キース・アウト (キースの逸脱) 2011年7月 |
by キース・T・沢木
サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。 政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。 落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。 ニュースは商品である。 どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。 ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。 かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。 甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの、本物そっくりのまがい物のダイヤ。 人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄 。 そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。 |
拉致問題の啓発のため、横田めぐみさん=拉致当時(13)=拉致事件を描いたアニメの DVDが配られた全国の小中高約3万7000校のうち児童・生徒への上映が確認された学校は3%台にとどまっていることが3日、分かった。政府は拉致問題の啓発強化を閣議決定し、都道府県教委に人権教育として拉致問題を学校で取り上げるよう通知したが、せっかくの教材が現場で生かされていない実態が浮かび 上がった。 DVDは「めぐみ」と題し、めぐみさんの両親の滋さん(78)、早紀江さん(75)監修で政府拉致問題対策本部が平成20年に 作成した25分間のドキュメンタリーアニメ。同本部が20年6月から全国の小中高校に配るとともに上映した場合、アンケートに回答するよう求めてきた。 同本部事務局の6月13日現在の集計によると、全国ほぼ全ての小中高校に当たる3万7256校にDVDが配られたが、アンケートに回答した学校は3221校。うち「児童・生徒に上映した」と答えた学校はDVD配布校の3.7%の1381校にとどまった. 事務局は「上映しても回答していない学校もあるだろう」とみているが、回答校でも児童・生徒への上映は4割にすぎず、教職員への上映が2813校にのぼるのと比べても半数に満たない。 横田さん夫妻が暮らし、拉致問題啓発に力を入れてきた神奈川県でも児童・生徒への上映が確認できたのは24校。低調ぶりに県教委では22年度から学校長を 対象に研修会を開くなどしてきた。県教委の担当者は「アニメはすぐに拉致問題が理解できる内容だが、総合学習や公民で取り上げるのか、決まったカリキュラ ムがないことが大きい」と低調の理由を説明する。 東京都でも児童・生徒へ上映したと回答したのは29校。都内の中学校の校長は「校長研修で横田夫妻の講演を聞き、大切さは分かっているが、人権教育ではいじめや障害者問題を優先してしまう」と内情を話した。 政府は4月、「人権教育・啓発基本計画」に拉致問題を加えると閣議決定し、5月末に人権教育として拉致問題を学校で取り上げるよう都道府県教委に通知し た。これを受け、各教委が学校への働きかけを始め、拉致問題対策本部事務局にもDVDの再送を依頼する学校が増えたという。 事務局は「子供に知ってもらうことが大切。通知をきっかけに上映が増えることを期待したい」としている。 拉致問題がどれほど重要かということは分かっている。 横田夫妻のこの数十年の苦しみを知る者はすべからず、これに協力したいと思うはずだ。 しかし目の前の生徒たちには他にも必要な学習がある。 性教育に平和教育、コンピュータ教育にメディアリテラシー、交流教育に人権教育、環境教育と消費者教育、金銭教育にエイズ教育。その間に、(その間でいいのかどうかわからないが)国語も数学も理科も社会科も、英語も技術家庭科も体育も音楽も美術も教えなければならないのだ。 もちろん教えるだけなら簡単であるが、私たちはさらに子どもたちが“できる”ようにしなけばならない。これが手間がかかる。 さらに、教科教育に夢中になっていると次は「心の教育」はどうなったという話になるが、心の教育にはさらに時間がかかる。 それは実習を通してしか身につかないからだ。 そこで私たちは入学式や始業式など儀式的行事を行い、遠足や修学旅行のような宿泊的行事を行い、音楽鑑賞や演劇鑑賞のような学芸的行事を行い、児童生徒会活動を行い、避難訓練や交通安全教室を行い、部活動を行っている。音楽会をやり運動会や体育祭やクラスマッチを行い、文化祭を行う。 ボランティアもしなければならない。地域の行事にも参加しなければならない。 さらに・・・・・・。 最近の産経新聞にはなかったが、朝日新聞を見るとこんな活動も紹介され、推奨されている。 * 先生は地域のみんな 料理や陶芸通じ交流(7/5) * 「デートDV」防ぎたい 札幌市が高校生に講座(7/5) 子どもに必要なことは、今や地域でも家庭でもなく、すべて学校に持ち込まれる。その中にあって、一顧だにされないまま、横田めぐみは忘れられる。 忙しい日本政府によって忘れ去られたように、学校からも捨てられるのだ。 もちろん解決策はある。 日本中の学校にエアコンを入れて夏休みをなくし、教員を増やしてすべての問題にあたればいいだけのことだ。 しかし誰もそれをしようとしない。産経新聞すら、学力向上一辺倒で、教育の総合的拡充ということについてあまり考えていないのである。 09年度にうつ病などの精神疾患を理由に退職した国公私立学校の教員が計940人に上っていたことが28日、文部科学省の調査で分かった。病気を理由にした退職者1893人の半数(49.7%)を占めている。精神疾患で退職した教員数が明らかになるのは初めてで、本格的な教員のメンタルヘルス対策が求められそうだ。 公表されたのは10年度の学校教員統計調査の中間報告で、3年ごとに実施されている。 精神疾患で休職する公立校の教員は年々増加し、09年度は5458人と病気休職者の6割以上を占めた。事態の深刻化を受け、文科省は今回の調査から病気退職者の中に精神疾患の項目を設けた。 定年以外の理由で退職した教員の総数は3万4635人で、精神疾患を理由にした退職者は全体の2.7%。国公私立を合わせた校種別の内訳は、幼稚園 229人▽小学校354人▽中学校194人▽高校120人▽大学38人▽短大5人。男女別では、男性306人(32.6%)に対し、女性が634人(67.4%)。高校を除く全ての校種で女性が男性を上回っている。 文科省は調査結果について「経年変化を見ないと評価できない」とコメント。同省は、校務の効率化や教員の事務負担の軽減を進めるよう、都道府県教育委員会などに通知しているが、具体的なメンタルヘルスの対策は各教委に任されているのが現状だ。 このほか、09年度の教員採用状況についても調査。公立学校に新卒で採用された人数は、小学校6403人▽中学校3009人▽高校1181人。これに対し、非常勤講師などから採用されたのは小学校6730人▽中学校4361人▽高校2546人−−で、一定の現場経験を積んでから採用される教員が多いことが分かった。【木村健二】 ◇相談できる場を…教員のメンタルヘルスに詳しい伊藤美奈子・慶応大教授(臨床心理学)の話 教員はまじめな努力家が多く、人に助けを求められず、うつ状態になりやすい傾向がある。子供だけでなく保護者の対応にも疲弊することがあり、教員が精神疾患を抱えてしまうと、指導を受ける子供にも影響して悪循環に陥る恐れがある。教員は一人だけで悩みを抱え込まず、学校の中にも外にも相談できる場があることが重要だ。教育行政側はサポート態勢を整備する必要がある。 乳幼児が突然高熱を出し、目が真っ赤になったら疑うべき病気は二つあるらしい。プール熱と川崎病だ。プール熱だったら大したことはないが、川崎病だとたいへんである。一刻も早く医者に連れて行かなければならない。 もう20年近くも以前のことだが、長男がそうなって病院に連れて行ったとき、医師に烈火のごとく怒られたことがある。 「子どもを殺す気か! こんな状態になっているのになぜ早く連れて来なかった。教師はみんなこうだ!」 私だって気にならなかったわけではない。しかし担任が学校を空けるのは容易ではない。私が休んだ分、授業を進めてくれる誰かがいるわけではないのだ。 生徒を自習にして自分の子にかまけているわけにはいかない。 教員は一人だけで悩みを抱え込まず、学校の中にも外にも相談できる場があることが重要だ。 そんなものがいくらあっても、行く時間がなければどうしようもない。足りないのは場ではなく、時間なのだ。 また文科省が、校務の効率化や教員の事務負担の軽減を進めるよう、都道府県教育委員会などに通知しているのは事実だが、生活科・総合的な学習の時間・小学校英語と次々と教科を増やし、教員評価、学校評価、免許更新制度と次々と仕事を増やしながら校務の効率化・事務負担の軽減と言っても無理だろう。 時間外労働の削減・ノー残業デイとかいって教師をどんどん家に帰し、リフレッシュ年休とかいう名で年次有給休暇の消化を強制するので統計上、過重労働は減っている形になる。しかしその間、教員は仕事を持ち帰ったり休日に登校したりして隠れて仕事をしているからかえって効率は悪くなる。 部活も土日二日間いずれかを休むように指示するが、実態を変えないでそんな指示を出すからすぐに社会体育という仕組みがつくられ、部活顧問は社会体育のコーチとして年中無休で働かされることになる(もちろん年中「無給」もであり、かつ社会体育なので校長の支配下にもなく、時間的にも無制限になってしまう)。 教員の負担を減らす試みが負担をどんどん増大させるのだ。 指導を受ける子供にも影響して悪循環に陥る恐れがある そんなことは百も承知だ。 こちらも命や職がかかっている。しかしどうにもならないのだ。 |