シンディー
   ・ワーク

《小学校教師の3月》


卒業式

ぶかぶかの中学校の制服を着て6年生が厳かに入場する。
一年間でもっとも重要な儀式だ。

正式な名前を「○○小学校卒業証書授与式」という。
実際に証書を渡すのは校長だが、教育委員会から人が派遣され一段高い席から見下ろす(とは言っても同じフロアだが)のは卒業式と入学式しかない。

小学校では式の会場をどういう隊形にするのかとか、証書をどういう位置で渡すのかといったことが毎年話題になるが、中学校にはないらしい。

とにかくサービス精神が旺盛で、親が自分の子の証書を受け取る姿を写真に撮りやすいようにとか、姿がはっきり見えるようにとか、そんなことばかり考えている。

今年も卒業生を正面に据え、ちょうど相撲かプロレスの興行のように中央に雛壇をつくって、そこで証書授与を行おうという案が出されてきたが、あっさり否決されてしまった。
日ごろから児童中心の活動を行ってきたのならまだしも、それほどでもないのにここだけ児童中心を標榜するのは恥ずかしい、ということだった。
ナルホドとも思った。

キースやフレッドに話すとこちらも否定派。
「6年間の締めくくりの時くらい教育委員会を意識してもいいはずだ」というのが彼らの言い分である。

「テメーら一人で大きくなったと思うなよ。市や町はテメーらのために何百万円使ったと思うんだ。

卒業式のときくらいそれをしっかり見つめろ! 

赤の他人のためにそれだけの税金を払ってくれた市民や町民、その代表者である教育委員会の前にひれ伏せ!」


ということだ。

これも妙に納得。
けれど何となく釈然としない気持ちも残る。


いずれにしろ6年生の子どもたちは粛々と学校を後にする。

サヨナラ
元気でいてネ!



お別れの式

卒業式の後はガラッと気分を変えて、転退職員のお別れの会となる。

転退職の先生方は職員室で待機。残る先生たちが体育館に集まって準備をする。
高学年の児童たちはそのことを知っているので、自分の担任がその場にいないと落ち着きを失う。
担任がいなくなってしまう可能性があるからだ。

そしてそれを逆手に取って、わざと入場を遅らせてくる先生もいたりする。
放送係の教師は児童入場の遥か前からステージ袖の放送室に入ってしまい、入場してくる担任児童の顔色を小窓から覗き見ていたりもする。
そして入場してきた児童が不安そうな表情をしていると、彼はいたく満足するのだ。


転退職職員は校長が引率して体育館に入場する。
6年生を卒業させたばかりの担任の中に転任教師がいることはある程度予想されたことなので何ともないが、児童たちにとって予想外の人事があったりすると、担任のクラスの中には、早くも眼を赤くする子どもがあらわれ始める。
小学生は可愛い。

ステージ上で一人ひとりが紹介され、そして一人ひとりに挨拶をしてもらい、校歌を歌ってこの式は終わり。

今年も、初任でこの学校に来、3年を過ごして去っていく二人の若い教師は壇上で泣いた。
美しい光景である。

私も少々もらい泣きした。




春休みは休みじゃない@
・・・・・・指導要録

世の人は長期休業中の教員はのんべんだらりと過ごしていると思っているかもしれないがそれは間違い。実に忙しいのだ。

まず手始めは指導要録
どんな大変さがあるかを話す前に、まず指導要録そのものについて説明しておこう。

指導要録というのは公式には「児童生徒の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を記録し、その後の指導及び外部に対する証明等に役立たせるための原簿」というのが基本的な性格(教育課程審議会)。

したがって「学籍」に関するページ(一枚表のみ:20年保存)と、
「指導の過程及び結果の記録」に関するページ(一枚裏表:5年保存)
から成り立っている。

学籍に関するページは、簡単に言うと氏名・性別・生年月日・住所、保護者の氏名と住所、各学年の校長と担任の氏名、入学前の経歴、卒業後の進学先などの記録。

指導の過程及び結果の記録に関するページは、

  1. 各教科の記録(国語・算数・・・といった教科について観点別にA・B・Cをつける、さらに教科ごと1・2・3の3段階で評価、そして所見)
  2. 特別活動の記録(児童会活動・クラブ活動・学級活動・学校行事について、○をつける。そして所見)
  3. 行動の記録(観点別に必要なところに○。所見をつける)
  4. その他参考となる事項(文章で表現)
  5. 出欠席の記録(遅刻・早退については記録しない。+欠席理由)

の5つから成り立っている。

所見欄が3つと「その他参考となる事項」合わせて4箇所に35人なら35通りの文章を書かなければならない。それが実に大変なのだ。

しかもこのサイトの「症辞典」にもあるのだが、とにかく良いことしか書いてはいけない原則になっているので、それこそ重箱の隅をつつくように良いところ探しをすることになる(アレ? 「重箱の隅をつつく」というのは、本来はアラ探しに使う表現だよね)。

しかし、5・6年生ならまだしも、3年生くらいだとまだ児童会もクラブもやっておらず、学級の係だってロクなものがないから、特別活動の記録なんてとんでもなく難しい。
掲示係なんてただ渡されたプリントを壁に貼るだけ。だから、一応係の仕事をした子については、
「学級の掲示係として熱心に仕事に取り組み、掲示物は常にまっすぐに張られていた」といった書き方をする。
けれど実際のところ、その子が掲示物を張ったのは1回だけで、それも担任が後ろについていちいちうるさく言った結果に過ぎない、といった場合も少なくない。

その仕事が何らかの役に立つなら苦労も厭わない。でも本当のことを書けないこの書類、いったい何に役立つのかしら・・・?


ちなみにこの指導要録、平成14年度から大幅に変わった。
それがどんなものか、見てみたいという奇特な方は、下のURLから行ってみるべし!

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/kyouiku/toushin/001211a.pdf




春休みは休みじゃないA
・・・・・・新年度準備

指導要録を書き終えると、転任する先生・新しく来られる先生のお引越しのお手伝い。そして新年度準備が始まる。

新年度準備というのは、だいたい次のような仕事の総称をいう。

  1. 次年度一年間の計画をプリントにし、冊子をつくる(その厚さおよそ4.5p!!)。
  2. 教室にあった物品を一まとめにし、次の学年の教室へ移動する。
  3. 机と椅子の数を合わせる。
  4. 新入生の受け入れの最終チェック。教室の飾りつけ・配布物のチェック。クラス分けの掲示、机と椅子への記名、その他もろもろ・・・。
  5. クラス替えのある学年の学級編成。
  6. 入学式・始業式の会場準備。
  7. 職員室の配置替え。ロッカー等の再分配。
  8. その他無数の雑用・・・。

かくして心休まるまもなく、3月が終わる・・・・・・