金の斧・銀の斧


 むかしある男が池のそばで木を切っていたところ、うっかり手を滑らせて持っていた斧を池に落としてしまいました。
 斧がないと仕事ができないので、男は困ってシクシクと泣き出してしまいました。
 すると池の中から女神が現れ、ぴかぴか光る金の斧を見せて言いました。
「あなたが落としたのは、この斧ですか?」
 男は答えます。
「いいえ、違います。私が落としたのは、そんなに立派な斧ではありません」
 すると女神は、次に銀の斧を出しました。
「では、このオノですか?」
「いいえ。そんなにきれいな斧でもありません。私の斧はもっとみすぼらしい使い古した鉄の斧です。」
「では、これですか?」
 神さまが3番目に見せたのは、古く汚い斧でした。
「そうです。そうです。それが私の斧です」
 すると女神は感心して、
「そうですか、あなたは正直な男ですね。それではこの金と銀の斧もあなたにあげましょう」
と言いました。



 さて、
 男は3本の斧を持って歩きはじめましたが、すぐに立ち止まり、振り返って池まで引き返すと再び女神を呼び出したのです。

「女神さま、女神さま。こんな重くて扱いにくい金の斧と銀の斧は、置いて行きます。
 金や銀じゃ軟らかくて使い物になりませんし。それに金なら今だって困っているわけでもないし、木を選んでそれを切り、町で売る生活も悪くない。金や銀の斧は、そういうのが宝物だっていう人たちに上げてください。私にとっては、この使い慣れた斧の方がよほど宝物ですから。
 本当に拾ってくださって、ありがとうございました」


 そう言うと男は金と銀の斧を池のほとりに置き、まるで何ごともなかったように村に帰っていくのでした。

 お金が欲しくない生き方だってあるのです。