字」あるいは「逆T字」の点で決まる。 C, E, G を合わせた「品」型の周囲の、 そのような点の数を数えると十二である。 F 長、f 短、As 長、c 短、Es 長、g 短、 G 長、e 短、E 長、cis 短、A 長、a 短、の十二個。 d 短 が含まれないことに注意。

c 短 についても同様のことを行なってみよう。

################
 AEH 
F[C][G]D
 As[Es]B 
FesCesGesDes

F 長、f 短、As 長、as 短、Ces 長、es 短、 Es 長、g 短、G 長、e 短、C 長、a 短、の十二個。 B 長 が含まれないことに注意。

付) 上の図では、共通音のある三和音に使われない音は地の色を消し、 文字を薄くしておいた。 平均律でいえば、 一つめの図には、Fis = Ges 以外の音はすべて現れている。 その代わり、Gis = As がダブっている。 二つめの図では、Des = Cis 以外の音はすべて現れ、 H = Ces がダブっている。

C-dur の場合

C-dur の曲で、和音として I, II, III, IV, V, VI, すなわち、C 長、d 短、e 短、F 長、G 長、a 短 だけを使った曲の場合、 次の音があれば演奏できる。
##################
DAEH 
 FCGD
D が二つあるが、上の行のものは d 短 で、下の行のものは G 長 で使う。

※※ ピタゴラス音律なら次のようになる。
################################
 FCGDAEH 
この(ほぼ)右半分の D から H を、 シントニック・コンマだけ低い、一つ上の行の音で置き換えたのが純正律、 ということになる。(D は両方の行に現れることになる。)

音階をなすように並べて、隣りあった音の間の周波数比を求めると、次のようになる。
################################
C
1
D
10/9
E
5/4
F
4/3
G
3/2
A
5/3
H
15/8
C
2
D
9/8
 10/99/816/159/810/99/816/15 
9/810/9
いわゆる全音に二種類ある。 完全五度の二倍なら 9/8, 完全四度あがって短三度おりるなら 10/9 である。 後者は長二度と呼ばれるのにふさわしいであろう。 前者は、仮に名をつけるなら、「完全二度」ではあるまいか。 半音は 16/15 である。これが短二度である。 前にみた増一度とは異なる音程になっている。

※※ 9/8 は 203.910001... セントに、 10/9 は 182.403712... セントに、 16/15 は 111.731285... セントにあたる。

音程を一覧にしてみよう。
##################################
## C
1
DE
5/4
F
4/3
G
3/2
A
5/3
H
15/8
##10/99/8
##C
1
1
完一
10/9
長二
9/8
完二
5/4
長三
4/3
完四
3/2
完五
5/3
長六
15/8
長七
##D10/99/5
短七
1
完一
81/80
 
9/8
完二
6/5
短三
27/20
 
3/2
完五
27/16
 
##9/816/9
完七
80/81
 
1
完一
10/9
長二
32/27
 
4/3
完四
40/27
 
5/3
長六
##E
5/4
8/5
短六
16/9
完七
9/5
短七
1
完一
16/15
短二
6/5
短三
4/3
完四
3/2
完五
##F
4/3
3/2
完五
5/3
長六
27/16
 
15/8
長七
1
完一
9/8
完二
5/4
長三
45/32
 
##G
3/2
4/3
完四
40/27
 
3/2
完五
5/3
長六
16/9
完七
1
完一
10/9
長二
5/4
長三
##A
5/3
6/5
短三
4/3
完四
27/20
 
3/2
完五
8/5
短六
9/5
短七
1
完一
9/8
完二
##H
15/8
16/15
短二
32/27
 
6/5
短三
4/3
完四
64/45
 
8/5
短六
16/9
完七
1
完一
二つある D のうち、どちらか片方は平均律で見慣れた音程となる。 F と H の音程は前の表の増四度ではない。完全五度×2+長三度だからである。

II の和音、すなわち、d 短 を使わないと決めるなら、 鍵盤楽器の白鍵を、 この節の最初の図から左上の D を除いた音に調律して演奏することが可能である。 これを「純正律の C-dur」と言うこともあるようである。 (黒鍵をどのように調律するかは、ほかにどのような和音を使うか次第である。)

II の和音を使うときには、注意が必要である。 I-VI-II-V-I という和声進行では、和声が変化する際、常に共通音がある。 しかし、前の節に述べたように音を選ぶと、 上の図で示した八つの音以外が出てきて、 最後の和音の音程が最初の和音の音程と違ってしまう。
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD

上の図の八つの音だけで演奏するには、 次のように音程をとることになる。 これは、 外崎幹二・島岡譲著「和声の原理と実習」(音楽之友社、1958 年) で II-V の進行では共通音があっても同じ声部におかない、 と読んだこととつじつまが合う。
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
;;;;;;;;;;;;;
 EHFisCisGisDis
CGDAEH 
 EsBFCGD
その本によると、II-V の進行では、 バスの D は G に、上三声の D は H に、F は D に、A は G に進むらしいが、 D → G は完全四度ではない。 D → H, F → D はピタゴラス音律での短三度下降であって、 純正律の短三度ではない。

和音を純正律にしようとすると、 旋律がピタゴラス音律になることがある、ということであろう。

c-moll の場合

I, III, IV, V, VI, すなわち、c 短、Es 長、f 短、g 長、As 長 だけを使うなら、次の音だけで足りる。
################
   H 
FCGD
 AsEsB 
VII, すなわち、B 長 も使うなら、これだけでは足りない。 上の図の B, D, F は「品」型に並んでいないからである。

音階をなすように並べて、隣りあった音の間の周波数比を求めると、次のようになる。
################################
C
1
D
9/8
Es
6/5
F
4/3
G
3/2
As
8/5
H
15/8
C
2
B
9/5
 9/816/1510/99/816/1575/6416/15 
9/810/9
75/64 は、B を H に高めたために出てきた音程である。

次の、 左の表では、F が、D, B, H の三つの音と、名のある音程にならない。 右の表では、F として 27/20 をとった場合も書き足してみた。 これで B 長 が使えるようになるが、 主音の C と完全五度をなさなくなってしまう。
##################################
## C
1
D
9/8
Es
6/5
F
4/3
G
3/2
As
8/5
B
9/5
H
15/8
##C
1
1
完一
9/8
完二
6/5
短三
4/3
完四
3/2
完五
8/5
短六
9/5
短七
15/8
長七
##D
9/8
16/9
完七
1
完一
16/15
短二
32/27
 
4/3
完四
64/45
 
8/5
短六
5/3
長六
##Es
6/5
5/3
長六
15/8
長七
1
完一
10/9
長二
5/4
長三
4/3
完四
3/2
完五
25/16
増五
##F
4/3
3/2
完五
27/16
 
9/5
短七
1
完一
9/8
完二
6/5
短三
27/20
 
45/32
 
##G
3/2
4/3
完四
3/2
完五
8/5
短六
16/9
完七
1
完一
16/15
短二
6/5
短三
5/4
長三
##As
8/5
5/4
長三
45/32
 
3/2
完五
5/3
長六
15/8
長七
1
完一
9/8
完二
75/64
 
##B
9/5
10/9
長二
5/4
長三
4/3
完四
40/27
 
5/3
長六
16/9
完七
1
完一
25/24
増一
H
15/8
16/15
短二
6/5
短三
32/25
減四
64/45
 
8/5
短六
128/75
 
48/25
長七
1
完一
##################################
## C
1
D
9/8
Es
6/5
FG
3/2
As
8/5
B
9/5
H
15/8
4/327/20
##C
1
1
完一
9/8
完二
6/5
短三
4/3
完四
27/20
 
3/2
完五
8/5
短六
9/5
短七
15/8
長七
##D
9/8
16/9
完七
1
完一
16/15
短二
32/27
 
6/5
短三
4/3
完四
64/45
 
8/5
短六
5/3
長六
##Es
6/5
5/3
長六
15/8
長七
1
完一
10/9
長二
9/8
完二
5/4
長三
4/3
完四
3/2
完五
25/16
増五
##F4/33/2
完五
27/16
 
9/5
短七
1
完一
81/80
 
9/8
完二
6/5
短三
27/20
 
45/32
 
##27/2040/27
 
5/3
長六
16/9
完七
81/80
 
1
完一
10/9
長二
32/27
 
4/3
完四
25/18
増四
##G
3/2
4/3
完四
3/2
完五
8/5
短六
16/9
完七
9/5
短七
1
完一
16/15
短二
6/5
短三
5/4
長三
##As
8/5
5/4
長三
45/32
 
3/2
完五
5/3
長六
27/16
 
15/8
長七
1
完一
9/8
完二
75/64
 
##B
9/5
10/9
長二
5/4
長三
4/3
完四
40/27
 
3/2
完五
5/3
長六
16/9
完七
1
完一
25/24
増一
H
15/8
16/15
短二
6/5
短三
32/25
減四
64/45
 
36/25
減五
8/5
短六
128/75
 
48/25
長七
1
完一

純正律で作曲・演奏するには(その2)

その1で述べたことを再考しよう。

################
FisCisGisDis
 A[E]H 
F[C][G]D
 AsEsB 

C 長 から見ると、 F 長、f 短、As 長、c 短、Es 長、g 短、 G 長、e 短、E 長、cis 短、A 長、a 短 の十二個が、共通音のある和音であった。 これらを、 根音が行をどれだけ上下に動くかで分類し、 根音を主音とする長調の調号におけるシャープの数をあげると、 次のようになる。 (短三和音でも、長調の調号を考える。念のため。)
上へ2行cis 短
+7
上へ1行e 短E 長A 長a 短
+4+3
移動なしF 長f 短c 短g 短G 長
-10+1
下へ1行As 長Es 長
-4-3

c 短 についても同様のことを行なってみよう。

################
 AEH 
F[C][G]D
 As[Es]B 
FesCesGesDes

F 長、f 短、As 長、as 短、Ces 長、es 短、 Es 長、g 短、G 長、e 短、C 長、a 短 の十二個であった。

上へ1行e 短a 短
+4+3
移動なしF 長f 短g 短G 長C 長
-1+10
下へ1行As 長as 短es 短Es 長
-4-3
下へ2行Ces 長
-7

二つの表は、次のようにまとめられる。
上へ2行+7
上へ1行+3, +4
移動なし-1, 0, +1
下へ1行-4, -3
下へ2行-7

この表が頭にはいれば、 前の図はなくても、どの行の音を選べばよいかわかるようになると思われる。

前に考察した、C-dur における I-VI-II-V-I を考えよう。 これは C 長, a 短, d 短, G 長, C 長 なので、 共通音を同じ高さにとっていくと、 上へ1行、移動なし、移動なし、移動なし、移動なしとわかる。 よって、1行上の C に行きついてしまうのである。

転調

C-dur から G-dur に転調すると、使う音は次のように変わる。
######################
DAEHFis 
 FCGDA
######################
DAEHFis 
 FCGDA
F が消え、代わりに Fis が加わるのは平均律の場合と同じだが、 二種類あった D のうちの一つが消え、A が二種類に増える。 また、F からみた Fis は 135/128 であり、増一度とは異なる。

※※ この音程 135/128 は 92.178716... セントにあたる。 等分平均律の 100 セントよりも小さい。

C-dur から a-moll に転調すると、使う音は次のように変わる。
##################
 FisCisGisDis
DAEH 
 FCGD
##################
 FisCisGisDis
DAEH 
 FCGD

C-dur から d-moll へ転調するときは、気をつけないと、 C-dur で使われる二つの D のうち、 どちらを主音とする d-moll になるのかが違ってきそうである。

リディア旋法の実例

ベートーベン「弦楽四重奏曲第十五番イ短調」第三楽章はじめの、 リディア旋法による部分を純正律で演奏するにはどのように音程をとればよいか、 考察する。 この部分は、F を主音とするリディア旋法なので、 平均律でいえば使われる音は C-dur と同じである。 F-dur ならフラットが一つついて H が B になるのに対し、 この音楽では H のまま使われる。

F, C, G 上の長三和音、および D 上の短三和音が使われているので、 純正律でも使われる音は C-dur と同じであるとわかる。 D が二つあることに注意されたい。 G の完全五度上の D と、F の短三度下の D である。

問題が発生するのは第 6 小節。 一二拍めは D 上の短三和音 D-F-A である。 三四拍めでは第一バイオリンだけになり、A-D と動くので、 この D も F の短三度下の F である。

第 7 小節の二拍めは第一バイオリンが F, 第二バイオリンが D であり、 第二バイオリンはタイで三拍めまで D をのばし、 そこに他の楽器が G と H ではいってくる。 すると、この D は G の完全五度上の D でなければならない。 ということは、二拍めの F は、普通の F ではなく、 次の図の右下の F である。
####################
DAEHFis
 FCGD 
DesAsEsBF
四拍めは G, H, D, F の和音なので、F を G の 7/4 にとれば、 この F は上の図のどちらの F とも異なってくる。 二拍めと四拍めなので、それほど目立たないかもしれない。

ここ以外は、普通の長調・短調と同じように音程をとることができる。

普通の鍵盤楽器では純正律でいくつの調を演奏できるか?

C-dur を演奏するだけでも、D に二種類の音程が必要となり、 普通の鍵盤楽器では V と II の和音をともに演奏できるような調律ができないことはすでに見た。 しかし、II の和音を使わないと決めれば、C-dur の演奏は可能である。 では、その調律と両立できる、別の長調はあるだろうか?

C-dur の、II 以外で使われる音は次の通りだった。
##########################
GDAEHFis 
 BFCGDA
GesDesAsEsBF 
十二の鍵のうち、七つが使われている。 よって、別の長調が演奏できるとしたら、 これらといくつかの鍵を共有しなければならない。 この台形のかたちを記憶しておこう。

左上の D は右下の D と重複するため使用できない。 右下の A は左上の A と重複するため使用できない。
##########################
GDAEHFis 
 BFCGDA
GesDesAsEsBF 
このため、C と同じ行を主音とする長調は演奏できないことがわかる。 (左に動けば D にぶつかり、右に動けば A にぶつかる。)

一行下に上述の台形を重ねることを考えれば、重ね方は次の二種類である。
##############################
CGDAEHFis 
 EsBFCGDA
CesGesDesAsEsBF 
または
##############################
CGDAEHFis 
 EsBFCGDA
CesGesDesAsEsBF 
左は Ces = H が、右は F が障害となり、それ以上動けない。 すなわち、Des-dur または As-dur のみが C-dur と両立する。 短二度上、または長三度下である。 この二つが両立しないことは、 上の考察からもわかるし、使われる B の音程が違うことからもわかる。

一行上に重ねるのは、対称性に基づいて考察すれば、 短二度下、または長三度上、すなわち H-dur または E-dur でのみ可能、とわかる。
##############################
HFisCisGisDisAisEis 
 DAEHFisCisGis
BFCGDAE 
または
##############################
HFisCisGisDisAisEis 
 DAEHFisCisGis
BFCGDAE 

それらの調律で演奏できる短調は、順に f-moll, c-moll, e-moll, e-moll のみである。 組にして示せば 「C-dur, Des-dur, f-moll」、 「C-dur, As-dur, c-moll」、 「C-dur, H-dur, e-moll」、 「C-dur, E-dur, e-moll」 で、結局、二つのパターンのみ、ということになる。

右のケースでは、Ges = Fis または B = Ais が使われていないが、 どちらに調律しても、演奏できる調は増えない。 ただし、V の和音を使えない短調でもよいと考え、Fis または Ais に調律すれば、 e-moll, gis-moll も演奏できるようになる。 つまり、「C-dur, As-dur, c-moll, e-moll」、 「C-dur, E-dur, e-moll, gis-moll」 が可能となる。

これらは、ちょっと意外な組み合わせである。

同様にして、c-moll と両立できる短調を考えてみよう。
############################
 GDAEHFis 
EsBFCGDA
 GesDesAsEsBF 
EsesBesFesCesGesDesAs
同じ行で左右にずらすことは、左は B が、右は F が障害になってできない。 一行下に重ねようとすると、Eses = D と Ces = H が障害となり、できない。 短調だけが両立することはない、ということがわかった。

上で、C-dur と両立する調を調べたとき、c-moll と e-moll が両立したが、 それは e-moll の V の和音が使えなくてもよいとしたからだった。 ここでも、c-moll の V の和音で使う H を使わないと決めれば、 代わりに Ces を使うことができ、des-moll または as-moll が使えるようになる。)
############################
 GDAEHFis 
EsBFCGDA
 GesDesAsEsBF 
EsesBesFesCesGesDesAs
または
############################
 GDAEHFis 
EsBFCGDA
 GesDesAsEsBF 
EsesBesFesCesGesDesAs
それぞれ、c-moll, des-moll, As-dur および c-moll, as-moll, As-dur が演奏できる。 後者では、Bes を使うことにより、Fes-dur の演奏も可能になり、 全体を長三度あげれば e-moll, c-moll, C-dur, As-dur となって、 長調のほうで論じたのと同じものとなる。 前者を長三度あげてみれば、e-moll, f-moll, C-dur となる。

演奏中に足でスイッチを押すと調律が変わる鍵盤楽器は可能か?

普通のピアノやオルガンのような鍵盤をもった楽器で、 足で押すスイッチが前の図のように並んでおり、 押されたボタンの調に調律が変わる、 というものはできないだろうか? 長調の II の和音を使うときは、 一時的に完全五度下の調に変えることになろう。

バイオリンの調律

バイオリンにとっては、D-dur と d-moll が最も鳴りやすい調性と言えよう。 この二つの調性で使われる音をあげると、次のようになる。
##################
EHFisCis 
 GDAE
EsBFC 
だから、純正律で D-dur, d-moll の曲を演奏する場合、 四本の弦 G, D, A, E の間隔は、純正律の完全五度に合わせるのが正しい。 ただし、E の上の短三和音を弾くときは、E 線の開放弦を使ってはならない。 (バッハの「大シャコンヌ」には、 E 線の開放弦を使って E 上の短三和音を弾く箇所がある。 ビオラ編曲版を見る限りでは。)

E-dur, e-moll の場合、
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FisCisGisDis 
 AEHFis
FCGD 
となるので、A 線と E 線、G 線と D 線は完全五度に合わせるが、 D 線と A 線は完全五度に合わせず、E 線と G 線が短三度をなすよう合わせる、 のかもしれない。

C の上の長三和音の中でメロディーが C-D-E と動く場合、 非和声音の D をどの高さにとるべきかは、私にはわからない。

減三和音・増三和音の音程をどうとったら“純正”か、はわからない。 純正律は、長三和音・短三和音の音程を純正にとることで決まるものだからである。 ただし、H-D-F の減三和音の場合、下に G が省略されているとみなし、 5:6:7 ととることも考えられる。

あとがき

このページの表は、すべて html の table であり、私が手作業で書いたものである。 周波数比の計算には Windows の電卓を利用したが、手計算である。


すのもの Sunomono