ウサギとカメ
もしもし カメよ カメさんよ
せかいのうちで おまえほど
あゆみの のろい ものはない
どうして そんなに のろいのか
なんと おっしゃる ウサギさん
そんなら おまえと かけくらべ
むこうの おやまの ふもとまで
どちらが さきに かけつくか
ね、酷いと思わない? 考えてみてください。
世界のうちでお前ほど、歩みのノロイものはないですよ。お前は世界中で一番、足が遅いって言われたんだよね。しかもその上、「どうしてそんなにノロイのか」ですよ。そんなこと聞かれたって答えようがないじゃないですか。
「どうしてそんなに勉強ができないの?」「どうしてそんなにチビなの?」「どうしてそんなに太ってるの?」「どうしてそんなこともできないの?」みんなそうです。どれ一つ答えられない。自分で選んで算数が苦手になったわけでも、背が低かったり太っていたり、足が遅かったりしているわけではないのですから。
ウサギさんって酷いですよね。それこそ「どうしてそんなにひどいのか」と言いたくなるような話ですよね。
しかし振り返ってみましょう、みなさんはそんなふうに言ったことはありませんか?
「どうしてそんなに勉強ができないの?」「どうしてそんなにチビなの?」「どうしてそんなに太ってるの?」「どうしてそんなこともできないの?」「お前、馬鹿じゃないか」「足、遅いね」。
友だちだけじゃなくて、妹や弟のことも考えて、自分が一番ひどいことをいったことを思い出してみてごらんなさい。あんなこと言わなきゃよかったと思うようなこと、
小さな弟に「おまえ遅いな。そんなに遅いならついてくるな」なんてこと、言ったことないかな。
いいですか。そんなふうに自分のことを考えた上で、問題です。
「ウサギさんはなぜあんなにイジワルなことを、言ったのでしょう」
さあ、何か考えのある人はいますか。
むずかしいですね。
ではこれはこのままにしておいて、先に進みましょう。
さて、次の部分を見てみます。
ね、私はここで、とても不思議なことに気づきました。みんなも気づいたでしょ?
え? ダメ?
どうしてこんなに簡単なことに気づかなかったのかと、びっくりするようなことですよ。どうして何十年も、不思議に思わずにきたのか、その方が不思議なくらいです。
だって、 かけっこをしようと言いだしたのはカメさんの方なんだもの。
なんとなくウサギさんの方だった気がしていたのですが、カメさんの方から「そんなら おまえとかけくらべ」と言っているのです。知っていました?
もちろん知っていたと思うけど、あまり考えなかったよね。
でも、これってすごいでしょ?
自分の方から不利なかけっこしようなんて、そんなことって考えられます?
みんな自分に置き換えてみてください。
カメさんはウサギと競争して勝とうと思うなら「向こうのお山の麓まで、どちらが先にかけつくか」なんて言わないで、別のレースを提案すればよかったんだ。
何?
そうですね、「お池の向こうの小島まで、どちらが先に泳ぎ着くか、競争しよう」
そう言えば、ウサギさんのほうがギャフンとなって、自分はなんてバカなことを言ったんだ、と反省したかもしれない。
なのにカメさんは、自分が絶対に勝てない「かけっこ」で競争しようと言ったんだ。
実際には次の日のレースではウサギさんが昼寝をしたおかげでカメさんは勝つのだけど、でのそんなことは偶然起こったことで、かけっこしようと言いだしたときには分からないことだよ。
「どうしてカメさんは 相手の得意な かけっこで 競争しようとしたのだろう」
何か考えのある人はいますか?
私はよおく考えたのだけれど、良く分からなった。どう考えても勝ち目はない。そして考えて、考えて、結局たどりついたのはこういう結論だった。
結局、カメさんはウサギさんに負けるために、かけっこを提案した。
そうではないかと思ったのです。
そして次にかんがえたのが「カメさんには、負けることで何かいいことあるのかな?」ということですが、答えはすぐに分かりました。カメさんはこんなことを考えていたのです。
「かけっこだったら絶対にウサギさんが勝つ。ウサギさんが勝ったらあとからこんなふうに言ってやろう。
『あ、ほんとうだ、ウサギさんって、速いんだ。ウサギさん本当にすごいよね』ってね。そうすればきっとウサギさんは、得意になって、うれしくてうれしくて、きっと元の優しいウサギさんに戻ってくれるに違いない」
と。
さっき私は、
「ウサギさんはなぜあんなにイジワルなことを、いったのでしょう」
と言いましたよね。それはみんながイジワルな気持ちになるときときと同じです。
そうです、答えはこうです。
「人は、かなしかったり くるしかったり、自信がなかったりすると、とてもイジワルになるときがある」
考えてごらんなさい。友だちや妹や弟にイジワルなことをしたり言ったりしたときって、必ず怒っていたり、自分だけが嫌な思いや悲しい思いをしているって感じている時だよね。
自分に自信があって、楽しくて楽しくて、ウキウキと気分がいい時にはイジワルなんかできない。
だからイジワルな人をなくす一番の方法は、その人が気持よく楽しく生きられるようにしてあげることなんだ。
さて今日のお話はこれでおしまい。
ウサギとカメの話は、残念なことにウサギさんが途中で寝てしまったので、カメさんの逆転勝ちになってしまいました。ほんとうにうまくいきません。
カメさんもやれやれ困ったもんだと思ったことでしょう。でも、今回はうまく行かなくても、またやり直せばいいのです。だって、ウサギさんはほんとうはいい人なんですから。
え?
どうしてウサギさんがいい人だって分かるかって?
私は調べたんですよ。そしたらね、昼寝から目覚めたウサギさんはこんなふうに独り言を言ってるんです。
「あれ? 少し眠ってしまったか。・・・まあいい、どうせカメさんはまだ後ろにいるはずだからな」
独り言を言う時も「どうせカメなんか」と呼び捨てにしないで、ちゃんと「カメさん」なんて言えるウサギさん、いい人に決まっています。
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ウサギとカメ
ある日、ウサギさんと、カメさんが、どちらの足が速いかで言い争いをしました。
ウサギさんは、カメさんに言いました。
「カメさんは、よくそんなのろのろと歩いていられるなあ! その調子じゃ、あの丘に着くのは明日になってしまうね。」
そう言われてはカメさんも黙ってはいられません。
「それじゃあの丘まで競争しようじゃないか!!」
そうカメさんは言いました。
「いいですよ。それでは誰かに審判をしてもらいます。」
「キツネが利口で公平だからキツネさんに頼むことにしよう!!」
そう、ウサギさんは言いました。
そこでキツネが、競争を始める合図をしました。
よーい、ドン!!
たちまち、足の早いウサギがカメを引き離しました。
しかしカメはあきらめずに、休まず歩き続けました。
「これじゃカメさんは当分やって来ないな、ひと休みしよう!」
ウサギさんは足が早いと思って安心しているものですから、途中で大きな木を見つけると、その木かげでひと休みしました。
それからしばらくして、ウサギは起き上がりました。
「あれ? 少し眠ってしまったか。・・・まあいい、どうせカメさんはまだ後ろにいるはずだからな」
ウサギは、大きく伸びをすると、そのままゴールに向かいました。
「よし、もうすぐゴールだ・・・」
「あれ・・・!?」
丘の方を見ると、なんとカメさんがゴールしているではありませんか!!
自分が勝ったと思っていたのに、何とカメが先にゴールしていたのです。