人魚姫     

 だからアタシャ最初から無理だといったんだよ。
考えてもご覧。腰から下が魚の女なんて、抱く気になるかいアンタ?
人間の男の興味なんて、つまるとこ、ソレだよ。


 そもそもは始まりに間違いがあった。
助けた王子が目をさましたとき、すがるような優しい目であの子を見たって?・・・・。それにこだわってる王子も王子だが、あの子もとんだ間違いをしたものさ。
病気で気が弱ってるとき、看護婦が天使に見えたってそれはあたりまえってものだろ。ただそれだけのことサネ。
それを愛だの恋だのってやっかいなことにからめるから難しいことになる。
その場かぎり、救助感謝功労金でももらっておしまいにしておけば良かったものを・・・若い者はダメだね、愛が至高だと!! 愛がすべてだと!!
・・・愛のために死ぬほどの苦労をした者が「愛は至上だ」と叫んだらその時アタシも認めてもいい、
だけど無理だヨ、死ぬほど苦しんだ奴は山ほどいるが、本気で人に惚れて苦しんだ者は「愛がすべて」だなんて決していわない。愛なんて命を懸けるほどの値打ちはないサネ。


 つまるところ不細工な女の片思いの物語じゃないか?
 もし最後の夜、船の上で王子が殺されていたら、それこそ王子のいい迷惑だった。
かってに片思いされ、かってに人魚が人になり、かってに側で幸せに浸り、そしてかってに殺しにかかる。

 あの子のしたことで良かったのは、本当に殺さなかったことだけだね。男を満足させることもできないくせにナマイキを言ったもんだ、アタシャそういうやりかたはキライだ。


 何故、歩くたびに針を踏むような脚を与えたかって? ・・・男を知らない女はいつだってそうじゃないか? 男と一緒の時の、相手の一挙手一投足に神経をすり減らすのは処女の当たり前の反応じゃないか。人魚に分からないことを教えるには、あれ以外に方法はなかったんだよ。

お国の言葉にもあるそうじゃないか?「針のムシロを歩く」ってね、オヤ失礼「座る」ンですか?
 とんだことを、ウヒャヒャ・・・・

 声を奪ったことが分からない?
 何を話させたいんだい?美しいったって魚の声じゃ誰が喜んでくれるの?
 海の中で伝わる声はやはり魚の声だよ。これも仏心サ、

・・・オヤオヤ、今度はあの子を泡にしたのが気に入らないって言うんだね? だったらどうすればよかったンだろう? 

結局あの子はこの世界では生きていけなかったのサ。アンタたちの世界だって、猿に恋する男や魚に恋する女を許しゃしないだろう。

 あの子はキライさ。許せない娘サネ
・・・だけど優しい子だったよ、無垢でどうしようもない・・・無垢だというだけで許せない、でもいい子だった・・・堕落する前に死なせてやったのが、アタシの生涯の、一番の手柄だね?
 そうじゃないかい?