教師はどのように進路指導をするのか



前項で見たような方法によって、高校のボーダーはつくられていきます。
そしてこのようにして割り出された数値を使い、生徒・保護者の双方の問いかけに答えて、教師は「まず大丈夫でしょう」とか「少し危ないが様子をみましょう」とか「非常に難しい、合格の可能性はきわめて低いでしょう」とかいった言いかたをすることになります。

この時、教師は生徒や保護者の希望する高校より上位の学校を勧めることはまずしません。なぜなら、より難しい学校を勧めてその上で受験に失敗したら責任問題に発展することは必至だからです。保護者の立場に立てばそれは明らかでしょう。
「本当はX高校で良かったのに、先生が強引に進めるのでZ高校を受けたら落ちてしまった。そのため本来は入れるはずだったX高校にも入れず、結局定員割れだったW高校に入ることになった」
……これで怒らなかったら親ではありません。
もちろん上位5%程度にいる生徒がそれにふさわしいZ高校を希望せず、25%未満のX高校やY高校を希望していたとしたら「Z高校にも可能性がありますよ」くらいは言いますが、その子が25%前後にいるようでしたら、私の場合はまずほとんどにしゃべりません。可能性をちらつかせて結局潰すのは正しいことではないと考えるからです。

また「この生徒は工業高校が向いているな」と思った場合でも、本気で工業高校を勧めることはありません。そこまで厳密な適性を教師が知ることはないからです。機械いじりが好きだとしても、その方面に適性があるとは限りません。無闇に一定方向を示して受験させ、それで生徒が途中変更をするようだったら、それはたいへんなことです。

高校受験に関する中学校教師の指導というのはこういうものです。
生徒や保護者が志望を語り、それに対して教師が答える。したがって進学指導というものは教師にとってあくまでも受動的なものであって、能動的・積極的に「お前は〇〇高校へ行け」などと決定できるものではないのです。

では「先生が受けさせてくれなかった」「先生に高校を決められてしまった」「先生に〇〇高校へ行けと言われた」といった生徒や保護者の訴えはすべてウソなのでしょうか?
いえ、実はそうでもないのです。教師が声を荒げて「お前には絶対〇〇高校を受けさせない」「内申書も書かない」と言いたくなるときがあります。そして時には、そのように発言してしまう教師も、少なからずいるのかもしれません。
それについては次の項で説明します。