キース・アウト
(キースの逸脱)

2011年2月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。


















2011.02.03

公教育の現状 これでは子供が育たない


産経新聞 2月 2日]


 先月下旬の日本教職員組合(日教組)の教育研究全国集会(教研集会)で、問題授業の一端が明らかになった。
 佐賀市の小学校教師は、児童の考えを変えたことを誇らしげに報告した。将来の夢を「自衛隊に入り日本を守る」としていた児童が、授業の後には「自衛隊を含め一切の武力を放棄すべきだ」という意見になったという。
 沖縄県の中学教師は、自衛隊の国際貢献を否定的に考えさせようとしたところ、生徒から「他国の人々を助ける」などプラス評価が出たことを嘆いた。
 教科書などの記述が政府寄りの考えばかりだとし、「もっと反論できる資料を持ち込まないと」という。教師の政治的主張を一方的に押しつける授業がまかり通っている。子供がかわいそうだ。
 領土問題も分かっていない。北海道の中学教師は、北方領土について教えているうち「どこの国の領土か分からなくなった」という。歴史的経緯もきちんと理解できていないようだ。日本固有の領土であることを教えられないようでは一体、どこの国の教師か。
  「平和教育」などの分科会では、日本を悪者とする一面的歴史観や「戦争は怖い」と強調する授業の報告が相変わらず目立つ。千葉県の小学校では「『桃太郎』 で退治される鬼の立場になって考えてみよう」と戦争を考えさせたというが、世界史や国際情勢を無視した自己満足でしかない。そもそも桃太郎は、勇気や正義 を教える昔話だろう。
 先人がいかに苦労して国を守ってきたか、そこを理解していない。それどころか新しい学習指導要領で重視される国や郷土を愛する心の育成、道徳教育充実を、「強制」などと否定する報告も変わらず少なくない。
 日教組の組織率は低下が続き、26・6%(昨年10月)だ。しかし地域によっては高く、旧来体質から抜けきれない教師の影響が強い。新指導要領を骨抜きにした勝手な授業が行われないよう注視すべきだ。
 民主党の支持団体である日教組は、教職員の増員や待遇改善に熱心な一方、教員免許更新制には反対で、教育改革の後退が懸念される。免許更新などで教師が不断に努力し、独りよがりの偏向した授業をなくすことこそ、公教育の信頼回復につながる。


 産経新聞と日教組の確執は昔からなので今更の感がないわけでもないが、もうそろそろ日本の教育問題を日教組で解こうとするのはやめたらどうか。問題の本質を見誤る。

 日教組の組織率は低下が続き、26・6%(昨年10月)
 裏を返せば日教組組合員に批判的で不参加の教員が3倍近くもいるのだ。それなのに
「日教組が日本の教育を悪くした」といった言い方をするなら、残りの73・4%を無条件で免罪することになる。それでいいわけはないだろう。

 
しかし地域によっては高く、
 というなら地域によっては逆に低く、組織率ゼロ%だというところだってある。
 
日教組犯人説に従えば組織率ゼロの都道府県なら良い教育がなされていると考えてもよさそうなものだがさて、栃木・岐阜・愛媛は日本の教育の理想なのか。

 また、組織率の高いグループの中にいる秋田・富山・福井あたりは
 旧来体質から抜けきれない教師の影響が強い
 新指導要領を骨抜きにした勝手な授業が行われないよう注視すべき

 県なのだろうか(もちろんこれらの県が「学習指導要領を無視しているから『全国学力学習状況調査』のテストで高い成績を上げてる」と考えるなら別だが)。
 それとも産経新聞は「学力が高ければいいというものではない」とでもいうのだろうか。

 この「キース・アウト」でも再三引用するように、産経新聞は私の特に好きな新聞なのだ。

 しかし
繰り返し「自虐的歴史観」を問題視する産経新聞の、自分自身の「自虐的現代教育観」には、相当にウンザリしてきた。
 







2011.02.11

子ども手当、手元に残らない?
修学旅行費天引きも検討


朝日新聞 2月10日]


 給食費や保育料だけでなく、修学旅行の費用や教材費も子ども手当から天引きされることになりそうだ。厚生労働省が10日にあった自治体向けの会議で、検討する方針を示した。保護者の同意を前提としているが、原則月1万3千円の手当は、ほとんど手元に残らないかもしれない。
 厚労省は自治体の要望を受けて、4月分の子ども手当から保育料や給食費の徴収を認めた。この日の会議では、これに加えて(1)幼稚園の授業料(2)小中学校の教材費や学級費(3)児童・生徒会費(4)修学旅行費――なども、保護者の同意があれば徴収できるようにする考えを示した。
 天引きできる項目は、子ども手当法が成立した時点で省令で定める。どの項目を天引きするかは、自治体が判断することになる。
 また、今回の子ども手当法案では、海外留学中の子どもにも手当が支給されることになるが、厚労省は留学開始から3年間までが支給対象と説明。中学卒業までに帰国すれば、再び支給対象になる。




 はて、どういう趣旨の記事なのか。

 原則月1万3千円の手当は、ほとんど手元に残らないかもしれない。
 確かにその通りで、給食費が5000円ほど、旅行積立と学年・学級費を合わせて3000円ほど、合わせて7000円〜9000円程度が月々学校に納める費用だ。そうなると4000円〜6000円程度しか保護者の手元に届かない。

 
それでは親の取り分が足りない、ということなのか。
 子ども手当が教育費に回されるのは問題だということなのか。
 それとも親が遊興費に充てようとしていた13000円が手元に届かないのは困った話だということなのか。


 朝日新聞は時々わけのわからない記事を書く。いったいどういう世論を喚起しようとしているのだろうか。







2011.02.19

学力調査「全員参加」復活?
数年に1回、文科省検討


朝日新聞 2月18日]


 全員参加方式から抽出方式に切り替わったばかりの全国学力調査について、文部科学省の専門家会議が全員参加方式の復活案を検討し始めた。抽出方式を維持しつつ数年に1回は全員参加とする案だ。
 学力調査は2007年度から小学6年と中学3年を対象に年1回行われ、09年度までは全員参加だった。「抽出調査で十分」とする民主党が政権に就き、 10年度から対象学年の3割を抽出する方式に切り替えられた。ただ、抽出から外れた学校の希望参加も認められており(採点は各校や自治体が行う)、10年 度は全小中学校の7割が参加した。
 全員参加方式には「きめ細かな学力把握のために」と再開を望む声がある一方、「過度の競争につながる」との批判も根強い。
 18日に専門家会議の会合で示された案は、全員参加方式だった3年間の調査を「信頼性の高いデータが蓄積された」と評価。「当面、抽出方式で調査目的を 実現でき、全員参加でなくとも必要なデータを得ることは可能」としつつ、3〜5年に1回程度を想定し、「数年に1回は、きめ細かい調査を実施することも検討の必要がある」とした。
 具体的には全員が同じ問題を一斉に解く方式のほか、広い学習範囲のデータをとるため難易度や出題内容の違う複数の問題冊子を使う全員参加型▽希望参加を認め、採点なども国が行う「抽出率アップ方式」などを想定している。
 専門家会議は「学力の経年変化分析を重視した新タイプの調査方式の開発」や「全国学力調査と地方独自の調査のデータを結びつけるシステムの構築」も提言している。
 今年4月の学力調査は現行の抽出方式で行われる。




 全国学力学習状況調査の行われる4月第3週は学校にとって決して楽な時期ではない。
 児童生徒にしてみると新入生を迎える会を行い児童生徒会を行い、進級確認テストを行う時期である。
 学校にとっては最初の参観日が行われ(PTA役員を決めなければならない)、PTA総会があり、新任の職員の歓迎会があり、各種団体の第一回総会のあるときでもあるのだ。
 この時期の全国学力学習状況調査は本当につらい。

 教師も保護者も児童も生徒も、一年で一番落ち着かない時期にこのテストはある。とにかく御上がやれと言うからしかたない、そんな思いでやってきた。

 ただ、抽出から外れた学校の希望参加も認められており(採点は各校や自治体が行う)、10年度は全小中学校の7割が参加した。

 その忙しい時期に学校が進んでこのテストをやりたがるはずはないのだが全国学力学習状況調査実施の可否は学校ではなく各地教委に権利があるのでどうすても「やる」ということになる。かくて7割の学校が「希望参加」をさせられ問題用紙を受け取ることになった。
 
 しかも悉皆のうちは
テスト処理を公費でやってもらえたが希望参加となるとそれがない。
 記述式ばかりのテストを4種類公平に採点するというのは容易なことではない。
 さらに「学習状況調査」となると75項目もあり、集計だけで大変な作業となる。それが本年度から学校職員の仕事になった。

 大変なことは予想されたが、実際にやってみたら事後処理は想像以上だった。特に「公正な採点」という部分が最も厄介なのだ。
 そこでこれはもう耐えられない、23年度は希望参加を見送ろうと考え始めた矢先、
 抽出方式を維持しつつ数年に1回は全員参加とする案
 である。現場の落胆は大きい。

 これで全員参加以外の年も、「希望参加」の手を下しにくくなった。数年に1度は必ずある悉皆の隙間を埋めない理由はないからである。逆になぜ手を上げないかの説明が必要になる(「忙しいから」とは絶対に口にできない。教師が楽をすることを、世間は許さない)。
 
 こんなことなら悉皆テストを維持すればいいのにと思うが、要する予算がないからできない。
平成21年度の悉皆テストでは54億円かかった実施費用が22年度には30億弱で済んだ。差額の24億円は教員が時間と骨身を削って叩きだした金額なのである。

 政府のちょっとした気まぐれで、そのたびに負担が加わる。加算されても引かれることはない。
 やってられない。








2011.02.21

わいせつ教諭相次ぐ…被害の4割、勤務先の子


読売新聞 2月20日]


 全国の公立小、中、高校と特別支援学校で、児童買春や盗撮などのわいせつ行為により教員が懲戒処分を受けるケースが相次いでいる。

 1999年度に懲戒処分は97人(うち懲戒免職56人)だったが、その後、増加傾向をたどり、ここ数年は、150人前後で推移。2009年度は10年前 の1・4倍に増え、懲戒免職も2倍近くに上った。被害者は、勤務先の児童・生徒が4割を占めた。各教育委員会は処分基準の厳格化など、再発防止に取り組む が、十分な成果は上がっていない。

 文部科学省が47都道府県と18政令指定都市の計65教委を通じて調査した結果、09年度にわいせつ行為で処分された教員は138人。内訳は懲戒免職 100人、停職24人、減給9人、戒告5人。懲戒処分には至らない訓告や諭旨免職も15人いた。09年度の事例(訓告、諭旨免職含む)を見ると、被害者 が、勤務先の児童・生徒だったケースが63件(41・1%)で、対象行為は「体に触る」が55件(35・9%)、「性交」が33件(21・5%)、「盗 撮・のぞき」18件(11・7%)など。中学教員が57人と最多で、高校教員46人、小学教員38人と続く。



「ああ言えばこう言う辞典」の基本的スタンスは学校の説明である。その上で二者択一ならとりあえず教師の味方をする。しかし児童生徒を標的とするわいせつ行為については一切支持しない。弁護しない。全くそんな気になれない。「ストレスに負けて」といった言い訳も認めない。
 
こうした輩は懲戒免職の上、全財産没収で構わないと私は思っている(ただし家族の生活は保障)。

 しかしそうしたことを前提とした上で、ひとつだけ誤解されたくないことがあるのでここでこの記事を取り上げた。

 それは
これだけわいせつ事件が増えたように見えても、それは教員の質が落ちたというわけではないということだ。

 平成不況以降に教員になった人々は滅茶苦茶に優秀である。彼らは異常に頭がよく、よく努力する。必要なら何でも勉強にしてしまう。
 そのすごさは、相手がその世代なら、私は今すぐに給料を逆にされても仕方ないと思ほどだ。

 教員の質は落ちていない。少なくとも平均値としては底上げされている。
 
にもかかわらず「わいせつ教員」が増えているように見えるのは、結局、基準が厳しくなったのと彼らを教育界から排除するシステムが整ったことによるのだ。

 私が新卒のころだってわいせつ教員はいた。しかしそれを校長に訴えても教育委員会に訴えても、彼らを馘にする方法はなかった。教委は校長任せで、校長には口頭指導以上の何の権限もない。だから注意するとしばらくはいいものの、すぐに元に戻ってしまう。

 担任は自分の子どもがわいせつ教員にの餌食になることを見過ごすことができない(当り前だ)。そこで時間割をいじって自分の空き時間をその教員の授業に合わせてクラスに監視に入ったり、直接対決したりと大変な苦労をしてきた。あとは警察沙汰にならないよう天に祈るだけだった。
 警察沙汰自体が怖かったのではない。そこまで大きなことを起こされると生徒もただでは済まないからだ。当時でもわいせつ教師を庇うほど私たちは愚かではなかった。
 それが20年ほど前の私たちの姿だ。

 それに比べると今はずいぶん楽にった。

 奴らは全員排除しなければならない。
 しかし
大半の教師は、今も子どもことを最優先に考えすべてのエネルギーを注いでいるのだ。この人たちを巻き込んではいけない。