キース・アウト (キースの逸脱) 2017年 8月 |
by キース・T・沢木
サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。 政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。 落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。 ニュースは商品である。 どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。 ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。 かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。 甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの、本物そっくりのまがい物のダイヤ。 人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄 。 そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。 |
■保護者に「紹介して」メール 「お知り合いの方で、教員免許状をお持ちの方がいれば、是非紹介してくださるようお願いします」。今年1月、福岡県大野城市の小学校の保護者に届いたメールだ。県教委の福岡教育事務所が、管轄する市町の教委と小中学校を通じ、保護者ほぼ全員に呼びかけたという。この保護者は「そこまで先生が足りないのかと驚いた」と話す。 福岡県内の元中学教員の男性(61)には昨年、地元教委を名乗る人から「中学の教員が足りない。講師として来てくれませんか」と電話がかかってきたという。男性は元社会教諭。「社会はいっぱいおるでしょう」と言うと「いや、実は数学なんです。臨時免許を出します」。男性は驚き、断った。「数学なんて教えたこともないし、免許もないのに」とあきれる。 ある中学では今年度、技術の教員が6月半ばまで不在。やむなく技術の時間は家庭科や他の教科に充てた。生徒からは「なんで技術できんと?」と不満が漏れたという。別の中学では5月末まで美術の教員がおらず、授業ができなかった。体育教員が臨時免許で美術を教えているケースもある。 「担当外では満足に教えられない。これで学力をあげろと言われても無理」とある中学教員。別の小学教員は「教員はだれでもできる仕事じゃない。こんな状況では子どもたちにも失礼だ」と話す。 (後略) それはもちろんマスメディアと言えば国際政治から芸能人の不倫まで扱う世界だから一部に行き届かない面もあろうかと思うが、それにしても、 九州各地で教員不足が深刻になっている。年度当初の欠員が相次ぎ、福岡県では1学期半ばでも60人以上が不足していた。第2次ベビーブーム世代の就学時に採用された教員の大量退職が背景にある。 はあまりにもお粗末だ。 大量退職が原因だと思うなら今春の採用状況ぐらい調べておかなければならない。ほんとうに必要数が確保できなかったのかどうか。 あいにく今年度採用の正確な数字は見つからなかったが、あるサイトの集計によれば本年度の採用試験(H28年度実施)は、記事にある数学で9.7倍、美術は7.1倍、技術は3.5倍もの競争率があった。 また今月9日(2017.08.09)には、福岡県教委の平成30年度採用予定の教員採用試験結果(一次)が発表されていて、そこでの倍率は中学校数学で、10.7倍(一次合格は6.7倍)、美術科が5.6倍(同3.3倍)、技術科は2.4倍(同1.2倍)もあるのだ。つまり教員採用試験は今もなかなかの難関で、かなりの受験生が振り落とされている。福岡県は県の採用とともに福岡市・北九州市が独自の採用をしているが、いずれも結果は同じである。 教員志望はいくらでもいる。 それにもかかわらず教員が不足するのは、欲しいのが正規教員ではなく“講師”だという事情がある。将来の少子化(=教員余り)を見越して正規採用を押さえ、不足分を講師で対応しようとするのだがその“講師”の担い手がいないのである。 これについては別のところでも書いたが(アフター・フェア2017年7/6、7/7,7/10)、問題は教員定数が児童生徒数(正確には学級数)に応じて決められるという特殊な教育制度に由来している。 教職がいかに過重労働かということは最近つとに知られるようになってきたが、仕事がどれほど増えようと子どもが減り続ける限り教員は減らさなければならない。今必要な人数を確保して、どうせ忙しいんだから将来は担任を持たない教員というかたちで残せばいいといった話にはならない。 実質は人手不足なのに制度上は人余りという、きわめて奇妙で過酷な状況があるのだ。 天下の朝日新聞ならそのあたりから切り込んでいけばいい記事が書けそうなものを、肝心の部分をいい加減にあつかうから何とも訳の分からない記事になってしまった。 渡辺純子くん。まだ駆け出しかと思うが、何か記事を書こうというときはまず本人(この記事に関して言えばどこかの教員)に聞いてみるというのが筋じゃないかい? まあ、頑張りたまえ。
文部科学省は提言を受け、来年度予算の概算要求にあわせて具体的な対応の検討を進める。 提言では、まず教員の業務を見直す基本として、校長や教育委員会に対し、すべての教職員の勤務時間を客観的に把握するよう求めた。その方策として、タイムカードや、ICT(情報通信技術)を活用して退勤時間を記録できるシステムの導入などを促した。文科省の2016年度調査では、タイムカードなどを使い、勤務時間を管理している小中学校は3割弱にとどまっている。 「で?」みたいな話だ。 また仕事を増やした。 教員は行き帰りにタイムカードを押さなければならない、副校長はきちんとチェックしなくてはならない。 朝の部活指導に急いだり、少し離れたグランドから直帰しようとしたりしたら、押し忘れもでるしそもそも押す気になれなかったりもする。 さらにその上、クソ忙しいところに余計な仕事が増えれば、教員側も必要な対策を取るしかなくなる。 一番簡単なのは副校長が代行して全員分を押すことである。 それで心痛むなら職員朝会の前に全員押させるとか、午後の会議が終わったところで全員押すとか、いずれにしろそれで資料は揃うし、その資料はほぼ全員が適正な時間に出勤し定時退勤したことになるから超過勤務問題もなくなる。 これですべてめでたしめでたしになる。 ――と、これは半分冗談だが、仕事を増やして教員を増やさない状況では何をやっても無駄だろう。 アクセルを踏みっぱなしでブレーキをかければ教員という車は傷むばかりだ。 |