キース・アウト
(キースの逸脱)

2009年 2月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。
















 



2009.02.06

【特報 追う】“文武両道”歩む秋田の子供 全国体力テスト上位


産経新聞 2月 6日]


 文部科学省が今年度、小学5年生と中学2年生を対象に初実施した「全国体力テスト」の結果が公表された。秋田県は総合点で、小学生が男女いずれも全国2位、中学生も男子が3位、女子が6位と好成績。秋田は先の全国学力テストでも全国トップレベルでまさに“文武両道”を歩んでいる。秋田の子供の高い運動能力の秘密とは?(宮原啓彰)

 全国体力テストには、秋田県から小中学生合わせ1万9368人とほぼすべての児童生徒が参加。「長座体前屈」「握力」や「立ち幅跳び」など全8種目(中学生は選択を含む9種目)で子供たちの体力が測定された。

 秋田は種目別で見ると、小学男女の「ソフトボール投げ」、小学女子の「反復横飛び」および「上体起こし」。中学男子の「握力」が全国1位。一方、全国平均以下だったのは、小学男子の「50メートル走」だけで、平均にわずか0・05秒及ばなかった。

 県教委は「秋田の子供は読書好きや不登校生の少なさでも全国1位。体力面も上昇し、バランスが良い状態だ。大変うれしい」と喜びを隠さない。

 しかし、これまで県教委が独自に実施してきた体力テストでは「2〜3年前まで50メートル走、持久走とも全国平均以下で、その他の種目も決して良いわけではなかった」という。危機感を覚えた県教委は平成13年度から始業前や2、3時限目の授業の間にスポーツや運動を行う「業前・業間運動」を奨励。当時、学習指導要領の改正で削減された体育の授業を補う目的もあったという。

 この結果、小学校での業前・業間運動の実施率は12年度、約37%だったのが、20年度は83%を超え、昭和54年度当時の実施率を回復。実施率に連動して、県の体力テストの点数も右肩上がりに伸びていったという。

                ■   ■

 県教委は「学力も体力も基本からの積み重ねがないと結果が出ない。業間運動など、二重三重の取り組みをこの10年続けてたことが有益だった」としている。教育現場の努力に加え、家庭での規則正しい生活習慣も好結果に影響しているようだ。

 全国体力テストでの生活習慣の質問調査で、秋田は「毎日、朝食を食べる」子供が小中男女すべて全国平均に比べて高く、逆に「1日のテレビの視聴時間(3時間以上)」の割合は低かった。加え、「運動やスポーツが好き」と答えた子供の割合も平均を5ポイント前後上回った。

 県教委は「秋田の保護者はスポーツ少年団などの活動にも熱心。このような地域のサポートは他県にはないのではないか」と話す。

 また、秋田の子供の発育のよさも好結果につながっているとする声も。秋田の子供は身長、体重で全国トップクラスで、秋田大教育文化学部の高崎裕治教授(健康科学)は「テストで特に筋力系の成績が良い理由の一つに、秋田の子供たちの発育のよさもあるだろう」と話す。

 また、全国体力テストの分析を行った浅見俊雄・東大名誉教授は「学力テストと同様、秋田や福井など小規模のクラス編成が可能な地方が好成績だった。県教委の方針が個々の教員、子供たちまで届きやすいのではないか。やるべきことをやり、栄養・運動・休養の3つがしっかりしている県が好成績を収めている」と指摘する。

                ■   ■

 しかし、秋田の子供にも弱点はある。唯一、全国平均を下回った小学男子の50メートル走など“脚力”だ。

 「厳冬期は外出し辛いことや、交通インフラが未整備なことから、登下校にバスや保護者の車を利用することが理由ではないか」と高崎教授は推測する。県教委も「人口規模が大きくなるにつれて、50メートル走の成績が伸びる傾向にある。『どこでも車』の秋田より、都市部の子供の方が、立ったり歩いたりする機会があるのではないか」という。

 実際、質問調査の「普段の登校の方法」では、「徒歩」と回答した小学生は5%以上、中学生では25%近く、全国平均を下回った。県教委も13年度から徒歩通学運動を奨励しているものの、近年の過疎化による学校の統廃合がこの傾向に追い打ちをかけ、自転車やバス利用の子供が年々、増えているのが現実だ。

 浅見名誉教授は「テスト結果をみて、ただ『体力向上』を訴えても学力の受験勉強と同じで定着しない。運動好きの子供を育てる教育をすることが重要だ」としている。

                  ◇

【用語解説】全国体力テスト

 正式名称は全国体力・運動能力、運動習慣等調査。子供の体力低下を受け、文部科学省が、今年度、全国的な子供の体力状況と生活習慣の把握と改善を目的に小学5年生と中学2年生を対象に実施。都道府県別成績が示され、小学生が男女とも(1)福井(2)秋田(3)新潟の順。また中学生が男女とも(1)千葉(2)福井に続き男子(3)秋田、女子(3)茨城となっている。
 



 PISAもそうだし全国学力学習状況調査もそうだし、そしてこの全国体力テストもどうだが、「識者」にあれこれ言わせながら、結局なぜフィンランドが強いのか、秋田が強いのかということに関する決定的な研究というものはまったくしない。
 それぞれが我田引水、自分に都合のよい「事実」だけを取り上げて、言葉を投げ捨てているだけだ。

秋田の保護者はスポーツ少年団などの活動にも熱心。
そんな県はいくらでもある。
秋田の子供の発育のよさも好結果につながっている
その発育のよさはどこから来るのだ?

学力テストと同様、秋田や福井など小規模のクラス編成が可能な地方が好成績だった。
は聞く価値のある内容だが、
県教委の方針が個々の教員、子供たちまで届きやすいのではないか。
となるとお門違いだ。


 私はかつて一クラス13人という学級の担任をしていたことがある。
 小さなクラスでも、精いっぱいの授業をしたが、体育だけは45分の授業を30分程度で端折ってしまうことがあった。
 とにかく運動量が多すぎるのだ。

 14人の前に跳び箱を4台置くと、休んでいる時間がない。跳んで戻ると、もう自分の番になっている。
 7対7で行うバスケットボールはきちんと時間を測らないと、文字通り地獄の特訓となる。
真面目に45分授業を行うと、児童は死んだ状態になってしまうのだ。
 
 秋田の強さは、そんなところから来ているのかもしれない。







 



2009.02.13

鳥取の小学校は「学級委員長」なし
「なれない子供が傷つくから」?


J-CASTニュース 2月 12日]


 鳥取県の公立小学校には「学級委員長」がいない。リーダーを決めれば差別につながる、との抗議を人権団体などから受け自粛した結果なのだそうだ。しかし、2009年春から鳥取市で1校だけ20年ぶりに「学級委員長」が復活する。市の教育委員会が2、3年前から子供達の社会性、自主性を育てるために復活を呼び掛けてきた成果らしいが、後に続く学校が現れるかはわからないという。

■徒競走もコースを変え、同時にゴールする

 鳥取県の公立小学校が「学級委員長」を無くしたのは、人権団体などから「委員長になれなかった子供が傷つく」「自分にはできないと劣等感が生まれる」などの抗議があり、自粛が全県に広がったためだという。図書委員、保健委員といった担当者はいるが、これらの委員は全て横並びの関係にしている。また、「差別」の観点から、運動会の徒競走でも全員が同時にゴールできるように、走るのが遅い子供に対しては、コースをショートカット(近道)したり、スタートラインを他の生徒より前にしたりする学校もあるのだそうだ。

 そうした中、鳥取市では2009年春から1校だけだが「学級委員長」を復活させる。鳥取市教育委員会はJ-CASTニュースの取材に対し、

  「横並びで生徒は『誰かがしてくれるだろう』と考え社会性、自主性が育たない。2、3年前から市内の小学校に委員長の復活を呼び掛けてきた」

と打ち明ける。人権団体とも交渉し「苦情は受け付けない」と突っぱねたのだそうだ。

 その学校は「鳥取市立湖南学園」。08年に小中一貫校の指定を受け09年春から本格的な一貫教育が始まる。同校の金田吉治郎校長はJ-CASTニュースに対し、子供の保護者などから自分の意見を大勢の前でも堂々と表明できるような子供を育てて欲しい、という要望が多くあり、09年春の一貫校としての新制度策定がいい機会だったと明かした。

■愛媛県は半数の小学校に「委員長」がいない

 そのうえで、

  「指導要領を見ても、子供の自主、自立という言葉が盛んに使われている。さらに、みんなをまとめて行くような人材、リーダーを育てていかなければならないとも考えている」

と復活する理由を語った。

 ただし、市の教育委員会によれば、「湖南学園」に続き市内で復活させる小学校が出るのかどうかは分からず、県内の地方の小学校ほど復活は難しいのではないか、と話している。小学校の「学級委員長」を「人権」の視点から無くす自治体は大阪以南に多い。愛媛県が04年に調査したところ、同県の約半数の小学校が「学級委員長」を置いていなかったそうだ。同県の教育委員会はJ-CASTニュースに対し、

  「様々な子供に活躍の場を与えることを目的に、リーダーの固定を避けているのだろう。必ず学級委員長を置かなければならないという規定はないため、それぞれの学校の判断に任せている」

と話している。




 最初に言っておくが、都市伝説か現実かと長く論争になっている、
 運動会の徒競走でも全員が同時にゴール
 について、鳥取県でという明らかの情報をつかみながら、
 学校もあるのだそうだ。
 と、中途半端に放り出すジャーナリズム魂の欠如は何とかして欲しい。私だったら何を置いても学校に駆けつけ、事実を事実として報道するだろうに。
 走るのが遅い子供に対しては、コースをショートカット(近道)したり、スタートラインを他の生徒より前にしたり
 しても同時のゴールなど絶対に不可能と思うが、その秘密も追求しない怠慢にはあきれる。しかし、それも産経新聞らしいやり方なのかもしれない。
 

 さて、ところで、学級委員長というのはいわゆる学級長のことだろうか? いずれにしろ学級委員長や図書委員長、保健委員長を
 「人権」の視点から無くす
 ということ自体、発想になかったので驚いている。
 
 ただし学校というところは正義の牙城だから、
 人権団体などから「委員長になれなかった子供が傷つく」「自分にはできないと劣等感が生まれる」などの抗議
 があればその通りになるし、
 市の教育委員会が2、3年前から子供達の社会性、自主性を育てるために復活を呼び掛けて
 来ればその通りになる。
 学校教育のブレはこうして、相反する正義に翻弄されるところから起こるのだ。
 
 こうなると当然、学校の独自性はどうなっているということになるが、学校の独自性などというものは「教育再生委員会」がつくられ、学校は死んだと宣言されて以来、生きる余地がなくなっている。
 
 学校は今後もさまざまな正義のために翻弄され続けるだろう。その犠牲者は児童生徒だ。
 それを避ける方法はない。







 



2009.02.18

日本の教師、長〜い勤務、持てない自信
比較調査


[朝日新聞 2月 17日]


 日本の教師は労働時間が長く、休暇は短く、自信がない――。日本教職員組合(日教組)が委託した四つの国や地域対象の比較調査で16日、そんな結果が出た。生徒や保護者とのやりとりで疲れ、職場の人間関係に悩む傾向も表れていた。
 イングランド、スコットランド、フィンランドと日本の小中学校の先生に昨年1〜5月にアンケートし、現地調査もした。平均年齢は40歳前後。委託を受けた国民教育文化総合研究所が、日本は岩手、茨城など6県教組の約430人、他は約290〜410人のデータを分析した。
 1日の労働時間は、日本が11時間6分、イングランド8時間30分、スコットランド7時間36分、フィンランド6時間16分で、最長の日本は最短のフィンランドより5時間近く長かった。休憩時間は最短の日本が約20分、最長のスコットランドが約50分。睡眠時間は日本が6時間23分、他は1時間20分以上長かった。
 忙しさや仕事の自信、職場の不満などを聞いたところ、日本は「生徒や保護者とのやりとりで疲れる」が3.7%、「これまでの知識では対応できない」が3.3%でいずれも他国の1.6〜1.7倍、「働き続けるには仕事量が多すぎる」は約2倍の4%だった。
 夏の連続休暇の平均は、日本が約6日、イングランド30日、スコットランド36日。夏休みが2カ月半あるフィンランドは63日で、有料のセミナーや語学学校、レジャーや旅行に使うという。また、学校での授業以外の活動で、日本は他国に比べて「授業準備」が少なく、報告書などの「関連文書作成」が多かった。



 日教組の調査だからそれなりのバイアスがかかっていると考えても、現実と大差があるわけではないだろう。労働時間の11時間6分にしても、午前7時に出勤して部活の指導をし、放課後の部活をやって午後6時半に職員室に戻って机上整理をして帰るだけで12時間。軽く11時間6分は越えてしまう。教員以外のサラリーマンだって、そのくらいは普通にやっているはずだ。
 制度上はきちんと取られているはずの昼休みも、給食の時間と重なっている以上すべて指導の時間になってしまう(給食の時間になると外のレストランに行ってしまう教員なんて、日本にいるか?)。
休憩時間は最短の日本が約20分もむしろ長すぎる感じだ。

  こうした数字を見れば、フィンランドの教員は大学院卒だ、使命感に燃えている、イギリスでは査察官が学校評価を行っている、繰り返し学力テストを行っている等々さまざまに言っても、
日本の教師がこんなに働いても達成できないことは、そもそもムリなのかもしれない
と思ったりもする。
 フィンランドの教育は、教員の質とは別のところで差があるのではないかということだ。

 陸上競技で、
「何億円もつぎ込んでいるのに日本陸連は100mを9秒台走れる選手をひとりもつくれないのはなぜだ」
 と言う人はいない。ましてや
「5年間で9秒台の選手を5人生み出す」
 などという無謀な目標を立てることもない。
 しかし教育の世界では不可能を可能とするような話が平気でまかり通る。

 
これだけ多様化した社会で、これだけ多くの児童生徒を抱え、世界最低の教育予算と、世界最大の過重労働の中で、しかし教師の質はまだまだ上げられるのであって、そのやり方で理想的な教育も必ず達成される。
 と、政府や社会の人々の、その自信はどこから来るのだろうか?







 



2009.02.19

<引きこもり>イタリアでも急増
日本を例に有力紙が特集


[毎日新聞 2月 17日]


 【ローマ藤原章生】イタリアの有力紙「コリエレ・デラ・セラ」が同国で目立つ「引きこもり」を特集した。相談に来る親が急増しているという精神科医らの証言を基に、原因を探っている。

 記事(11日付)は「イタリアの引きこもり(hikikomori)、東京のよう、何年も孤立する少年たち」と題され、社会面に大きく掲載された。刀を持った日本人の少年が乱雑な部屋でくつろぐ姿をイメージ写真として使っている。

 ミラノ発の記事で、「昼は寝て、夜に冷蔵庫をあさり、インターネットと漫画だけの生活」、「過去半年、親に話したのは『ほっといてくれ』の一言」と約10人の事例を紹介。相談を受ける複数の精神科医が「100万人を数える日本ほどではないが、外のひどい世界から逃れ、閉じこもる子が多い」、「頭が良く創造性があるが内向的な10代に多い」と特徴をまとめている。著名な精神分析医が「私が知る事例では、過去2年で5倍に増えた」とその広がりを強調する。

 要因としては「母親との密着や過保護が、自己愛の強い、もろい子にしてしまっている」、「日本では厳しい学校制度、親の過剰な期待が一因だが、イタリアでは学校で(友達)グループとの関係を築けない子の逃避が多い」などとまとめている。対策として「子が小さい時から、共によく遊び、一緒にいて、時に外に一人で出し、自己評価の高い子に育てなければならない」と結んでいる。




 アメリカ合衆国にはhikikomoriはいないと言われている。

 親が成人した子どもと一緒に住む習慣のない合衆国では、ひきこもりを支える仕組みがないため、hikikomori傾向を持つ子は必然的に路上生活者になってしまう
、という説明だった。なるほどとも思う。イタリアでそうならないのは、さすが「ママ・ミーア」の国ということになる。

 さて1990年代、日本でイジメが大問題になっていた時期、マスコミや識者の一部は「イジメがあるのは先進国で日本だけ」ということをまことしやかに言い続けた(アメリカではイジメられた子が銃で相手を殺してしまうから、少なくとも「イジメ自殺はない」といった妙な話をしていた人はいた)が、その後、各国に同じような状況が多々あることが明らかになった。

 
イタリアでは学校で(友達)グループとの関係を築けない子の逃避が多い

 文明社会は、あえて濃い互助的な人間関係をつくらなくても、金さえあれば機械とシステムが生活を支えてくれるようになっている。そうなると無理をして人間関係を築き、維持する必要はほとんどなくなる。したがって人間関係それ自体に楽しみを見つけない限り、残るのはただ煩わしさだけだ。


 そうした観点からすれば
「グループとの関係を築けない子の逃避が多い」という状況はどこの先進国でも起こりそうな気がする。実際にはどうだろうか。訊ねてみたいところだ。






 



2009.02.20

キレる親急増…児童相談所の積極介入に反発


[読売新聞 2月 19日]


 虐待を受けた児童の保護を巡り、児童相談所(児相)の職員が保護者から暴言や暴行を受けるケースが2006年度に全国で140件に上り、記録のある1998年度の5倍以上に増えたことが厚生労働省の外郭団体「こども未来財団」(東京都)の調査でわかった。

 暴力をふるわれたり刃物で切りつけられたりするケースも起きている。虐待家庭への立ち入り調査権など児相の権限が強化され、親とのトラブルが急増していることが背景にある。

 「何で家に帰せないのか」。昨年10月、佐賀県中央児相の相談室で虐待やネグレクト(育児放棄)を受けたとして施設に入所する中学3年女児の母親(40歳代)が児童福祉司など職員3人に声を荒らげた。

 女児が施設を退所するかどうかの相談中で、母親は「娘と一緒に暮らしたい」と申し出たが、女児が拒否。職員が「(女児の)意思を尊重したい」と伝えると、母親は突如、机やドアをたたいて怒りをあらわにし、職員に殴りかかろうとした。

 福島県中央児相では昨年3月、職員を包丁で切りつけた親が傷害容疑で現行犯逮捕された。北九州市子ども総合センターでも2006年10月、親が職員を壁に突き飛ばすなど暴行して公務執行妨害容疑で現行犯逮捕されており、事件になるケースも起きている。

 大阪府中央子ども家庭センターでは「子どもを返すまで帰らない」と深夜まで居座ったり、「子どもを返せ」などと電話やファクスで執拗(しつよう)に抗議したりしてくる事例があり、大分県中央児相の職員は「殺すぞ」と電話で脅迫された。

 調査は、同財団が06年度に全国191か所の児相を対象に行い、137の児相から回答があった。その結果、暴言67件、脅迫32件、自殺や自傷のほのめかし22件で前年度比19件増の計140件だった。暴力の件数は明らかにしていないが、現場では「保護者との摩擦がここ数年で増えている」(福岡県中央児相)といった声が多い。調査を担当した関西学院大の才村純教授(児童福祉学)が98年度に行った同様の調査では全体で25件だった。

 背景には、00年に施行された児童虐待防止法に、児相の虐待家庭への立ち入り調査権が盛り込まれたことがある。厚労省雇用均等・児童家庭局総務課は「以前は親が納得しないと保護を断念していた事例でも虐待死など最悪の事態を防ぐために積極的に介入しており、反作用として強い反発が起きている」と分析する。

 こうした親の暴力行為に対処するため、長崎こども・女性・障害者支援センター(児相)では07年、3本の刺股(さすまた)を配備。昨年、県警の暴力団担当職員が暴力的な保護者にふんして対処法を指導する研修も実施した。大阪府中央子ども家庭センターでは刺股のほか防刃チョッキもそろえている。

 ただ「過度な警備は気軽に相談に来られない雰囲気を招く」と指摘する声もある。才村教授は「警備強化では根本的解決にならない。話し合いで親を納得させられる職員の育成が急務だ」と話している。(川口知也)



 口で表現すれば簡単なのに、文字に表すと難しい言葉がある。したがって、そのニュアンスをうまく伝えられるか分からないのだが、この記事を読んでの私の最初の感想は、チンピラ少女がしばしば発する、あの言葉である。

サイテ〜


「警備強化では根本的解決にならない。話し合いで親を納得させられる職員の育成が急務だ」

 そんなことは百も承知だ。
 しかし子どもを引き戻して虐待しようという親を納得させられる論理が、どこにあるというのか。

 才村教授が正しければ、世の中は非常に簡単なものになるだろう。

「少年法の厳罰化では根本的解決にならない。話し合いで子どもを納得させられる児童相談所相談員の育成が急務だ」

「逮捕送検では根本的解決にならない。話し合いでドライバーを納得させ、二度と交通違反を起こさないよう納得さられる警察官の育成が急務だ」


「懲役や禁固刑・死刑では根本的解決にならない。話し合いで二度と犯罪を起こさせないよう納得させられる裁判官の育成が急務だ」


 才村教授は本気で、言葉の万能性を信じているのだろうか。







 



2009.02.27

授業料未納者に「卒業証書渡さない」通知 
島根県教委


[産経新聞 2月 27日]


 島根県の8つの県立高校が、保護者向けに「授業料を滞納している生徒に卒業証書を渡さない」と通告していたことが27日、分かった。県教育委員会は「卒業証書を人質に取ったと思われても仕方なく不適切」とし、各校を厳重注意した。
 県教委などによると、安来高校(安来市)は、毎月約10人の滞納があり、今年1月に3年生の約150人全員に「期限までに全額納入がない場合、卒業証書をお渡しできません」との文書を配布。期限までに納入があり3月1日の卒業式では全員に卒業証書を授与する。昨年1月にも当時の3年生に同様の文書を配布していたという。
 ほか7校は、平成16年度以降、支払い能力があるのに滞納していた保護者計65人に、口頭や文書で通告。うち1校では18年度、1人に卒業式で証書を渡さず、後日に手渡したという。


 別に島根県教委が頑迷なわけではない。
 誰かが、「卒業証書を人質に取るような真似をしていいのか?」と尋ねた結果がこうなった(聞いたのは新聞記者なのかもしれない)。そう問われて、県教委としては、いいとは絶対に言えないのだ。
 
そこで、
厳重注意となるのだが、注意を受けた高校の方はどうすればいいのか?
 
 話し合いとかお願いでことが済むなら、卒業式まで引きずっては来なかっただろう。ここで卒業されてしまったら、2度と回収のチャンスはないかもしれない、そういうギリギリの状況なのだ。
 
 では問題解決の方法はないのかと言うと、これはいくらでもあるだろう。
 県が債権回収業者を雇うとか、警察に訴えるとか、あるいは税金から不足分を補うとか、そもそも給食費を無料にしてしまうとか・・・・。
 しかしそれらのいずれもが、かつて否定されたりこれから否定されそうなものばかりなのである。
 
 義務教育ならまだしも、高校で、
「期限までに全額納入がない場合、卒業証書をお渡しできません」で、なぜいけないのだろう?

 
生徒が学校に来ている限り、私たちは給食を出さざるを得ない。
 その意味で、

卒業証書を人質に取ってでも給食費を払わせようとしている相手は、
自分の子どもの人質にとって給食費を払わずに来た人たち


 ではないか。