どのようにボーダーは引かれるのか。


注:以下については2000年5月に書いた。しかしその後事態は急変した。
私たちが行ってきた『全員合格の方法』は教員による「生徒の輪切り」として激しく糾弾されてきたが21世紀にいたり別の方向から解体が進められることになったのだ。

それは教員による無理な進路変更が、結局のところ高校中退を生むことにしか資さないということが明らかになったからである。ムリに別の方向を勧められた生徒が、高校に入ってから『中退』という方法で復讐するようになったのである。

一方、それまで自校存続のために公立高校との同日入試を行っていた(それによって一定数の生徒が確保できる)私立高校が、入試の日取りを公立高校から引き離すようになった。「ゆとり教育」に怯えた保護者が、私立に活路を見出す可能性を私立が捕らえたのだ。
それによって入試は多様な可能性を持つようになった。
具体的に言えば、私立の合格を確保した上で、公立の進学校を受験する可能性が、地方でも生まれたのである。
それによって、地方高校の序列は崩れたのである。

現在は十分に情報を与えた上で、万が一(本当は万が一出ない場合の方が多いのだが)の進路を確保した上で、生徒には自由に受験させる将校が進んだのである。

したがって、以下の記述については現在的な意味はない。


本来は以上の事由により、このサイトのこのページについては削除すべきだが、このまま残す。
自身が不本意な進学をさせられたという思いを今日まで抱えている大人のためである。
                                               (2006年2月)



注:以下は私(高岡)の勤務する一地方都市における進学指導を元にしたもので、そのまま他地域に援用できるものではありません。
しかし、
1、業者テストおよび大規模学習塾のデータの使用を禁じられている。
2、都道府県内において全員参加の統一模試が行われていない。

など、生徒個々の成績を受験生全体の中で比較できない場合は、いずれ似たようなものにならざるをえないと考えています。もしそうでないようでしたら、その点、ご指摘戴くとありがたいと存知ます。

                                                (2000年5月)



高校の序列化に関して、中学校の教師が積極的に関与しているという誤解は古くからあるものです。
具体的に言えば、「先生が受けさせてくれなかった」「先生に高校を決められてしまった」「先生に〇〇高校へ行けと言われた」といった生徒や保護者の訴えによって、誤解は常に強化されつづけてきました。しかし実際に、教師が生徒の進学先を決めてしまうことなどありえるのでしょうか?

たいていの人は一生に一回しか高校を受験しません。そしてその一回において、願い通りの受験と合格を果たす人はむしろ少数派です。つまり大多数は夢を完全に全うせずに最初の関門を通過するわけで、そうした不本意について、誰かが明確な説明をしなくてはならないと人々は感じるのかもしれません。


では実際に高校の序列化とは、どのように展開されるのでしょうか。

まずその前に、高校入試の全体像について概観しておかなければなりません。
希望した生徒が全員どこかの高校へ進学できるという「高校全入制」は、とりあえず定員の確保の問題です。したがって各都道府県教育委員会は、毎年全中学校の進学希望者の人数を調査し、それによって高校の定員を決定します。
これはなにも公立高校に限ったことではありません。基本的に、ほとんどの私立高校は地方公共団体の補助を受けていますから、こちらにも圧力を加え、その定員を左右することが可能です。(注1)
このようにして入学定員は決められますから、基本的に受験者数と定員は一致します。

では、そうした状況の中でA君がZ高校に合格するかどうかはどのように判定されるのでしょう?
一番簡単な方法は全県統一模試を行い、各生徒の学力を見ることです。
かつては模試の公平性を高めるために「業者テスト」(民間業者が行う統一テスト)が盛んに用いられましたが1993年の文部省通達により、「進路指導に供される業者テスト」は一切禁止となってしまいました。しかし実際には「会場テスト」などの名の元に、「進路指導には直接使用しない」という言い訳をしながら、いくつかの県では業者テストが行われてきた事実もあります(注2)
しかしそれもバレるとつぶされるイタチごっこで、全国的な流れとしては全県統一業者テストは廃止の方向で動いています。

それならば都道府県教委が統一テストをつくれば良いようなものですが、それはできません。教育委員会がつくったテスト結果を元に中学校教師が「キミならZ高校に受かるだろう」とか「あなたにはX高校は難しい」というのは、それこそ教育委員会主導の「輪切り」なのです。業者テストがあれほど広がった背景には、合否判定が一民間業者によって行われるため、判定結果や判定すること自体に関する批判を、教育委員会や学校が回避できたからでもあるのです。神奈川県のアチーブメントテストはその意味で非常に斬新なものでしたが、県教委が「輪切り」の枠組をつくっているのですから悪名は高く、1997年からは廃止されてしまっています。

では県内の学力順位といった客観データがないにもかかわらず、なぜ教師は生徒それぞれの合否を判定することができるのでしょう?
これは案外簡単なことなのです。

ある学校区に定員を200名とする5つの高校があり、そこへ進むことのできる(進学希望者100名ずつの)中学校が10校あると仮定しましょう。したがって進学希望者は1000人ということになります。

5つの高校の序列についてはすでに何十年も前から決まっています。
不況になると工業高校の希望者が増えるとか、かつては底辺校だった私立学校が進学コースを中心に序列を上げてきたといった若干の変動はあるものの、総体としてはそう変化するものではありません。

1000人の受験者のうち、トップのZ高に合格できるのは200人つまり全体の20%です。Z高の定員が200名ですから、これは確実です。その20%を各中学校は自校に当てはめるのです。つまり各中学校最上位20%まで、すなわち20番がボーダーとなります。

とは言っても、実際にはさまざまな事情により(大学進学を考えていない、あくせく勉強するのは性格に合わない、不安だから、女の子だから等々)により20番以内でも受験を回避する場合もありますので、その分を見越して、25%(25番目)に線を引くのが通例となります。
同様に2番手のY高は45%、X高は65%、W高が85%……、もちろん最底辺校と目されるV高にはボーダーは引かれません(しかしここでも不合格ということはないわけではありません)。

こうしてみてくるとひとつ大事な要素が抜けていることが分かります。
それは中学校における学校間格差の問題です。

平穏で十分な学習のできる中学校と荒れた中学校とでは学力に差があるのは当然です。しかし上記のような判定方法では学校間格差は「ないもの」として進めなければ話は始まりません。そして事実、現在の状況では学校間格差は無視され、すべての学校が同じ学力を持っているものと仮定して進路指導を進めているのです。
ここで「優秀なR中学校の28番目の生徒が受験できないZ高校に、勉強どころではなかったS中学の25番目の生徒が受験して行く不公平」を言いたててはなりません。統一模試がない以上、学校間格差というものはまったく分からないのです。あれた中学の生徒だからこそ、S中学の25番目の生徒は必死で努力し、実際に25番にふさわしい学力を持っている可能性だって低くはないのですから。
……すべては闇の中なのです。

(注1)
私の知っている、底辺校といってもいいある私立高校は、250人定員ですが毎年200人程度の受験生しかありません。したがって競争率は0.8倍ということになります。この数字は一般にいかに不人気かということのバロメーターとして見られ、志願者の数を恒常的に少なくする要因となっています。高校としては定員をせめて180人くらいにして、本当に学業に向かない20名を不合格にし、勉強しようと思うものだけを入学させることが健全な経営に繋がるのですが、何と言っても県教委は許してくれない、と嘆いています)

(注2)
山梨県教委は昨年(1999年11月18日)、県内で行われている一切の統一業者テストを禁止する措置を取りました。これによって山梨県の中学校教師は、生徒個々の相対的学力データを得られなくなりました。