キース・アウト (キースの逸脱) 2010年4月 |
by キース・T・沢木
サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。 政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。 落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。 ニュースは商品である。 どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。 ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。 かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。 甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの、本物そっくりのまがい物のダイヤ。 人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄 。 そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。 |
2010.04.03
保護者らの無理難題に困惑!対応マニュアル配布
[読売新聞 4月 3日]
理不尽な要求をする「モンスターペアレンツ」と呼ばれる保護者や、地域住民からのクレームに対応するためのマニュアルを大阪府教委が作り、各府立高校な どに配布を始めた。
題名は「学校・家庭・地域をつなぐ保護者等連携の手引き」とソフトだが、内容からは無理難題に振り回される学校の現状も透けて見える。
A4判44ページ。電話や面談での対応のポイントを簡潔に記した「解説編」と、具体的な対応を考える「事例研究・研修編」の二つが柱となっている。学校 へのクレーム問題に取り組んできた大阪大の小野田正利教授のほか、弁護士らの協力も得てまとめた。
解説編は、まず▽相手の言葉をさえぎらない▽「そのお気持ちはよくわかります」と相手の気持ちに寄り添う言葉を――など相手を刺激しない方法を説明。要 求の内容を学校全体で共有するための「応対メモ」の作成例も添付した。それでもこじれた場合は、▽謝罪文や念書など書面の要求には応じない▽学校現場の判 断での金銭補償は絶対避ける――といったアドバイスも掲載した。
大阪府教委は親切でやっているつもりだろうから文句を言うのも気の毒だが、これは本来教員がやるべき仕事だろうか?
教職員がやるべきと思うが、子どもの教育を直接に司る教員の仕事ではない(教職員というのは教員に校長・事務・用務員などを含んだ学校職員全体のこと)。勉強を教え、人間性を育てる仕事をしている教員が、クレーム処理に忙しく、本来¥業務ができないといったことが、あっていいものだろうか。
大阪府の教職員の数を考えれれば、学校は大企業にも匹敵する巨大組織だ。そこに一人の「お客様係」もいないというのは、民間では許されないことだ。
保護者のクレームという重要な案件を教員に任せようというから結局うまく行かない。うまく行かないから教科指導も生活指導もボロボロになり、「ダメな学校には出ていってもらいます」の対象になってしまう。
橋下知事、ものをしっかりと考えなさい。
長崎県五島市の県立五島高校が3日に新入生を対象に実施したオリエンテーションで、指導教諭らが服装などに乱れがあったとして生徒21人 を約3時間正座させ、女子生徒に「男の気を引くためか」などと発言していたことが10日、同校への取材で分かった。学校側は既に生徒と保護者に謝罪している。
2010.04.10
服装に乱れ、新入生21人に正座3時間
長崎の県立高
[産経新聞 4月10日]
同校によると、生活指導のオリエンテーションは校内のホールで実施、 約20人の教諭が生徒200人の服装などを検査した。長髪やまゆを細くそっていた女子生徒に「男の気を引くために高校に来たのか」と発言し、男女21人に 板張りのステージ上で正座し反省文を書くよう指示した。
同校の上田克教頭は「反省文を書き上げるのに想定以上の時間がかかった。長時間の正座は指導目的を外れており、結果的に無用な苦痛を与えた。女子生徒への発言も不快に思われるものがあった」としている。
私の言う「指導の相殺法」の典型例である。
相殺されたのは「生徒たちが行った不正」と「教師の指導の行きすぎ」、その二つがチャラにされ、教師は謝った。つまり教師側の敗北であり、最初から指導しない方が良かったということになる。
ただし最終的な損失は生徒の側に帰せられるのであり、今後、厳しい指導を受けないことで、この子たちの将来は相当につらいものになるだろう。可愛そうなことだ。
それにしても、
反省文を書き上げるのに想定以上の時間がかかった
というのも泣かせる。
誰だって指導の最初で、作文に3時間もかかるとは思わないだろう。昔の子どもだったら、本気で反省しようがいい加減だろうか、とにかく20〜30分で書き上げ、さっさとその場を離れたはずだ。ところが今の子は頑固で、頑固に頑張ればどこかに勝機が生まれると信じているところがある。教師の弱みを知っているのだ。
ああ、もうそろそろ止めにしたらどうだろう?
服装指導などやって教師が辱められるくらいなら、子どもが悪なることも学校が荒廃することも、耐えられるというものではないか。
小6と中3を対象にした4回目の全国学力調査が20日、実施される。過去3回は全員参加だったが、政権交代で方針が変わり、今年から全体の3割の学校を取り出す抽出方式になった。ところが、抽出から外れても自主参加を希望するところが相次ぎ、結局公立学校の75%が参加することに。「100%参加」も13県にのぼる。学力向上を求める保護者の声が強いなか、教育委員会には「競い合いの場から降りるわけにはいかない」という考えが根強い。
2010.04.19
学力調査「降りられない」、公立学校の75%が参加へ
[朝日新聞 4月19日]
◇
参加率100%の13県をみると、九州が6県と多い。過去の成績がトップクラスの秋田、福井両県も全校参加だ。高知県(100%)、大阪府(96%)など、これまで成績が芳しくなかったところの参加率の高さも目立つ。
福岡県では、県教育長が昨年11月の県議会でいち早く全校参加の方針を表明した。同県はこれまで、県内の各教育事務所に学力向上支援チームを設け、「強化市町村」の学校には非常勤講師を送り込んできた。算数の授業が難しい分野に入ると1学級を教員3、4人で指導したケースもあり、県教委は「地域差は縮まり、対策が実を結びつつある」。今回の学力調査については県内7地区別の成績を県が集約し、これまで同様公表する予定だという。
正答率を「九州トップレベル」にすることを目標に掲げる大分県も今回、全校が参加する。県教委は、成績を自主公表して正答率アップなどの数値目標を作成した市町村教委に教員を増員する措置をとっており、昨年度は全18市町村が成績を公表した。県北部の豊後高田市では、教員らに配布するため学力向上の取り組み例などを220ページの冊子にまとめたという。
過去の成績が常にトップクラスだった秋田県も、「子どもの力を伸ばす貴重な機会」として一斉実施を各市町村に要請した。県教委は「全国学力調査は、学力を継続的に把握して改善につなげられる制度だ」。
しかし、こうした「希望参加」には課題がある。福岡県や高知県などは答案回収や採点、集計を業者に委託する予算を組むが、予算措置がないところは教員らがやらねばならず、学校現場の負担は増す。テストには採点者によって点数評価が分かれる可能性がある記述式も含まれており、「国と自主参加分の採点基準に少しでもずれがあれば正しい分析ができない」(鳥取県教委)という心配もある。採点作業が各市町に委ねられている石川県内の小学校の教員は「精度を上げるには国の基準に照らし合わせるなどしてじっくり時間をかけなければならない。日常業務を抱え、どこまでやれるか……」。
大阪府豊中市教委は、抽出から外れた学校はあえて参加しないことをいったん決めていた。しかし、3月上旬の中間集計で府全体の参加率が9割を超えていることがわかり、急きょ「全校参加」に方針転換したという。
全県で100%参加の鹿児島県教委の担当者は「保護者から『なぜうちの学校はやらなかったのか』と聞かれたら、何と答えるのか。教員の負担を考えて参加しなかった、などとは言えないはずだ」と話す。
◇
参加率が低い地域には、代わりになる独自のテストを実施しているところも目立つ。
抽出校以外は参加しないことを決めている横浜市教委は「小中全学年で実施している市独自の学力調査の方を充実させたい」。同じく自主参加ゼロの名古屋市も、2005年度から市内全校の小5と中2を対象に国語と算数・数学で学習状況調査をしており、今年も4、5月に実施する。「同じ時期に二つのテストをする必要はないと判断した」という。東京都の豊島区や大田区なども、区独自の学力テストがあるとして希望参加を見送っている。
◇
〈全国学力調査〉2007年にスタートし、毎年4月、国語と算数・数学の2教科で実施。基礎的な知識を問うA問題と知識の活用力を問うB問題がある。「全員参加で地域同士の競争心があおられている」「全体の学力傾向をみるためならサンプル調査で十分だ」という指摘があり、政権交代によって今年は31%の学校を取り出す抽出調査に。予算は全員参加の時の約60億円から約30億円に減った。抽出から外れても希望すれば文科省から問題が無償提供されるが、国が採点、集計するのは抽出校に限られる。一斉実施にはしないところもあり、全校参加の東京都墨田区では教材としてふだんの授業で解いたり、宿題に出したりする学校もある。
結局こういうことになる。
前年度予算の57億円のうち、40億円はテストの採点費用である。公立学校の7割5部が参加するとなると、テスト作成料はもちろん、用紙代・運送費もそうは変わらない。結局学校数が違ってくるのはその40億円の部分だろう。
前年度予算の57億円から24億円削って33億円となった今年度の、24億円分のほとんどを(単純計算すれば20億円ほどを)、教師の時間とエネルギーで稼ぎ出すと言うわけだ。
もちろん事業仕分けの段階で、政府民主党や文科省が予測しなかったわけではない。抽出式でやっても大部分の自治体がテストに参加するだろうということは、あらかじめ予想できたことである(一教師である私ですら予想していた)。そうした見通しがあって初めて、仕分けのテーブルに乗せたのだ。
残業手当のない教員はいくらでも働かせることができる、それは誰でも知っているだろう。かくして、予算は減らせるは、テスト結果は悉皆に近い数字が手に入るは、民主党も文科省も、地方公共団体もホクホクであろう。
あとは教師がどうしていくかであるが、大切な授業を自習にてしてこそこそと採点業務に当たる教師がいないよう、切に願う。
ところで、全国学力学習状況調査の問題は、たぶんPISAのテストを意識したためだろう、学習指導要領に準拠した形にはなっていない。学校は普通、国の定めた指導要領にしたがって授業を進めているため、自分たちの授業の質や児童生徒の学力を確認するためには、全国学力学習状況調査ではなく、指導要領準拠のテストをしておく必要がある。
CRTとかNRTと呼ばれるテストがそれで、学力に誠実な学校は、毎年行って児童生徒の学力の推移を追っている。その費用はもちろん学年費などで保護者に負担を求めている。
こちらの方がはるかに役立っているからである。