シンディー
   ・ワーク

《小学校教師の9月》


新学期が始まる
子どもたちが真っ黒になって学校に戻ってくる。
高学年の子の中には何となく気だるそうな子も少なくないが、一年生はいたって元気!
とにかく夏休み中にあったことを片端話さないと気がすまないらしい。
「せんせ〜! 海、行ってきた」
「せんせ〜! ディズニーランドへ行ってきた」
「海、行ってきた」
「山梨のお祖母ちゃん家に行ってきた」
「せんせ〜! 海、行ってきた」
「静岡に行った」
「海、行ってきた」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

二人に一人は「海、行ってきた」なのだから、他の海に行った子は黙っていても良さそうなものだが、子どもには「私が(ぼくが)」どこへ行ってきたか、先生は知りたいに違いないという確信があるみたいなのだ。だからとりあえず全員に聞かねばならない。

小学校の1年生を連れて行ってどうするとも思うのだが(どうせ忘れてしまう)、ハワイだのグアムだのと海外旅行に行ってきた子も多く、私をちょっぴり羨ましがらせる。
(いいわね。だけど私だっていつか、誰かに海外旅行に連れて行ってもらうわよ)



祖父母参観日

毎年、敬老の日の前後、いずれかの土曜日に行われる。
わざわざ土曜日に設定されるのは、お祖父ちゃんお祖母ちゃんといっても小学生の祖父母、まだまだ現役でがんばっている人も多いからだ(知る限り、一番若いお祖母ちゃんは45歳だった!)。
しかしそうは言っても本当にお祖父ちゃんお祖母ちゃんらしい人だって少なくない。
若い祖父母もいいが、いかにもそれらしい祖父母もまたいい。


祖父母参観日はかなり以前から時間制限なしということになっている(らしい)。
参観授業が3時間目とか決めてしまうと、足のないお祖父ちゃんたちは学校に来れなくなる。土曜日も出勤の息子夫婦に送ってもらうことを考えると、どうしても朝からということになってしまうのだ。

だから校にやって来るのがやたら早い。
もともと朝の早い人たちだから、まったく苦にしない。
うっかりすると職員の方が負けそうなときだってある。
だから大抵の担任は前日から椅子を並べ、いつでも座れるように配慮しておく。

朝の会。
すでに最初のお祖父ちゃんお祖母ちゃんが来ていたりする。
私は授業の合間に、用意したお茶で接待したりする。
孫を見る目が本当に優しく、それだけで何でも許せてしまうような気になる。




運動会

9月といえばやはり運動会。
他の行事とは異なり、これだけは相変わらず村の行事といった雰囲気に包まれる。
開催を知らせる花火、グランド中に張り巡らした万国旗、バックネットに飾った得点表。
全てが昔ながらで、「運動会はこうじゃなくちゃ」と自己主張しているようなものだ。

保護者の方も気合が入っていて、い人は前日の夕方から場所取りが始まる
重箱の弁当を広げる人までいるから、本当に「昔ながら」なのだ。

けれど昔と決定的に違うのは、応援の声が本当に少なくなったということ。
とにかく自分の子どもの活躍はレンズや液晶画面越しということなので応援の声がでないのだ。
1年生のかけっこのゴール付近など、スーパースターもここまでと思われるほどのカメラの砲列が並ぶ。考えてみたら、そんなところに保護者が並ぶということ自体も、私が子どもの頃にはなかったことかもしれない。

1年生の出場種目は四つ。「かけっこ」と「綱引き」「玉入れ」、そして全校で行う「大玉送り」だけだから気楽といえば気楽。
それでは寂しいということで、今年は玉入れの前に簡単なリズム運動(ダンス)を入れたのだが、これもそこそこの苦労でうまくいった。

大変なのは5・6年生である。
綱引きの綱を出すとか短距離走の順位を示す等旗を渡すとか、放送を行うとか得点を掲げるとか、それぞれの係りの仕事がある上、スタンツ(組み体操)といった厄介な種目にも出なくてはいけない。

スタンツは運動会の華として、毎年ずいぶんと気合が入る。とにかく逆立ちもできない子をなんとかできるようにした上、三段の塔など難しい技にも挑戦させなくてはならない。特に五段のピラミッドは見かけ以上に難しく、なかなか成功に至らない。

昨年は1学期から取り組んだ5段ピラミッドが直前まで完成せず、前日の最終練習でようやく完成したとか。指導した若い男の先生は、その直後いきなり席を外し、しばらくして真っ赤な目をして戻ってきた。本番もうまく行ってまた泣かされた。

今年は6年の学年主任が五段ピラミッドを4本(男女2組づつ)建てると豪語し、2週間前までに完璧にできるまでにしてしまった。すごい気合だった。
しかし好事魔多し。その四本がことごとく本番で崩れてしまったのだ。学年主任に言わせれば「ピークは一週間前にあった」とのこと。小学生は難しい。

今年は赤の勝ち。
白の一年生が一人泣き始めたら、周りの子たちの目が一斉に赤くなってしまった。
そんなたいそうなことではないだろうと思うけど、それ小学生なのである。