キース・アウト
(キースの逸脱)

2012年11月

by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。


















2012.11.06

通知表の事前確認、横浜市教委が撤回 教育長「真摯に反省」


[産経新聞 11月 5日]


 横浜市教育委員会が通知表の記載ミスを防ぐため、配布に先立って成績や出席日数などの確認を児童生徒や保護者に求めていた問題で、市教委は5日、従来の方針を撤回し、今後は事前確認を行わないことを明らかにした。

 市教委によると、10月末に事前確認の実施が問題化した後、市民や実施を知らされていなかった市の教育委員らが「学校の責任放棄だ」などと反発。「(事前確認の)判断は間違っていた」などとして一転して撤回を決めた。山田巧市教育長は5日の市会常任委員会で、「批判を重く受け止め、真摯(しんし)に反省する」と謝罪した。

 また、既に行われた事前確認の状況も公表され、市立小中学校全492校のうち415校で実施した結果、成績や出席日数など計928件の誤りが判明。一方、残りの小中学校計77校は実施していなかった。



 10月30日付の「キース・アウト」で私は、
通知票のミスが防ぎきれない以上、「児童生徒・保護者の事前確認」を必ず行うことは悪いことではない
と書き、
しかしそのためにかかる時間的・労力的コストはどこまで計算されたか。
とも記した。

 したがってこの「事前確認」が撤回されることに異論はないのだが、その理由が
「学校の責任放棄」
となると釈然としない。
なぜ「事前確認」は学校の責任放棄なのだろう。

 学校がきちんとやっておけば「事前確認」などいらないのに、きちんとやらないことの確認を親に押し付けるのだから責任放棄だというなら、世の中のあらゆる監査業務は責任放棄になってしまう。それぞれがきちんとやっておけば、監査などいらないはずだ。

 また、そもそも通知票の正確を期する「事前確認」に市民が「反発」するというのも理解できない。
正確な通知票は市民の利益のはずだ。それに事前確認のために苦労するのは教師であって市民ではない・・・と、ここまで書いてハタと思いつくことがある。それは
 
こんなつまらないことに時間やエネルギーを取られるのはかなわん
 という親側の事情だ。ありていに言ってしまえば、
 
そんなことは学校がやればいいので、オレたちに面倒を持ち込むなという抗議である。
 もう何でもいい。学校にお任せするからオレたちには面倒を持ち込むな。ただしオレたちの気に入るようにやるんだぞ、
 そんな親はいくらでもいる。
 
そうした「“親”市民」と、「事前に知らされなかったことで傷ついた教育委員」がともに反対の狼煙を上げ、“学校が怠けようとしている”ことを理由に「事前確認」をつぶしてしまった、そんな話だ・・・そう考えるのは穿ちすぎだろうか。







2012.11.07

「中3で英検準1級、小6で3級」
大阪市教育計画、理数系教員に民間人特例も


[産経新聞 11月 6日]


 大阪市立学校で来年度の教育施策の基本方針となる「教育振興基本計画」の中間案が5日、判明した。英語教育を重視する橋下徹市長の姿勢を反映するように、中学3年で英検準1級、小学6年で同3級の取得という目標を明示。人材が不足する理数系教員の確保策としては、教職員免許を持たない一般社会人が、現行の特例制度を利用して教壇に立てる措置を講じることも盛り込むなど、特色ある内容となっている。

 大阪市では、5月に制定された教育関連条例に基づき、市長と市教育委員が協議して教育振興基本計画案を策定することになり、現在、市教委を交えた有識者会議で中間案の策定を進めている。市長と教育委員がさらに協議して成案化し、来年2月に市議会に提出、議決を経て同計画案と教育目標が最終決定する。

 中間案では、英語の発音とつづりの規則性をルール化した学習法「フォニックス」を使った英語教育を小学1年から実施すると明示。具体的な到達目標として、小学6年で英検3級、中学3年で準1級の合格を目指すことを盛り込んだ。文部科学省によると「公立小でフォニックスを使った英語教育は全国でも聞いたことがない」という。
 教員の確保では、優れた知識や経験を持つ社会人を都道府県教委の判断で起用する「特別免許状制度」の活用を提示。

 同制度は、旧文部省が昭和63(1988)年度に創設したが、ほとんど活用されていないのが実情で、平成22年度までに授与した特別免許状は全国で413件、大阪府に至ってはわずか2件にとどまっている。有識者会議では、制度を利用し、不足する小中学校の理数系教員の増員と質の確保につなげたい考えだ。

 一方、いじめ問題については、警察や弁護士、医師、臨床心理士らをメンバーに加えた第三者機関の設置を提案。問題を抱える学校側がすぐに相談、対処できる態勢を整えるほか、具体的な対処方法を分かりやすく図式化したフローチャートも作成する方針だ。




 内容が三つなので解説も三つ。
1 英語について
 私の伯父はまさにその「英検準1級」を持っているが、英語ができるばかりに出世に乗り遅れたと年中ブーたれていた。
 彼によれば外国からの賓客の観光案内ばかりさせられ、その結果業務の中枢から外されてしまったのだという(確かに京都勤めが長かったのは事実だが、そのために外されたかどうかは私は知らない)。しかし企業の顔として、重要な顧客の観光を任せることができるくらい英語は堪能だった、それは事実だろう。英検準1級というのはそのくらいすごいことなのだ。ネット上で調べると「一流大学の合格者がリスニングを学んで合格できる程度」ということだから日常会話は困らないレベルということだろう。

 
もちろん合格を目指すということだから「実際に取らなければならないのは2級まで」ということになるだろうが、それとて楽なことではない。
 もちろん成績上位の高校生なら2級はそれほど苦労せずともとれるだろう。しかし市立中学生はみんなが優秀という訳ではないし、何と言ってもまだ中学生なのである。
少なくとも現行の中学校の教科書を使っていてはそうはなるはずがない。

 もともとは「小学校一年生から週1時間の英語」という話だったが、カリキュラムを根本的にいじらなければ達成できるはずがない。
週1時間の授業で達成などできるはずがない。とんでもないことだ。
 そのことだけは確認しておこう。

注:私はフォニックスをやってる小学校の授業を見たことがある。フォニックスというのは簡単に言うと、Aは「エイ」と発音することが多く、BやCは「ブ」や「ク」と発音する子音字だと、そうした規則性を教えるものであって、有効ではあるが万能ではない。Bは「ビー」と覚えるより「ブ」と覚えておいた方が後々便利だよ、とその程度のものである(本当はもう少し複雑なのだが)
 

2 特別免許について
 
優れた知識や経験を持つ社会人を都道府県教委の判断で起用する「特別免許状制度」
 この説明が間違っているわけではないが、「特別免許状制度」の趣旨は違う。
 これは看護士が看護科の生徒を教え、建築士や大工が建築科の授業を持てるようにするための制度である。この制度がないと、どんな優秀な人材であっても補助的にしか教室に入れない。補助的に、というのは教室に必ず教員免許を持った教師がいるということである。
 農業科の授業に農業技術士を、調理科に調理師をと、非常に使い勝手のいい制度だが記事にある通り十分に利用されていない。
よほど子どもや教えることが好きでない限り、結局は本業の方が食えるということなのだ。一流の人材であればあるほど学校現場など見向きもしない。
 
 
有識者会議では、制度を利用し、不足する小中学校の理数系教員の増員と質の確保につなげたい考えだ。
 分かるようでさっぱり分からない。この人たちは具体的にどういうイメージを浮かべているのだろう。

 教員免許を持たない(つまり理数を教えるスキルを学んでいない)、しかし人材と言えるだけ優秀な理数系の人間。そうした有能な人間が研究所にも企業にも行かず、あえて激務安月給の教員になってくれると考えられることが分からない。

 現在の教員よりも数学や理科において優秀な人間がいるのは知っている。彼らはカオス理論だとかフラクタル幾何だとかに嬉々として取り組み、あるいはニュートリノだのIPS細胞だのと目を輝かせて付き合うことのできる人たちだ。
 ところでこの人たちは大阪市立小中学校の子どもたちの、連立方程式が解けないだの月食と日食の違いが分からないだのといった問題を、どう解決してくれるのだろう。
 有識者会議の見解を聞きたい。
 

3 いじめ問題について
 一方、いじめ問題については、警察や弁護士、医師、臨床心理士らをメンバーに加えた第三者機関の設置を提案。問題を抱える学校側がすぐに相談、対処できる態勢を整えるほか、具体的な対処方法を分かりやすく図式化したフローチャートも作成する方針だ。

 
 ま、いいけどね。
 学校がすぐに相談
 これはできるだろう。しかし
警察や医師や臨床心理士が「すぐに対処できる」方法を持っているのだろうか?

 私は「いじめ問題の専門家」と言えばまず教員を思い浮かべる。この人たちが一番よく「いじめ問題」に接している。その教員の相談に対して的確なアドバイスのできる「警察」「医師」「臨床心理士」などほとんどいない。いることはいるのだが、大阪市がそうした人々を独占的に押さえない限り、その制度は開店閉業になり、市税が無駄につぎ込まれることになる.。無駄といっても最初から大した金額を払うわけではないので、どうということもないが、その意味でも「ま、いいけどね」程度のことである。

 ついでに、
 具体的な対処方法を分かりやすく図式化したフローチャートも作成する方針だ。
 これ、私も自分でつくって持ってる。どこの学校にもあるはずだ。