シンディー
   ・ワーク

《小学校教師の8月》


水泳指導

教員になったばかりの頃は、この「夏のプール開放」というのがさっぱり分からなかった。

スライダーもなければ波も起せない、ただし四角なだけの、しかも教員と親がくっついて不便この上もない学校のプールに、何故子どもたちは足しげく通ってくるのだろう?
毎日、200人(全校児童の過半数)が暑い道を徒歩で泳ぎに来るのだ。



通学区を4つに分け、午前2回、午後2回のローテーションにする。児童は地区ごと集まって保護者に引率され、学校に来る。

その引率を地区指導部と呼ばれるPTAの役員が毎日交代で行うのだが、これは本当に評判が悪い

子どもが言うことをきかない、
きちんと歩かない、
道路をはみ出す、
注意すると悪態をつく。


そうした現状を知ってもらうためにも保護者引率は良いことだと思うが、集団の子どもを扱うことに素人の保護者にとってはやはり苦痛なのだ。


さらに、来たら来たでプールの6箇所に立って20分間ひたすら水面を眺め汗を流しているというのは耐えがたいことらしい。

日焼けなんて考えただけでゾッとするという年代の方々だけに、長そで長ズボン、大型の帽子までかぶる完全防備でただひたすら時の来るのを待っている・・・。

そしてまた長い長い引率。


ご苦労様。
でも、そのとんでもなく大変なことを私たちは毎日やってるんだよ。
妙にプロとしての誇りをくすぐられるときでもある。





枯れる野菜

生活科や総合的な学習の時間に育てた野菜もこの時期夏休みに入る・・・・・・ワケはない。 放っておいても野菜は育つ、ワケもない。
そこで児童の水くれ当番(高学年では潅水当番)ということになるのだが、広い広い畑に如雨露で数回運んだ程度で水が足りるわけはなく、やがて野菜は元気を失い始める。

そこで最初から乾燥に強い作物を植えておくことになるのだが、そういうものに限って(というか、そんなことは当たり前なのだが)、夏の最盛期つまり夏休み中が収穫期なのだ。

スイカ、ミニトマト、ピーマン、ニンジン、トウモロコシ・・・

トマト・ピーマン・ニンジンなんて最初から子どもの敵役だし、スイカに至っては収穫期が分からない(きちんと受粉させ、それから日数を数えるのが正しいやり方らしい)。

取れるものは取っていってもいいよと言っても、ちょっと金を出せばおいしいものが食べられる時代に、食べられるかどうか、ヌエみたいな作物をわざわざ畑から持っていく人もいない
結果、たくさんの作物が実をつけたまま放置される。

これで植物に対する愛情が育つものなのだろうか?

疑問は湧き上がるものの、それをうっかり口にしたものなら「来年は夏休みの登校日を増やして、野菜づくりに励みましょう」てなことになりそうなので怖くて言えない。
夏休み中に子どもを集めれば喜ぶ親もいる代わりに怒る親もいる、その調整が面倒なのだ。

ああ、かわいそうな野菜たち。



初任者研修

夏休みに入っての最初の3日間は、今年教員になったばかりの初任者の集中研修日である。
私も○年前にやったが、本当に苦しかった。
なにしろ生まれて初めての通知票を書ききって、終業式後の納会でしこたま飲んだ、そのあとなのでとにかく眠い。
話を聞くより睡魔と闘うことが主な仕事となる。

地元の教育大出身者にとっては絶好の同窓会なのだが、私のようなよそ者にはただ苦痛なだけ。
エアコンでもあればまだ涼む楽しみのあるのに、たいていはそんな設備のないところが会場になっている。

暑い、眠い、ワケ分かんない・・・

私の時は隣の男性がイビキをかきはじめたため、疑われちゃかなわんということで思いっきり目を大きく開けていて、それでマブタが痙攣を起しそうになったりした。

あんな事が今も続いている。





職員旅行

子どもの夏休みになのに教員まで休んでいるのはけしからん、ということで今年は大量の研修を計画したがどうにも埋まりきらない。そこで出された妙案が職員旅行である。

職員旅行はもともと1学期か2学期の土日曜日を使って一泊で行われていた。

キースによれば、昔は半ば職務のような気持ちだったので不参加にはよほど勇気がいったが、今はそうでもないとのこと。確かに、手のかかる子どものいる奥さん先生や若い先生は余り参加したがらない。

そこで日数も二泊三日から日帰りに縮小し、参加者も義理堅い中年以上の方々をはじめとする半数程度、というのが私の経験してきた職員旅行である。


それが、今年はすっかり様変わりした。

何しろ夏休み中とは言え勤務日に出るのだから、参加しないわけにはいかない(どうしても休みたければ年休を取るしかない)。
勤務日だから飲むわけにもいかない。
勤務日だから遊び半分というわけにもいかない。
というわけで今年の旅行先は古い町並みで有名な某観光地。
しかし観光・買い物はそこそこに、
「そば打ち体験」(何の役に立つんだ?)
「民族資料館の見学(解説つき)」(古い農具の解説と機織の体験)
「酒蔵の見学(アルコールは味見のみ)」
の三連発と昼食会となっ
た。
勤務日だからだれも文句は言わないし来た以上は少しでも楽しく、ということで和気藹々のうちに終了したが、支払いの段階でまた悲しくなった。
アルコール抜き、勉強中心の半強制・日帰り旅行に16000とは!

けれどキースに言ってもフレッドに言ってもまったく意に介さない。
「しゃーないだろう?」(←これはキース)
「マア、そんなもんでしょう」(←こっちはフレッド)


昔、民間企業に勤める彼らの同級生たちは会社の9割負担でハワイだのラスベガスだのに行っていた。その時期にもキースたちは全額自己負担の国内旅行に甘んじていたのだ。

私たちとは基本的な感覚が違う。