桃 太 郎


 桃太郎って、あれはあれで厄介な話だよね。そんなふうに思ったことないかい? 
 私は「桃太郎」について、いろいろ不思議なことばかりあるので、いつも困ってしまうんだよ。今日は一緒に考えてほしいのだけど、君たちも、桃太郎って変だなあと考えたことはあるよね。

 たとえば、最初に桃を切ったとき、なぜおばあさんは桃太郎を傷つけないようにうまく切れたのかとか・・・。

 だってそうでしょ? あんな大きな桃を切るわけだから、普通は「エイッ、ヤア」と一気に包丁を入れそうなものを、「元気な赤ん坊が出てきました」というのだから、赤ちゃんを傷つけずに桃を切ったわけだ。どうしてそんなにうまく切れたのだろう。
 最初から赤ん坊がいるって知っていたのかな?
 ねえ、君たちはそんなふうに考えたこと、あるよね?
 
 あるいはまた、桃太郎は大きくなって鬼が島へ行くわけだけど、どうして山の中の桃太郎が鬼が島のことを知ったのだろう、どうして鬼退治に行く気になったのか、不思議だなって、これもそう思うよね。本当になぜだろう。

 まだまだ不思議はある。

 桃太郎はおばあさんにキビ団子を作ってもらって、背中に「日本一」という旗を立てて出かけるわけだけど、鬼退治も何もしてないのに、なぜ桃太郎は最初から「日本一」なんだろう。
 自分から「日本一」だと言い出したとしたら、これはずいぶん傲慢だ。普通はそんなふうに言わない。

 そして、この物語の最大の謎。
 イヌ・サル・キジの三匹が、キビ団子ひとつに命をかけたのはなぜかってことだ。

 いくらお腹が空いていたって、お団子ひとつで命をかけたのでは、とんでもない大ばか者だろう。どんな場合も簡単に命なんかかけちゃあいけない。しかも、三匹が三匹とも、迷わず命を預けてしまうのだ。不思議だね。
 

 さて、最後の謎。

 鬼が島と言うからには鬼がうじゃうじゃいたはずなのに、桃太郎と3匹で全部やっつけてしまった。ひとりと3匹はこれが最初の戦いなのに、なぜこんなに強かったのだろう? そんなことありえないじゃないか。
 
 さて、ちょっと考えただけで思いついた五つの謎、これを全部書いてみるよ。

 「なぜ、おばあさんが桃を切ったとき、桃太郎はけがをしなかったのだろう」
 「桃太郎は、どんなふうにして、鬼が島のことを知ったのだろう」
 「なぜ、何もしないうちから『日本一』などという旗を立てたのだろう」
 「なぜ三匹はキビ団子ひとつで命をかけたのだろう」
 「なぜ桃太郎たちはあんなに強かったのだろう」
 

 ここに一冊の本がある。
 『ももの子たろう』と書いあるけど、もちろん桃太郎の話だ。
 実はこれを読むと、この五つの謎の答えがみんな書いてあるんだよ。
 
 まず一番「なぜ、おばあさんが桃を切ったとき、桃太郎はけがをしなかったのだろう」

 実はこの本の6ページこんなふうに書いてある。
 
「じいさま じいさま。きょう 川で せんたくしてたら、おっきな ももこが ながれてきたで とっておいた。
はやく あがって たべてござい」 ばあさまが いうと、
「おう おう、それぁ ありがたい。」
と、じいさまも おおよろこびで いろりばたへ あがった。
ふたりが ももを きろうとしたら、これぁ これぁ、これぁ、ほうちょうを あてるか あてないうちに、ももが じゃくつとわれて、なかから おとこの ぼっこ(あかんぼう) が、ほほぎやあ ほほぎやあと うまれたそうな。
「いややあ。こら、かわいい おとこぼっこだ、たいへんじゃあ。」


 ほらね、分かったでしょ。
 おばあさんは実は桃なんか切っていなかったんだ。包丁を近づけたところで、桃太郎の方で飛び出してきたんだね。
 

 2番目の「桃太郎は、どんなふうにして、鬼が島のことを知ったのだろう」
 これについても11ページに答えがある。見てみるよ。
 
 ある日のこと
 ももの子たろうが おもてであそんでおると、みたこともないとんびが 一わ わをかいて、

   ももから うまれた
   ももの子たろうこ やい
   七つやまこえ 七つ たにこえ
   おにがしまさ いけっちゃ
   おにたいじに いけっちゃ
   ひんごろごろ ひんごろ

 と なくのだそうな。
 

 分かったね。桃太郎が自分で考えて鬼が島に行くことを決めたわけじゃない。トンビが行けといったから行くことに決めたんだ。
 トンビは神様のお使いだったのかもしれないね。
 

 さて、3番目のなぞ、「なぜ、何もしないうちから『日本一』などという旗を立てたのだろう」
 実はね、この本を読んでいてびっくりした。さて、見てみるよ。次のページだ。


 ホラ。
 答えは実は「日本一」なんて書いてない。

 よく見るとなんて書いてあるかな?
 「ももの子たろう」だ。
 ただ、名前が書いてあるだけなんだね。まだ何もしてないし、有名でもないから、まず名前を書いて出かけた、そういうことかな?
 
 もちろん、この旗に「日本一」と書いてある本もある。何かの間違いで「ももの子たろう」の旗が「日本一」の旗に変わってしまったわけだけど、これには理由がある。でもその前に、桃太郎の最大のなぞ、
 「なぜ三匹はキビ団子ひとつで命をかけたのだろう」
 を調べておこう。

 では、最初の動物、イヌが登場するころを読んでみる。

 いくがいくが むらはずれまで いくと、わんわんと いって いぬが きた。
 「ももの子たろうさん、ももの子たろうさん。かたな さして、はた もって、どこ いきなさる。」
 「おいら、おにがしまさ おにたいじに。」
 「おこしの ものは なんでござる。」


 ここからが大切だよ。

 「これ、にっぼん一の きびだんご。たぺて すすめば百人りき。」
 「ひとつ ください、おともする。」
 そこで、いぬは きびだんごをもらって たべて、おともになったそうな。

 分かったかい。このキビ団子はただの団子ではないんだ。これを食べれば「百人力」つまり百人の大人と同じくらいの力が出る特別なお団子なんだ。だからイヌは「ひとつください、おともする」というのだ。

 百倍にパワーアップする団子がもらえるなら、桃太郎についていってもいいと思ったわけさ。
 桃太郎はサルにもキジにも同じことを言う。

 「これ、日本一のキビ団子、食べて進めば百人力」
 
 これで全部のなぞが解決。

 「なぜ桃太郎たちはあんなに強かったのだろう」

 百人力の動物が3匹と、もちろんキビ団子を食べているはずの百人力の桃太郎。合わせて4百人力が乗り込むわけだから、鬼たちが勝てるわけがない。
 
 そこで次のようになるわけだ。(26ページ)

 それでもなんでも、こっちは みんな にっぼん一の きびだんごを たぺて、百人りきに なっておる。
 なんの おにの たいしょうめと、ももの子たろうが かたなを ぬいて、
 「ええい、やあっ。」
 と やったらば、かなぼうは ぺしゃり おれてしまった。
 おまけに、いぬが かみつく、さるが ひっかく、きじは ぼっきぼっきと 目んたまを つっついたので、おにの たいしょうは もう にげることも できん。
 とうとう てをついて、ぽろんぽろと なみだを こぼして、
 「あや、ももの子たろうさま。いのちばかりは ごかんぺん ごかんべん。」
 と あやまったそうな。

 
 さて、気がついたかい。ここでも「日本一のキビ団子」って言っているでしょ。
 もしかしたら別の桃太郎の本に出ている「日本一」という旗、あれは桃太郎自身が日本一、という意味ではなくて、持っているキビ団子が日本一っていう宣伝なのかもしれないね。よくお店やガソリンスタンドにある旗と、同じなのかもしれない。

 さて、こんなふうに考えながら見ていくと、昔、読んだはずの桃太郎にもいろいろな発見がある。桃太郎だけじゃなくて、ほかの昔話でも、

 たとえば、浦島太郎はあれほど開けてはいけないと言われた玉手箱をなぜ開けてしまったのだろうとか、「あっという間におじいさん」になってしまったのに、メデタシ、メデタシというのはなぜだろうとか。そう言えば、そもそも乙姫様はなぜ開けることもできない箱なんかをなぜプレゼントしたのだろうかとか。
 「はなさかじいさん」のイヌはどこから来たのか? もともとの飼い犬が突然「宝物発掘の能力」を得ておじいさんに知らせたのかな? と、謎はいくらでも浮かんでくる。
 
 調べてみるといいかもしれないね。
 
 今日の話はこれで終わります。

 では、

 メデタシ、メデタシ。
 


参考
「ももの子たろう

作: 大川 悦生
絵: 箕田源二郎
 ポプラ社 (1967年)