浦島太郎     


むかしむかし、あるところに浦島太郎という名の漁師の若者がおりました。

        (中略)

そしてあっという間に、白いひげのお爺さんになってしまいました。
めでたし、めでたし。




さて諸君、
この話、なぜお爺さんになって「めでたしめでたし」なのか、変だと思ったこと、ない?

え?ないの? 

じゃあ、亀ってもしかしたらタイムマシンだったんじゃないかって考えたことない?

え? それもない。

それじゃあもしかして、乙姫様はプレゼントを渡しておきながら何で開けてはいけないって言ったのか、すごく不思議だと思ったこともない?

・・・・・・ない、

ハア、

不思議な子たちだねキミたちは。

私なんか、3歳のころからずっと不思議で不思議でしかたなかったのに・・・・。
まあいいや。

さて物語の本質について話をしよう
この昔話は、謎が三つで教訓が三つだ。


まず第一の謎、
なぜあっという間に時がたってしまったのか。

浦島太郎が竜宮城に行ったのが16歳のとき、戻ってきたらざっと50年の月日が経っていた。もし浦島が竜宮へ行かなかったとしたら、その間の漁師としての彼の半生はかなり平凡なものだったはずだ。時代が時代だし、亀のために金を出すといった人の良さでは運を強引に引き寄せることもできなかっただろうからね。

しかしその平凡な人生にも幸と不幸はある。どのくらいだろうか?

ざっと見積もって50年の間に彼が味わったはずの「幸せな時間」は、全部寄せ集めると3年ほどになる。根拠はないがたぶんそのくらいだ。キミたちにあわせて言えば、生まれて初めて東京ディズニーランドにいったとか彼女に告白してOKが出たとき、そして腐った野菜みたいに簡単に捨てられるまでの2週間とかそういうものだね。
もちろん不幸だって全部集めても3年分になるかどうか。

あとはたいてい、少々幸せだったり少々不幸だったりする平凡な年月に過ぎない。けれど、その平凡だったり不幸だったりする普通の時間を、浦島は全部捨ててしまった。あるはずの苦しみや退屈を、未経験なまま全部終えてしまった。その上で、本来は飛び飛びにしか存在しないはずの幸福を、全部一箇所に寄せ集めて竜宮で暮らし終えてしまったんだ。
だから50年間があっという間だったんだね。

教訓:「人生はあざなえる縄の如し」
     (人生のオイシイところだけすくって生きようたって、そうはいかない)






第二の謎。
なぜお爺さんになって「めでたしめでたし」なんだろう。
浦島が村に戻ってきたとき、村はどうなっていた?

・・・・・・そうだね。
昔の仲間たちはみんな年老いて、浦島太郎のことなんか覚えちゃいなかった。
覚えていた人も、目の前の若者を浦島太郎と認めることはできなかった。
それだけのことさ。

浦島太郎は玉手箱を開いて十分にお爺さんになり、もう一度みんなのところへ行って「私は50年前に行方不明になった浦島太郎だよ」と語ったに違いない。すると老人たちは顔を寄せ、その見知らぬ老人の中に古い友人の面立ちを見つけ出す・・・・・・
「おやおやホントに、これは太郎だわサ」
「よくもまあ、生きていたもんだ」
とかね。
それからみんなに受け入れられ、浦島は老人仲間として幸せに暮らすことになる。
だから「めでたしめでたし」というわけさ。

教訓:人は他人と同じである必要はない。しかしあまりにもかけ離れてしまうのも考え物だ。ある程度他人と一緒に、同じように年をとっていかないと私たちはとんでもない浦島になってしまう。

ね、そこの○○君、キミは今ただボーっとしているけど、私の話なんかそっちのけでTVゲームのことでも考えていたんじゃない? ゲームもいいけど、もう周りのみんなは受験生モードに入ってるんだよ。キミ自身の手で玉手箱を開けて、さっさと早く、「あっという間に白いハチマキの受験生になりました、メデタシメデタシ」としないと、だれも相手にしてくれなくなっちゃうよ。



さて、これで今日のお話はおしまい。

え、もう一つの謎?

あ、ゴメン、ゴメン。
三つ目の謎、ね。




乙姫様は
プレゼントを渡しておきながら何で「開けてはいけない」って言ったのか、ってことだったよね。


そんなの簡単でしょ。
パンドラの箱だって同じだったけど、プレゼントをしてそれを忘れてほしくなかったら「開けてはいけない」って言うのが一番なんだ。
そんなこと言われると気になって気になって、絶対忘れることはないでしょ? 
ちょうど噂を広めたいときに「だれにも言っちゃダメだよ」ってオマジナイかけるのと同じだよね。


教訓:「開けさせたいなら適度に封印」