キースの
   お仕事

《中学校教師の4月》


新年会

普通はやらない。
職員朝会で「あけましておめでとうございます」と言って終了。
とにかく集団で酒を飲むということが極端に少ない集団だ。
そんな時間があったら家で休むとか仕事をしているとかしていた方がいいと、何か禁欲的な雰囲気がいつも漂っている。

もっとも私のような田舎の学校では、自家用車なしには何もできないから、とにかく車を持ち帰りたい(そうしなければ明日の勤務が大変だ)、というところが本音なんのかもしれない。

私は酒はあまり好きではないからいいが、飲んべえにはつらい職場だ。




調査書作成

一般には「内申書』と呼ばれているが正式には「調査書」という。
3年生の担任の冬休みのお仕事はこれが中心。

かつてはB4版の用紙にびっちりと書き込んだので一人につき2時間以上かかり、さらに清書にも1時間以上かけたが、今はおそろしく簡略された。要するに情報開示が怖いのだ。

文章というものはどう書いても誤解をゼロにすることはできない。ましてや調査書は人物評だから書いても書かなくても文句の出る可能性は十分にある。だったら「基本的に何も書かない」態度がベースになるだろう。

運動について書くなら「地区予選3位以上」、絵画・書道なら「県展レベル以上」(農協祭出品なんてのはだめヨ!)。合唱部の成績も「銅賞以上」となると、クラスに何か書いてもらえるヤツは一人いるかいないかといったレベルになってしまう。
だから「何も書かない状態」。

これでいいんだったら、10年前までのあの苦労は何だったんだろう?

しかし、マ、これもいいだろう。
重箱の隅をつつくように(というと普通はあら捜しだが)良いところを探したり、事実を捏造して「悪い子」を良い子に仕立てたりといった無駄な苦労は、これで大いに減らされたからだ。

ところで、高校側はそんな調査書から何を読み取るのだろう?




実力テストNO.8
12月の懇談会でほぼ8割以上の生徒の進路が決定する。
しかし往生際の悪いヤツはどこにでもいるもので、
「先生! オレ絶対やる。次のテストで実力を見せる。だから1月まで待って!」
ということになり、今回の実力テストの結果を待ち、最後の話し合いに入る。

だが往生際の悪いヤツはどこまで行っても往生際の悪い場合が多い。

「先生、もう一回待って。オレ今度はできそうな気がする」
「もう2年9ヶ月も待ったが・・・」

「でも、結構本番に強いヤツっているジャン」
「そういうこともありうる」
「で、オレそういうタイプだと思うんだ」
「実力テストは本番じゃなかったわけだ」

「いや、そういう意味じゃなくって・・・、入試一発、そこなら雰囲気も違うし」
「100mを12秒かかるヤツがオリンピック本番で9秒9を出すとも思えないが・・・」
「でもサ、あたって砕けろっていう言葉もあるし・・・」
「もし友だちが『あたって砕けろ』って言って、飢えたライオンの檻にキミを入れようとしたら、やってみる?」
「先生〜。それとこれとは違うでしょ」
「あたって砕けるには違いない」


私の住んでいるような田舎では、併願するに適当な私立高校がない場合も多い。
一発あたって砕けれしまえば、中学浪人をするか、定員割れとなったずっとランク下の高校に鞍替えするしかなくなってしまう。
それだけは避けたいということで、親との了解も取れていたはずなのだが。
不毛な話し合いは、果てしなく続く・・・・・・。




調査書作成委員会

・・・・・・と言っても職員会メンバーから事務職の先生たちを除いて行う進路検討委員会のこと。

12月の懇談会とその後の話し合いで決まった志望校別に成績一覧をつくり、全職員に見てもらう。3年担任だけでは責任を取りきれないので、みんなのご意見を伺うという趣旨の会である。

ドベ〜ッと全部見てもしょうがないので、この資料に3年各担任はさまざまなマークをつけてくる。

◎・・・・・・まったく問題ないだろう。
○・・・・・・多分、いけるだろう。
△・・・・・・やや危険か?
▲・・・・・・かなりヤバそう。
×・・・・・・ほとんど不可能だが、受けると言っている。

基本的には、このうち△以下について議論をしてもらう。

なぜか各校には「受験の神様」みたいな教師がいて、この会が始まる俄然輝きを増してくるのがおもしろい。
「3年○組のA君、△がついていますが、これは行けます」
「逆にB君。これは○だがZ校は英語の落ち込む子を取らない。したがって▲で指導しないとかなり危険なことになる」
・・・と、とうとうとおっしゃるがこれが実に良くあたる。

この能力を持ってすれば競馬の予想屋も可能ではないかとも思うのだが、馬は人間とは異なるのかもしれない。

競馬と高校受験を一緒に考えるのは不謹慎だが、なにか胸のワクワクする会儀ではある。




修学旅行の下見

2年の学年団の冬休みの仕事は修学旅行の下見。


私たちの県はほとんどが4〜5月の修学旅行。
これ以上遅らせると部活の大会に引っかかったり受験指導にさしつかえるし、他県のように2年生のうちにというのもいやなので、忙しい4〜5月にやってしまうのだ。したがって下見も、冬休みをおいて他になくなる。この時期の奈良・京都は底冷えのする厳しい気候の場合が少なくないが、ほかに行くときがないのでしかたない。

信じられないことかもしれないが、修学旅行の準備といいうのは1年生の3学期から始まっている。
まず旅行代理店数社から見積もりをとり、細かな検討を加え3社程度に絞り込む。
しかし実際にはどの社も大小同異で、取り扱い料金も足並みが揃ってしまっているから、金額で決めることはできず、結局、用意してくれた宿舎の良し悪しが最終的なポイントになることが少なくない。
(マメな教師が修学旅行の係になるとわざわざ自費で奈良・京都へ出かけ、すべての旅館・ホテルをチェックしてくるのだから恐れ入る)

そうやって2年の2学期までには代理店を決定し、細かな計画を立てた上で、冬休みに全員で最後のチェックに出かけるのだ(これには学校から費用が出る。ただしほとんどの場合、確実に足が出る)。