子どもの学力は本当に落ちたか
2000年9月3日の朝日新聞は「ルート49が分からない〜京大教授ら、理工系学生の学力調査」と題して次のような記事を
掲載しました。
大学生の学力低下を調べている西村和雄・京都大教授(理論経済学)らは、全国の理工系の大学生約4000人を対象に学力調査をした結果、中学、高校レベルの数学が満足に解けない学生が多いことが分かった、と発表した。
ある国立大では、対数を使った問題などの正答率が文系の学生を下回ったほか、別の国立大では、小数の入った四則計算で40%以上がつまずいた。西村教授は「理工系でも学力低下は深刻。中学、高校の教育内容を良くする議論が必要だ」と話している。
ある地方の国立大では、「ルート49」の値(7)を求める問題で二割以上が不正解。「3人でジャンケンをする。三人とも違う種類を出す確率は」という問いでは、半数以上が不正解だった(正解は9分の2)。
これまでも大学生の学力低下は噂されていましたが、調査としてまとめられたのは、おそらくこれが初めてかと思います。
ここ20年あまりは「知識ばかりの頭でっかちの子どもばかりつくってもしかたがない」が国民的課題でしたから、この結果に愕然とされた方も多かったことと思います。
しかし良く考えてみると、「ルート49=7」ができないからといって学力がないとされた理工系の学生さんは、少々気の毒なような気もします。
なぜなら「ルート49=7」などといった問題は、おそらく中学校以来全くやったことがないだろうからです。
高校の数学を思い出してください。そこに「「ルート49=7」が入り込む隙間などほとんどありません。高校は徹底的に文字式の世界であって、数値が入りこむ余地すらほんのわずかなのです。
「3人でジャンケン・・・」も同様で、
それらはまるで法学部の学生が「必」や「飛」の筆順が正確に言えないのと同じくらいトリッキーな出題といえます。
しかしそれにしても大学生の学力は本当に落ちてしまっているのでしょうか。
いやその前の高校生の学力はどうなっているのでしょうか?
これについては、資料がない、というのが一番正確な答えです。
継続的な学力調査というのは、どこも行っていないのです。
わずかに、私がサイト上で探しえた統計は、下に示す河合塾の調査だけです。
「高校生の学力低下問題を検証する」
http://www.keinet.ne.jp/keinet/doc/keinet/jyohoshi/gl/toku9911/News9911.html
それによると
「 学力レベル別に見ると、難関大学をめざす上位層では学力低下の度合いは少なく、分野によっては上がっているところもある。一方、入試プレッシャーの緩む中位・中上位での学力低下は大きいようである。また、下位層であまり正答率が下がっていないのは、95年度の時点ですでに正答率が低く、いわば下げ止まり状態にあるためだと考えられる。いずれにせよ、学力レベル別に見た場合には、上位と下位への二極分化が起こっていると言えそうである。」
ということになります。
特に問題だと思われるのは、
「下位層であまり正答率が下がっていないのは、95年度の時点ですでに正答率が低く、いわば下げ止まり状態にあるためだと考えられる」
という点でしょう。
コギャル・ガングロが跳梁跋扈する時代、それでもなお「今の子どもは知識ばかり多くて生活経験が不足している」というメディアの報道は、私たちの実感とあまりにもかけ離れたものでした。
しかしこうしてみると事態は明らかです。
「今時の子どもの」多くは、実は「知識ばかり多くて」といった状況にはなく、ほとんど最低ラインを這いずり回っていただけなのです。
これでは非行の道にも走りたくなります。