キース・アウト
(キースの逸脱)

2011年3月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。


















2011.03.04

<入試ネット投稿>「まさか山形とは」教育関係者に衝撃


毎日新聞 3月 3日]


 京都大や早稲田大など4大学の入試問題が試験時間中にインターネットの質問掲示板「ヤフー知恵袋」に投稿された事件は2日、投稿に関与したとみられる山 形県の県立高校を卒業した仙台市在住の男子予備校生(19)が浮上し、急展開を見せた。山形県の教育関係者や仙台市にある予備校には衝撃が広がり、深夜ま で事実関係の確認や報道対応に追われた。【林奈緒美、和田明美、須藤唯哉】

【入試ネット投稿】仙台の予備校生関与か 逮捕状請求へ

 山形県教委には2日夜、報道各社からの問い合わせで、入試問題投稿に関係した予備校生が山形県出身という情報が入った。県高校教育課の阿部和久課長は県 立の進学校の各校長への確認作業に追われた。毎日新聞の取材に対し阿部課長は「まさか山形出身者とは。校長から確認してもらっている最中だ。該当する大学 を受験した予備校生はいるようだが、確定的な話はまだ入ってこない」と驚いた様子で語った。

 また、予備校生が卒業した高校の教頭の家族によると、教頭には午後11時ごろ、電話で連絡が入り、慌ただしく自宅を出て高校に向かったという。家族は「予備校生が卒業生らしい」との毎日新聞の取材に「えっ、そうなんですか」と驚いた様子だった。

 一方、この予備校生が通っていたとみられる仙台市青葉区にある大手予備校の仙台校には2日夜、報道陣が詰め掛けた。女性職員は「すべて名古屋市にある本校で掌握している。こちらは何も分からない」と繰り返した。詳細については「何も分からない。答えられない」と述べた。

 同校から出てきた仙台市太白区の高校1年の男子(16)は「何でそんなことをしたんだろう。(東北地方と聞いて)驚いた。センター試験で通って京大を受験できたのに……」と話した。





 一年に55万人も受ける大学入試。これだけの人数となれば、カンニングがばれて試験場をつまみだされた受験生も、毎年一人や二人ではなかったはずだ。
 それが、
「まさか山形とは」教育関係者に衝撃
・・・さほどの問題ではないだろう。

 
山形県の教育関係者や仙台市にある予備校には衝撃が広がり、深夜ま で事実関係の確認や報道対応に追われた。
 というのも(事実関係の確認なんてできっこないから)、
要するに
ボクたちが大挙して駆けつけたので、山形県の教育関係者や仙台市にある予備校が大変だった
ということを記事にしただけだ。なにをやっているのか。

 リビアで1万人近い人々が殺されている最中に、トップに持ってくるようなニュースなのだろうか。
 
若気の至りでカンニングした男の子がいた。そこでその子を不合格にし、その旨を予備校と出身校に連絡しておしまい、その程度の話だろう。
 将来ある若者を逮捕、起訴といった話ではないと思う。

 今後、大学入試でのカンニング犯はみんなあんな目に会うのだろうか?

 八百長相撲のときも思ったが、
他人の不正は最大限に罰しないと気がすまない狭量が、マスコミや世間を跋扈している
 空おそろしいことだ。


*ところで、大相撲の方はその後どうなったのだろう?
「大相撲を立て直して誰もが納得できるスポーツにする」と言った政治家がいたが、10年もすると相撲も階級制になって、白回しと青回しの関取が、専用のウェアで3分の時間枠で戦うという日が来るのだろうか。
 柔道がスポーツになった時はそうだった。

 






2011.03.05

教師VSモンスター親
「筋違い」か「最後の手段」か…尾木ママら激突


産経新聞 3月 4日]


 埼玉県行田市の小学校の女性教諭が、度重なるクレームで不眠症に陥ったなどとして担任する 児童の両親を相手取り、慰謝料500万円を求める訴えを起こしたことが明らかになった。「モンスターペアレント(学校に理不尽な要求をする保護者)」の問題が指摘されて久しいが、教員が親を訴えるのは極めて異例の事態だ。ともに学校教育の現場で豊富な経験を持つ日本教育大学院大学の河上亮一教授と法政大学の尾木直樹教授に、意見を聴いた。(磨井慎吾)

                   ◇
≪河上亮一氏≫
■最後の手段で仕方ない
○訴訟は増えるのでは

−−教師の提訴をどうみるか
「提訴はやるべきことをすべてやった上での、やむなくの選択ではないか。学校教員の場合、今後の教員人生や生徒が傷つくことを考えると、よほどひどい状況 がない限り訴訟には踏み切れない。同じ境遇で苦しんでいる教員は全国にいるはずで、今後似たような訴訟が増えるのではないか」

−−モンスターペアレントなど、近年の学校問題の原因は
「教員の能力低下よりも、社会的な背景を考える必要がある。この30年ほどで、学校を取り巻く状況は大きく変わった。それ以前、児童・生徒やその親は教師 に一目置いていた。学校を出ないと一人前の社会人になれないという共通了解があったからだ。教師に不満があった場合でも、親は先生の言うことをよく聞けと 言って、学校の役割を駄目にしないようにしてきた。だが世の中が豊かになり、社会人にならなければという切迫感が薄れ、個性の尊重や自由、平等といった考え方が普及した結果、先生も同じ人間なのに子供の自由を侵害するのはおかしいとの声が上がるようになってきた」

−−クレームにも一理はないか
「教師のやることがすべて正しいわけではない。ただ、学校は一つの小さな社会だ。そこで生活するとき、他の子とトラブルが生じるのは当たり前で、自分の子だけが正しいと言い張るのは無理がある。教 師の判断に対する親側の一方的な要求が通ってしまうと、学校の役割そのものが果たせない」

−−「学校の役割」とは
「学校 は子供が先生を慕うから通わせているわけではない。理想論ではなく、制度として考える必要がある。全国には幼稚園から小中高校まで約100万人も教員がおり、普通の人でも務まるシステムでないと機能しない。教育には上下の関係、つまり家庭なら親、学校なら教師の言うことを聞くという前提が必要だ。学校教育 は集団生活など時に子供がしたくないことをさせる。それが一人の社会人、国民を作るということだ。この30年ほど学校は攻撃を受け続け、後退を重ねてきた が、後退すればするほど教育は難しくなる」

○法律上の支援は必要
−−学校内の問題なのに、学校外に裁定を仰ぐのはどうか
「子供が教師の言うことを聞かないと決めてしまえば、現状では学校側は手出しできない。明らかに追いつめられた状況下では、自身と教育の役割を守るため、 外部の機構に裁定を求めるのも最後の手段として仕方ない。だが当然、望ましい事態ではない。教師の権威の回復と、たとえば出席停止処分を実現しやすくする ためのシステムの整備など教育力を保障する法律上のバックアップが必要だ」

          ◇

≪尾木直樹氏≫
■親を訴えるのは筋が違

−−今回の訴訟の何が問題か
「“モンスターティーチャー”の問題だ。もっと言えば“モンスター校長”、“モンスター教育委員会”の問題でもある。公立学校の教員が子供の親を訴えて、 学校が支持するのはおかしい。たしかにひどい親は多いし、訴えたくなる気持ちはよく分かる。だが、なぜこれまでそうした訴訟が起きなかったかを考える必要がある」

○サポート無いのが問題
 −−教員はどうすべきだったか
「これまでモンスターペアレントが引き金になって自殺に追い込まれた教員は、1人や2人ではない。だが、それで教員の遺族がモンスターペアレントを訴えたかというと、しなかった。ここに問題の本質がある。つまり、公立学校の教員は公務員であるわけだ。この先生が不眠症になったのは本当だろうし、気の毒に思うが、矛先を間違えている。訴えるべきなのは、(配置転換などで)上司として自分をサポートしなかった校長であり、教育委員会だ。これまで自殺した教員の遺族が起こした訴訟でも、求めているのは労災認定で、相手は行政だ。怒りにまかせて親を訴えるのは、筋が違う」

 −−親を訴えるのはなぜ駄目か
「公立学校の教員は公務員として、組織が身分を保障している。校長という管理職がおり、自分たちを管轄する教育委員会という行政にも守られている。そんな公務員と一市民とが、対等の立場でけんかをするというのはありえない。たとえば市役所の窓口では、生活保護をめぐってとんでもない要求が市民からあるが、 職員個人が市民を訴えることはない」

○校長や市教委に問題
 −−教員の提訴は続くと思うか
「例外的なケースであり、今後提訴が続発するというのはありえない。昔、モンスターペアレント問題を調べて本を書いたが、もっとひどいケースは山ほどある。不思議なのは、昨年9月の提訴から今年1月まで、この教員が件(くだん)の児童の担任を続けていたことだ。訴訟に至っても担任交代という配慮すらできなかった校長や市教委には、当の教員以上に大きな問題がある。これは各種ミスや異常性が重なって起きた、特異な事例だ」

 −−今後の防止策としては
「生徒を厳しく指導することで教員の権威を高め、優秀でない先生でも務まるような低い目標ではいけない。日本は教育への公的支出が先進国中最下位だ。大学で中学高校の補習をしている現状は危機的だ。少人数教育や修得主義(学力が身に付くまで進級させない教育方針)を導入するほか、教員の待遇改善を進め、人間性、能力ともにトップレベルの人材が志望するようにしなければ。日本の教育が沈没するかの瀬戸際で、教員が訴訟している場合ではない」

                   ◇

【プロフィル】河上亮一
  かわかみ・りょういち 「プロ教師の会」主宰。昭和18年、東京都生まれ。67歳。東大経済学部卒。埼玉県公立中の教員となる。45年、首都圏の教員によ る勉強会「プロ教師の会」を結成。平成12年、教育改革国民会議委員。16年、中学校教員を定年退職。著書に「プロ教師の生き方」など。

                   ◇

【プロフィル】尾木直樹
  おぎ・なおき 教育評論家、法政大学教授。昭和22年、滋賀県生まれ。64歳。早大教育学部卒。私立海城高、東京都公立中などで20年以上教員を務めた。 臨床教育研究所「虹」を主宰。著書に「子どもの危機をどう見るか」「バカ親って言うな!−モンスターペアレントの謎」など。




 この話は基本的に、裁判の中で明らかにされるものを見ないと分からないと思う。
 報道を見る限り、私は教師の側に分があるように思うが、その教師の方も只者ではない。裁判の過程でたくさんの事実が出てくるだろう、判断はそのあとでもよい。

 しかし産経新聞も中途半端な特集をしたものである。情報の少ないところでの話なので全くかみ合わない。
 
河上はモンスターペアレントの話をしているのに尾木はモンスター・ティーチャーの話をしているのだから、かみ合わないのも当然だ。
 
 しかし、
これまでモンスターペアレントが引き金になって自殺に追い込まれた教員は、1人や2人ではない。だが、それで教員の遺族がモンスターペアレントを訴えたかというと、しなかった。
(略)
訴えるべきなのは、(配置転換などで)上司として自分をサポートしなかった校長であり、教育委員会だ。
という尾木の情念には恐ろしいものを感じる。

教師よ、選ぶなら上司を訴えるか自死だ。間違っても保護者を訴えてはいけない。

 何が彼をここまで掻きたてるのか。

昔、モンスターペアレント問題を調べて本を書いたが、もっとひどいケースは山ほどあるも、
要するに
昔からイジメはあったし、今よりずっとひどいケースがあった(だからイジメられたくらいでつべこべ言うな)
に似て、苦しむ者への慈しみなど一片も感じられない言葉だ。実にすさまじい。

 ただそれとは別に、尾木が
「配置転換」「担任交代」を繰り返し訴えるのは教員歴20年を標榜し、教育評論家として生計を立てている者の言葉としては全く解せない。

 どこに配置転換するのか、誰と担任交代するのか。

 結果的にこの件の女教師は教務主任と交代した。ではその女教師が教務主任の仕事をしているかというと、そうはならないだろう。教務主任は教頭へのポストなのだ。彼女にできる仕事は一部回されるかもしれないが、基本的に教務主任は担任をしながら本来の仕事もすることになる。件の女教師は年度末までお茶を引いているしかない。

 だがこの場合、教務主任が担任を持っていなかったことだけでも幸せなのである。
 行田市あるいは埼玉県は予算が潤沢なのだろう。
 私のような貧乏県では、教務主任が担任をしないで専従ということはない。

 教員の配置基準というのは各都道府県で設けられる。私の県の場合、小学校6学級の職員数は9名である。校長・教頭・6人の担任・養護教諭、それですべてだ。
 学級数が増えれば音楽専科がつく(ピアノがまったく弾けないという教員も少なくないため)。さらに学級数が増え13学級以上になれば理科専科がつく。しかしいつまでたっても教務主任が担任を持たずに済むほどの余裕はない。
 つまり
「配置転換」「担任交代」というのは、3年1組の担任と3年2組の担任を入れ替えるくらいしか実際にはできないのである。
 あるいは音楽専科を担任にしてその教員に音楽をやらせるか、はたまた隣の学校から一人抜いてくるのか。

 しかし常識的に考えて、年度の途中でそんなことができるのか。
 
担任を引き抜かれたクラスの保護者は納得するのだろうか。
 
 もちろんその担任を遊ばせておいて新たに教員(臨時)を雇うという方法もある。しかしそれは
一人の保護者の訴えによって税金から年間300万円以上を支出するということである。納税者はそんなことを認めないと思う。
 さらに言えば、そうした講師の成り手がいるかどうかも問題だ。
 休職した教員の代わりが見つからず、担任が浮いてしまった例は平成21年度で800件もあるのだ。(「先生休むと代わりがいない不足、昨年度は800件以上」

 尾木は、そうした事実を知りながら、敢えて「配置転換」「担任交代」と言っているのか。
 私たちはこれらの言葉を安易に使うことはない。

 しかし尾木には何らかの秘策があるのだろう。教えてほしいものだ。







2011.03.10

世界大学評判ランク東大8位 米英以外で唯一トップ10


朝日新聞 3月10日]


 【ロンドン=橋本聡】英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」は10日、約1万3千人の大学関係者から聞いた教育研究面の「評判」をもとに世界の大学のランキングを発表した。トップ10に米英の大学以外では唯一、東京大学が8位に入った。

 同誌は毎年秋に論文の引用数や学生1人当たりの職員数、財務状況などをもとにした「世界大学ランキング」を発表しているが、今回は経験豊富な学識経験者から回答を得た評判で比べた。

 日本から上位100校に入ったのは東大のほか京都大(18位)、大阪大(50位)、東北大、東工大(いずれも51〜60位のグループ)。首位はハーバー ド大だった。ほか上位は、2位マサチューセッツ工科大、3位ケンブリッジ大、4位カリフォルニア大バークリー校、5位スタンフォード大となっている。



 こうした話がなぜかくも小さい記事になるのか私にはわからない。
 日本の学力が落ちただの、勉強の好きな子の割合が低いだのいったマイナスのニュースはいくらでも追いかけるのに、こうした景気の良いニュースは10行足らずで終わってしまう。
 いったい朝日新聞は
世界大学評判ランク東大8位 米英以外で唯一トップ1の重みが分かっているのか。
 
 注目すべきは
「英米以外で唯一トップ」ではない。英語で授業を行わない国でトップということだ。

 そう思って順位リストを見なおすと、トップ30に英語以外で授業を行う大学は東京大学(8位)、京都大学(18位)、チューリッヒ工科大学(24位)の三つしかない。
 トップ50に伸ばしてもモスクワ大学(33位)、精華大学(35位)、香港大学(42位)、北京大学(43位)、ミュンヘン大学(49位)、大阪大学(50位)を加えるに過ぎないのだ(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」大学世界ランキング)
 しかもチューリッヒ工科大学は、学士論文・修士論文の指導は英語で行うから、その意味で非英語大学は33位のモスクワ大学までの間に東京大学・京都大学しかないのだ。
 これを見ればいかに日本の大学のレベルが高いか、分かろうというものである。

 なぜこうした記事は大きく扱われないのだろう。

 なぜ日本をくさす話だと記事になりやすいのか。

 マスメディアの底意地は、どこまでも悪い。







2011.03.17

「まず逃げろ」命救う
釜石の小中、防災教育生きる


産経新聞 3月16日]


 リアス式海岸に位置する岩手県釜石市は震災で死者、行方不明者が1100人を超えたが、約3千人いる小中学生はほとんどが無事に避難した。自分の命は自分で守る。とにかく高いところへ−。津波の危険と背中合わせの港町で生きるための防災の教えが、子供たちを救った。
 11日午後2時46分。釜石東中学2年の吉崎優太さん(14)は、運動場で野球部の練習を始めようとしていて大きな揺れを感じた。校舎がしなるように揺れ、立っているのもやっと。長く続いた揺れが収まると、校舎からみんなが駆け下りてきた。
 「まず逃げろ」。誰からともなく声があがった。
     
 隣にある鵜住居(うのすまい)小学校の児童たちはいったん3階に上がったが、校庭に集まる中学生を見て、すぐに階段を駆け下りた。中学生たちは小学生たちと合流し、約1`離れた高台にある介護施設まで駆け上がった。波が迫るのが見えると、先生の指示を待たずにさらに上を目指した。
 その約10分後、津波は両校をのみ込み、校舎は3階まで水につかった。
 「低学年の子や近くにいたおばあさんとかの手を引きながら、とにかく走りました」
 倉庫の近くで足を止めると、「津波がきた」の声。今度は山を登った。「とにかく高いところへ、ってずっと教わってきたから」
 校内にいた中学生212人と小学生350人は、1人も第1波にのみ込まれずに逃げ切ることができた。
 市内の小中学生計2924人のうち、死者、安否不明者は5人。地震発生時、4人は欠席や早退で自宅にいた。もう1人は避難後に家族と合流してから行方不明になっており、学校からの避難の安全性が裏付けられている。
 「津波は怖いんだと子供たちが感じていてくれたおかげです」。鵜住居小の坂下俊彦校長は子供たちの無事をみてまわり、実感した。
 1933年の昭和三陸地震や60年のチリ地震津波などで苦しんできた同市。04年からは小中学生に津波の恐ろしさを教え込んできた。昨年3月には市の防災・危機管理アドバイザーを務める片田群馬大大学院教授と一緒に教員向けの「手引き」を作り、年間10時間前後を防災教育にあてた。片田さんは、子供たちに三つのことを伝え続けてきた。揺れたら家に向かわず、とくかく逃げろ。ハザードマップを信じず、状況を見て判断すること。そして、人を助けること。
 「子供の防災意識は高まった。ただ、そこから地域全体に広めていくという道の半ばで大津波に襲われてしまった」と片田教授は悔やむ。
「子供たちが大人になり、親になっていく中で、津波から身を守る知恵と経験をどう伝えていってくれるか」。防災教育の次の段階がこれから始まる。(山西厚、大久保泰)



 これは学校教育の勝利だ、そういう思いで記事を読み始めたが、どうもそうではないらしい。
 
隣にある鵜住居(うのすまい)小学校の児童たちはいったん3階に上がったが、校庭に集まる中学生を見て、すぐに階段を駆け下りた。中学生たちは小学生たちと合流し、約1`離れた高台にある介護施設まで駆け上がった。波が迫るのが見えると、先生の指示を待たずにさらに上を目指した。
 つまり教員はこの避難に関して何もしていないのである。
 そのことは、校長自身認めていて、
 「津波は怖いんだと子供たちが感じていてくれたおかげです」。鵜住居小の坂下俊彦校長は子供たちの無事をみてまわり、実感した。
 
 しかしもちろん津波に対する危機意識が自然に芽生えたわけではなく、
 04年からは小中学生に津波の恐ろしさを教え込んできた。昨年3月には市の防災・危機管理アドバイザーを務める片田群馬大大学院教授と一緒に教員向けの「手引き」を作り、年間10時間前後を防災教育にあてた。
 という釜石市と大学教授の周到な準備のおかげであったというのだ。

 残念なことに。
「子供の防災意識は高まった。ただ、そこから地域全体に広めていくという道の半ばで大津波に襲われてしまった」と片田教授は悔やむ。
 したがって、
 「子供たちが大人になり、親になっていく中で、津波から身を守る知恵と経験をどう伝えていってくれるか」。防災教育の次の段階がこれから始まる。
 それがこの記事の構成である。
 
 しかし本当だろうか?
 
 1933年の昭和三陸地震や60年のチリ地震津波などで苦しんできた同市。04年からは小中学生に津波の恐ろしさを教え込んできた。
 の一文に私は呆れる。
 
昭和三陸地震から04年までの71年間、チリ地震津波から数えて44年間、釜石市は何をしてきたのか。
 私のような山国の人間だって津波の恐ろしさは知っている。そして(さすがに津波対応避難訓練まではしていないが)年に2回の火災対応訓練、2回の地震対応訓練(ついでに言えば1回の不審者侵入対応訓練)もやっている。私が子どものころからやっている。ずっとやってきた。
 しかしあの三陸に住みながら04年になって初めて
 津波の恐ろしさを教え込んできた。
 とは。釜石というところはよほど迂闊だったに違いない。
 
 以上、少し感情的になってこんな書き方になったが、要するに片田教授の売り込みに乗った非力な記者が、大した調査もせずに記事にしたからこうなった、ということなのだろう。
 信用できない記事である。

 ちなみに
年間10時間前後を防災教育は学校の時間のどの枠で行ったかというと、これが特別活動(学校の時間の、教科ではない、道徳でもない時間のすべて)の枠内の活動なのだ。
 産経新聞も強力に推進する昨今の「学力向上運動」の中で、どんどん削られているのがこの特別活動である。

 平成23年度には小学校で新指導要領が完全実施される。中学校ももうすぐだ。学力向上を主眼とする
新指導要領のもとで、年間10時間前後もの防災教育など、今後、取りようがなくなっていく

 もう二度と今回のような大災害のないことを祈るばかりだ。







2011.03.25

茶髪・ピアスで21人不合格 都立蒲田高

朝日新聞 3月25日]


 東京都立蒲田高校(大田区)が2007、08年度の入試で、選考基準にない頭髪や服装の乱れなどを理由に受験生を不合格としていたと、都教育委員会が 25日発表した。本来は合格していながら不合格になった生徒は21人いるという。直原裕・都立学校教育部長は「あってはならない事態。関係者に深くおわび する」と話した。

 都教委によると、同校が独自にチェックしていた項目は茶髪など頭髪の色、ピアスの着用や跡の有無、スカートの長さやズボンの腰の位置など。願書提出や面接控室、受験室内の様子を複数の教員が見て、抵触する受験生の一覧を作成していた。

 都教委の入試実施要綱では、同校は中学校が提出する調査書や面接、小論文などを点数化して評価するとしており、頭髪や服装などに関する基準はない。しかし、該当する受験生を不合格にするため、点数(1千点満点)を最大154点減点。本来なら不合格だった受験生9人に加点して合格とするなど、不正な得点調整は2年間で61人にのぼるという。


 芝尾仁前校長が独自に方針を決め、前副校長らに指示した。受験希望者らへの学校説明会などでも説明していたという。前校長は「学習意欲の高い生徒だけを集めようと思い、不正な選考をした」と話しているという。

 都教委は、昨年3〜4月に外部から匿名の情報提供を受け、調査していた。今月25日付で芝尾前校長を懲戒免職、担当の前副校長を停職3カ月とするなど、関係者を懲戒処分とした。

 不正に不合格とされた受験生21人には今後、事情を説明し、謝罪する。受験生が私立高に進学していた場合、授業料の差額を支払うなどの措置を検討するという。


 ウィキペディアによると
 蒲田高校はかつてはレベルの高い高校であったが、偏差値が40ほどと低迷してしまった。そのため蒲田高校は底辺校となってしまった。地域の住人が、署名を集めて「蒲田高校を廃校させろ」と訴えたほどである。そんな時、東京都からエンカレッジスクールに指定された。学校側も蒲田高校を改善すべく生活指導を厳しくしており、現在ではNPO法人と協力した体験学習などが実施されている。
ということになる。

 エンカレッジスクールというのは、これもウィキペディアによると、
 可能性を持ちながらも力を発揮できない状態の生徒を積極的に受け入れ支援するための施策を実施する高校。エンカレッジ(encourage)とは、勇気付けるという意味。

  • 入学選抜に学力検査を実施しない。
  • 定期考査は一切実施しない。
  • 1年次における30分授業の実施。
  • 国語、数学、英語を中心とした習熟度別学習と少人数授業で「集中」と「繰り返し」を大切にし、基礎基本を確実に身につけさせる。
  • 二人担任制によるきめ細かな指導を実施する。
  • 午後は週1日、体験的学習を実施する。

などの施策により、生徒の力を引き出し成就感・達成感を実感させることを目的とする。
だそうである。
 そこから、
 入試実施要綱では、同校は中学校が提出する調査書や面接、小論文などを点数化して評価する
となるのだが、私が分からないのは、
該当する受験生を不合格にするため、点数(1千点満点)を最大154点減点。本来なら不合格だった受験生9人に加点して合格とするなど、不正な得点調整は2年間で61人にのぼるという。
というその部分である。
 面接のある入試で服装やアクセサリがマイナス点にならないとしたらその方が変だろう。
 何のための面接か。

頭髪や服装などに関する基準はない。
 かもしれない。しかし
受験希望者らへの学校説明会などでも説明していた
のである。

 入試の日ですらきちんとした服装のできない子の権利を、どうしてここまで守らなければならないのか。
 彼らは明確に、「この学校に入れてもらえなくて結構だ」と全身で訴えているのだ。

 やがてほぼ確実に学校を荒らして(あるいは不良行為によって、まじめな生徒のために使うべき教師の時間を奪って)まじめな子の健全な成長を阻害する子の権利は、そこまで大切なのか。
 朝日新聞にその見識を問う。

*これはメディアの問題ではなく東京都教委の問題だという人がいるかもしれない。しかしそんなことはないだろう。
 教委をそこまで追い込んだのはメディアなのだから。