ぶりっ子
これほど一世を風靡しながらかくも死語化した例はむしろ少ないであろう。
1980年代半ば、松田聖子をシンボルとして始まった「可愛い子ぶりっ子」バッシングは、瞬く間に全国に波及し、現代の魔女狩りといった様相をみせた。
少しでも「可愛い子」「良い子」と見なされた者は厳しい追及と精神的な拷問に曝されるため、自分がいかに「可愛くない子」「悪い子」であるかを証明することが急務となり、多くの子どもたちが奔走した。
「可愛くない子」「悪い子」になり切れない一部の「良い子」(=本当に良い子)たちは地下に潜り、一種の隠れキリシタン化をしたというが、実態は究明されていない。
この魔女狩りの結果、あまたの「可愛い子ぶりっ子」とともに「良い子ぶりっ子」は完全に駆逐され、以後、学校内の話し合いにおいても、教師サイドの発言を行う者はいなくなってしまった。
自分の中にある「わがままなもの」「汚いもの」だけを『本音』だと考える人々にとっては、いわゆる『本音で語り合える』時代が到来したのである。
しかしそれは腕力の強い者、押しの強い者、わがままの強い者こそ生き残るサバイバル世界でもあった。