キース・アウト
(キースの逸脱)

2004年3月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。













  


2004.03.07

「5」は最大7倍差 自治体間で格差
−−公立中の絶対評価 /神奈川


[毎日新聞 3月6日]


 ◇自治体間で大きい格差−−公立中の絶対評価調査
 02年度から導入された中学校の「絶対評価」について、県教育委員会が、県内公立中学3年生の5段階評価の分布状況を調査し、市町村別に集計結果をまとめた。「5」の評価がついた生徒の割合は、教科によっては自治体間で最大7倍の格差があった。絶対評価は、県内公立高校の入試の合否判定資料にもなるが、自治体間で大きな差が生じている実態が浮き彫りになった。

 結果は、県教委が昨年8月、県内の公立中3年の今年度1学期の学習評価について、1〜5の評価を受けた生徒の割合をまとめた。

 絶対評価は、02年4月から導入された。生徒が学習目標をどこまで達成できたかで評価する。全員が達成できたと判断すれば、理論上は全員に「5」をつけることも可能だ。

 自治体間で評価の格差が生じた原因として、県教委は、評価の細かな判断基準を各市町村教委が指導していることなどを挙げる。「5と4の境目は微妙で各校の判断によるところもある」と話す。

 入試で合否判定の資料となる調査書は、04年度から県内すべての公立高で、絶対評価を使うことになった。学力検査をせずに面接、作文などで選考する前期選抜では、調査書の点数が重視される。後期選抜でも調査書と学力検査の割合は、6対4と比重は大きい。

 県教委は「絶対評価の意義は認めており、選抜資料に使うことに問題はないと考える。公平性に不信感があるなら、評価の付け方を改善するように検討する」と話している。【川久保美紀】
………………………………………………………………………………………………………
 ◇県内公立中3年生の今年度1学期の「5」の割合(数字は%)


国語 社会 数学 理科 英語
横浜市 15.5 14.3 17.2 14.4 19.7
川崎市 11.5 12.8 12.8 11.8 15.4
横須賀市 9.6 12.1 12.9 8.7 11.3
相模原市 10.0 11.5 11.3 12.4 13.2
鎌倉市 9.6 10.8 13.0 9.9 12.6
藤沢市 16.0 24.0 24.5 18.6 21.9
茅ケ崎市 10.8 15.0 19.5 14.7 14.6
逗子市 10.4 13.1 9.0 10.1 9.3
三浦市 11.6 10.4 16.6 9.1 19.1
葉山町 10.9 8.5 10.9 10.5 9.3
寒川町 13.1 13.9 18.1 10.8 15.3
大和市 10.4 13.3 16.9 12.8 14.3
海老名市 12.1 11.6 12.9 11.4 11.2
座間市  9.7 8.1 13.2 10.0 13.8
綾瀬市 10.5 13.0 12.1 10.9 13.2
平塚市 11.5 13.4 15.0 13.9 17.0
秦野市 12.0 18.5 17.3 16.0 17.5
伊勢原市 10.5 10.2 11.7 11.8 17.8
大磯町 9.6 40.0 22.7 14.3 19.3
二宮町 26.7 13.6 18.8 19.6 19.5
南足柄市 9.9 23.4 24.5 13.1 21.8
中井町  12.3 17.5 20.2 6.2 7.0
大井町  7.3 7.9 8.6 7.3 6.6
松田町  19.1 19.1 21.6 28.4 21.0
山北町  6.5 22.4 21.8 22.4 13.5
開成町  7.1 9.9 29.1 10.7 10.6
小田原市 10.0 9.4 14.0 11.9 13.8
箱根町  5.2 11.2 8.6 6.9 9.5
真鶴町 25.0 10.0 11.3 6.3 26.3
湯河原町 17.7 7.4 13.6 9.1 12.8
厚木市 11.9 12.5 18.6 12.0 15.8
愛川町 10.4 9.3 14.9 16.5 10.8
清川村 27.3 31.8 25.0 29.5 31.8
城山町 10.6 8.9 7.3 17.3 13.4
津久井町 13.5 14.7 20.9 12.9 16.7
相模湖町 18.5 14.8 17.6 11.1 13.9
藤野町 10.1 10.1 14.4 4.3 17.3
 *調査は昨年8月。2学期制などの31校は除く(毎日新聞)



当然予想されたことで驚くに値しない。
メディアによると、「絶対評価」の価値は、
「どんなにがんばっても上に人がいる限り『5』が取れない相対評価に対し、がんばれば何人でも『5』が取れる」
というところにあった(はずだ)。

そうなると当然、学校差、地域差は出る。

問題はもしかしたら、メディアが思ったほど、勉強をがんばる子がいなかった、ということかもしれない。








2004.03.12

中2女子にキスで懲戒免職=千葉県教委

[時事通信 3月10日]


 千葉県教育委員会は10日、自分が担任を務める中学2年の女子生徒にキスをするなど不適切な交際をしたとして、同県東部の中学校の男性教諭(34)を懲戒免職処分にした。
 同教委によると、教諭は昨年11月、女子生徒の同級生3人から「本当に好きなら、キスしてみて」と求められ、女子生徒の口にキスした。昨年春から不登校の傾向にあった女子生徒の相談に乗るうち親密になったという。教諭は「生徒の心に傷を負わせることになった」と反省しているという。


これはどういう話だろう?
記事の通りだとすると、34歳の教諭は三人の女生徒に挑発され、まんまと嵌められて免職になったとしか読めない。

その程度のことでクビにするとは何事か、というのがこの記事の趣旨なのだろうか?
それともこの程度のことでも教員はクビにできるのだという警告なのだろうか?


教師と生徒の間には基本的な敵対関係があるから、時に凄まじい緊張関係が生まれ、抜き差しならないところに追い込まれることがある。
激しい挑発に屈して暴力に及んだ教師という話は掃いて捨てるほどある。したがって「本当に好きなら、キスしてみて」と求められるようなことだってありそうなものだ。

ただし、そのことのみをもって免職というのは考えにくいところである。
いくらなんでもキスで免職、では誰も納得しない。おそらくその陰に隠されたものがあるのだろう。だが記事を読んだだけではさっぱり理解できない。

まったくもってスタンスの分からない記事である。






2004.03.18

理数離れ、結果に反映 高校生学力テスト

[朝日新聞 3月17日]


 文部科学省が1月に発表した高校生の学力テスト結果は、理科4科目と数学の正答率が同省の期待より大幅に低かった。さらに、各教科の受験者に対するアンケートでは、理数系教科に対する思い入れが文系教科に比べて弱かった。この結果にショックを受けた関係学会は、若者の理数志向を促す取り組みを加速させようと懸命だ。

        ◇

 文科省の学力テストは、10万人を超える高校3年生に対して02年11月に実施された。

 対象になったのは数学1と物理、化学、生物、地学のそれぞれ1B、国語と英語の1の計4教科7科目。理科4科目は、その科目を高校で履修している生徒だけが選択した。

 文科省は各設問ごとに、全受験者の何割の正答が期待できるかを示す数値(設定通過率)を設けた。

 実際の正答率が通過率を下回ったのは、数学では30問中24問、化学は53問中32問、物理は51問中31問。生物、地学も約7割にのぼった。

 併せて実施した教科・科目ごとのアンケートで「当該教科の勉強は大切だ」と思う生徒は、英語の受験者では5割を超えたが、理科や数学は1、2割にとどまった=表参照。

「教科の勉強は大切だ」の回答
     そう思う   思わない
物 理   23.0     26.6
化 学   13.5     36.3
生 物   15.4     25.8
地 学   11.3     28.2
数 学   19.5     19.8
国 語   40.4      6.0
英 語   53.0      7.4
           数字は%

 化学の勉強が好きかを問う質問では、化学選択者の49%が「そう思わない」。入学試験や就職試験に関係なくても大切か、との質問で「そう思わない」が43%と、いずれも他科目より多かった。

 「大切で役に立つと思わなければ、身につくはずはない」と日本化学会化学教育協議会副議長の下井守・東京大教授。

 同協議会では近年、高校生を対象にした化学オリンピックや化学実験講座など啓発・教育活動に力を入れている。毎年出される大学入試問題の検討もその一つだ。

 01年には大学入試のワーキンググループを発足させた。現在、高校生に思考力をつけさせたり高校の教材として利用したりするのに適したモデル問題の作成に力を入れている。

 また、過去の入試から良問を募集する大学入試グランプリも始めた。

 同グループ主査の永澤明・埼玉大理学部教授はいう。

 「化学は暗記科目というイメージでみられているうちは、生徒たちに化学への興味は広がらない。自然や物質について考え、理解を深めていく面白い学問なんだということを、入試問題で示していきたい」

 ●不人気の物理、出前授業

 物理で正答率の低さ以上に研究者をがっかりさせたのが選択率だ。テストの対象となった生徒総数に対する選択率は、化学が61%、生物が54%と過半数なのに、物理は25%、地学は6%だった。

 日本物理学会で教育問題に取り組む並木雅俊・高千穂大教授は、物理の不人気ぶりが気にかかる。数式が出てきて難しい、と敬遠する生徒が増えていることも考えられる。「いまの高校生にとっては、サイエンスといえば化学や生物というイメージなのだろうか」

 同学会の活動目的はもともと研究分野に限られていた。だが、理科離れが深刻化するのを受け、01年に定款に「物理学の進歩普及を図り」という文言が加わった。それ以降、啓発や教育にも取り組んできた。

 来年は、アインシュタインが特殊相対性理論など画期的な論文をまとめて発表した「奇跡の年」からちょうど100年にあたる。「世界物理年」と銘打って、物理学を啓発する催しが世界各地で計画されている。

 物理学会も世界物理年委員会をつくり、物理年にちなむ催しを計画している。たとえば、研究者たちが全国の小中学校、高校へ出向く「出前授業」や、関連学会と共催の物理コンテストを開くことなどだ。「物理学が科学の基盤をつくっていることを、若い人たちに知ってもらいたい」と、並木さんたちは“物理おこし”に必死だ。

 ●二極化も顕著

 設定通過率を上回ったのは確率の問題1題だけという数学は、全教科のうち最悪の成績だった

 答えが書けない「無答率」でみると、図形や証明問題を中心にその率が高かった。鋭角三角形で正弦定理が成り立つことを証明する問題では、無答率が6割を超えた。よくできる生徒とほとんどできない生徒の二つの山ができ、中間層が少ない二極化も顕著だった。

 日本数学教育学会では、次の学習指導要領改訂に向けて提案する「望ましいカリキュラム」づくりを進めている。算数・数学の小中学校9年間の授業時間数は計1184時間。学会長の澤田利夫・東京理科大教授によれば、80年代以降の学習指導要領の改訂で、70年代に比べ283時間が削減されてしまった。

 澤田さんは「数学のように思考力が不可欠な科目は、時間をかけてじっくり教えなければ身につかない。算数・数学の授業時間が絶対的に不足している」と話す。


人が学ぶ動機を「大切」と「好き」から考えるのは間違っていないだろう。
しかし中身についてはどうか。

「物理や化学は大切か」と問われて、国語や英語と同じような結果が出るとしたら、その方が異常ではないか。
「大切で役に立つと思わなければ、身につくはずはない」と下井教授はおっしゃるが、天文学や物理学の知識が、市井の私たちの毎日に「役に立つ」とはとても思えない。

役に立つかどうかという観点からいえば、
理科や数学なんて音楽や美術のように、役に立たない
しかしそれでいいのだ。
40年前の高校生だって、同じように考えたはずである。


昔の学生が理数を好んだとすれば、それは理数科目が金になると信じられたからだ。
「良い高校から良い大学へ、そして良い会社に」入れば、少なくとも自分の親世代と同等の生活が保障され、豊かに暮らせると考えたからである。
その意味で、理科も数学も「大切」だった。

みんなが理数・理数と流れた時代は、理数科に進めば就職に有利で高収入が得られると信じられた時代だったからである。

その条件がなくなった今、残るのは「好き」だけである。

これについてはまだ考える余地がある。
「自然や物質について考え、理解を深めていく面白い学問なんだ」というのは理解できることである。しかし楽しくなるために何が必要かということになると、またさまざまな方向違いの考えが出てくる。

昔は出前授業や物理コンテストなどなかった。それにもかかわらず理科や数学を楽しいと感じる学生が多かったとしたら(ほんとにそうかな?)それはなぜか。

私にはとても簡単なことのように思える。
それは、
昔の学生は科学や理科が好きと思えるほど、理科や数学を理解していた、そこまでレベルの高い学習を、大量にやらされていたということである。

(もちろん、そんな時代は「理科や数学が死ぬほど嫌い」という生徒も大量に排出されていた。これも忘れてはならないことだが)







2004.03.28

初の教頭2人体制 民間人校長起用の2高校

[信濃毎日新聞 3月27日]


 県教委は四月一日付で県内初の民間人校長を起用する小諸高校と松本県ケ丘高校にそれぞれ二人の教頭を配置し、両校長をサポートする。全日制単独の県内公立高校で教頭二人体制は初めてとなる。

 西村広一・小諸、京田伸吾・松本県ケ丘の両校長はそれぞれ元銀行支店長、元航空会社社員。校長に決まり、昨年十二月から県内高校を回りながら研修したものの、生徒指導や教職員への助言、対外的な折衝など、校長の仕事は多岐にわたることから、これまで学校現場の経験がない二人の校長を支える特別な体制が必要と判断した。

 県教委は、広島県尾道市の民間人小学校長を支えた教頭が過労で倒れ、後任の教頭も入院、その後校長が自殺したケースも踏まえた。

 それぞれの教頭二人の具体的役割分担は今後、決める。

 高校教職員の人件費は全額、県費負担。増員する教頭二人の人件費も同様に県費負担となる。


 広島でのことを考えると、教頭2人体制というのは必要な措置であろう。
 しかし教頭2人分の給与というのは2000万円に届こうという額である。
 
それだけの税を使って、民間人校長に何をさせようというのか、何を期待しているのか、何ができると思っているのだろうか。
 それを説明すべきだと思う。

 長野県教委が説明しろ、というのではない。
 説明すべきは、「もっと民間の知恵を」と叫び続けた教育の専門家たちと、彼らをマスコミ載せたメディアの担当者たちである。






2004.03.31

全教科に指導要領超す内容 小学校教科書、検定緩和

[共同通信 3月30日]


文部科学省は30日、来春から使用する小学校教科書の検定結果を発表した。学習指導要領の範囲を超える「発展的内容」が全教科に初めて登場。5年算数で「台形の面積を求める公式」など、内容を厳選した現行教科書では消えた項目が「発展」として復活した。
 「食物連鎖」(6年理科)や「縄文時代」(6年社会)など中学レベルの内容も許容。同時に公表した高校教科書検定では、生物2の「臓器移植と細胞性免疫」など大学レベルも認めている。
 国語、社会では、発展かどうかで文科省側と教科書出版社の見解が食い違うケースが多かった。
 発展の枠とは別に、厳しく制限してきた動植物の種類数を増やすことを認めるなど、理科を中心に検定を緩和する傾向も目立った。 文科省は従来、指導要領を超える記述を一切認めなかったが「学力低下」を懸念する声に押されて変更。昨年の高校教科書検定から選択科目に限って許容し、今回は全教科で認めた。


すべての児童が学ぶ必要はない「発展的内容」とは言え、隣のクラス・隣の学校で教えているかもしれないという恐怖に打ち勝つことのできる教師は少ないだろう。結局、の本全国ですべての子どもたちが台形の面積や縄文時代を学ぶことになる。

大幅に時数が減らされた状況はそのままで、学習内容が復活するということは、著しくゆとりが失われるということである。

数年前のゆとり教育希求は何だったのだろう。
詰め込み教育の鬼のように批判された私たちは、何だったんだろうか。