キース・アウト (キースの逸脱) 2018年 4月 |
by キース・T・沢木
サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。 政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。 落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。 ニュースは商品である。 どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。 ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。 かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。 甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの、本物そっくりのまがい物のダイヤ。 人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄 。 そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。 |
東京都内の女性(47)は昨年12月、次女が今春入学予定の中学校のPTAから「加入についてのお願い」という文書と「加入同意書」を受け取った。同意書には「原則全保護者に加入していただく」と記載されていた。 1月に開かれた新入生向けの学校説明会では、この加入同意書と引き換えにする形で、学校説明の資料が渡された。PTAの会長は、簡単に活動内容を説明した後、「入学式の写真撮影の後で役員決めをするので心づもりを」と呼びかけた。女性は、手を挙げて「入退会は自由のはずです」と訴えたが、近くに座っていた女性から「そんなの個別にやりなさいよ」とたしなめられた。 散会後、女性に近づいてきた会長は、PTAの重要性を説き、「あなたもお母さんなんだから」と繰り返した。 女性は、PTA活動とは関係ない学校の図書館の手伝いや猫を保護するボランティアをしている。活動は楽しく、仲間ともいい関係だ。「やりたい人が自発的にやるから、みんなが楽しくできる。PTAは強制的だから『いやいや』になってしまう」と感じている。 (以下略) なんか、 「お母さんが勉強やれって言うからやる気がなくなる」 とお門違いの文句を言っている子どものような話だ。 裏を返して、 「自由参加ですからどうぞ」 と言えばみんながやる気になってよろこんで参加してくれるのだろうか? いや、おそらくそういうことにはならないだろう。みんな忙しいからだ。 また、自由参加を強く訴える人たちは、たいていが参加したくない人たちなので、「私はPTAの強制参加に絶対反対である。したがって同意書にはサインをしない。しかしPTAには参加する、役員も率先してやる」ということにはならない。だから発言にも説得力がない。 人は思う。 「なんやかんや小理屈を言っても、結局、自分がやりたくないんでしょ!?」 これを封じなければ、この戦いはいつまでたっても「あなたのワガママ」問題に戻ってきてしまうはずだ。 しかし私が知恵を授けてあげよう。 ポイントのひとつは「私がやりたくないわけじゃない」ということである。 そしてもうひとつはPTAのT。 実はPTAのTも強制参加で、この「教員がひとりも抜けていない」という事実がPTA自由参加問題で大きな足かせとなっていることに、案外人は気づいていない。それがあるから、すぐに「先生たちが頑張っているのに私たちが抜けるなんて・・・」という話になってしまうのだ。したがってここは教員とともに手を携えて不参加の道を歩むか、とりあえず教員の方から辞めさせてしまうのが近道なのだ。 難しいことではない。 「新聞やニュースを見ると、先生方は多忙で授業の予習も満足にできないそうじゃないですか。そんな状況でウチの子どもを見ていただくわけにはいきません。しかもそれほど忙しい状況にありながら、任意団体のPTAに全員入っているって、おかしくありません? PTAにかまけている暇があったら、どうぞ教材研究とかしていてください!」 そう言ってガンガン攻めればいい。 教員だって内心は抜けたがっているのだ。そして教員の半数以上が脱会すればもう活動は成り立たない。遠からず全体としてのPTA活動はなくなって、PTAに類する活動は、ほんとうに好きな人だけが集まって楽しくやる活動になっていく。 ただしそうなるとバザーや資源物収集などといった大きな行事はできないし、その収益でカバーしていた学校設備の拡充といったことは望めない。また警備や準備の一部をPTAにお願いしている運動会なども縮小せざるを得ないが、それだって多忙な先生方の負担を減らすという有意義な仕事の結果だから甘受できるはずだ。。 ぜひ先生たちをPTA活動から自由にしてほしいものである。 さらについでに、部活動顧問も同じ理屈(そんなことをしている暇があったら教材研究でもしてほしい)を振りかざして、なくすよう努力してほしい。 PTAや部活がなくなっても一向に困らない。私はもう現場の人間ではないから、何の痛痒もないのだ。 (参考) そう言えば先日のYahooニュースに『新年度 部活したくない教員5割 「学びの時間を増やしたい」』 というのがあった。 基本的に教員はそもそも部活動指導のノウハウを大学で学ぶことはない。つまり教員は、各種スポーツや文化活動の専門性を持ち合わせてはいない。しかもその勤務体系からは、部活動を教員の義務的な仕事とみなすには無理がある(拙稿「部活動は教員の仕事か?」)。 だが実際にこの時期に、校内で教員に配付される新年度の「顧問希望調査」(あるいは「校務分掌希望調査」)といった類いの調査票では、部活動顧問を引き受けることが前提となっている。部活動指導を「希望しない」という選択肢は用意されていない。 のだそうだ。
●「顧問の押し付け、事実上のパワハラ」 「部活の顧問を押し付けるのは、事実上のパワハラです」。九州地方の公立中学校で教壇に立つ30代教師はこう話す。この4月からの新年度、部活の顧問になることを断った。「ボランティア」であるはずの顧問が、事実上、当たり前のように各教職員に割り振られ、「全員顧問制」の義務となっている状態に違和感を抱いていた。 職員会議の場で、「部活の顧問になることはお断りします」と宣言した。校長以下、教職員たちは水を打ったように静まり返ったという。後になって、「そういう時代だよね」と理解を示してくる教職員が複数いたことが救いだ。 「残業代は出ない。プライベートは削られる。教師に求められる役割が多すぎる」と、この中学教諭は話す。LINEなどをきっかけとした生徒間のトラブルの解決を任されるだけでなく、公園で生徒が騒がしければ学校にクレームがきて対応を求められる。「スマホを与えたのは親で、公園の騒ぎは学校外の話。何でも学校に持ち込まれてはたまらない」。 公立中学校などの教職員にとって、部活は時間外労働として認められていない。教育職員給与特別法(給特法)の規定で時間外勤務手当は払われず、代わりに「教職調整額」として基本給の4%が支給される。単純化して言えば、どれだけ部活指導で平日夜が削られても、基本給が月20万円程度なら8千円ほどしかもらえない。「いくらなんでも割りに合わない」(上記の中学教諭)という状態が続いている。 ●ほとんどの学校で顧問就任は「当たり前」 多忙さはデータにもあらわれている。文科省の実態調査(2016年度)によると、小学校教諭の勤務時間は平日が1日あたり11時間15分(2006年度比43分増)で、中学校教諭は11時間32分(同32分増)。土日の勤務時間は小学校教諭が1時間7分(同49分増)で、中学校教諭は3時間22分(同1時間49分増)。ここには自宅に持ち帰っての残業は含まれていない。 調査を業務別にみると、特に中学校教諭の土日の「部活動・クラブ活動」が2時間10分(同1時間4分増)と、ほぼ倍増していることが目立った。 部活の顧問を外れることができれば多少は過酷度が和らぐといえそうだが、現実は、顧問を断るハードルは高い。スポーツ庁による2017年度の調査では「希望する教員が顧問にあたることを原則」とする中学校は2.2%、高校は1.4%と、ごくわずかにとどまった。「すべての教職員が何かしら顧問につくのは当たり前」との運用がされている実態がうかがえる。 ●堺市教委「教職員の定時退勤日を設けます」 少しでも状況を改善しようと、教育委員会レベルで動くところもいくつか出てきている。そのうちのひとつ、大阪府堺市の教育委員会は3月、教職員が勤務時間を超えて学校に滞在している時間が年間約490時間にのぼるとして、「教職員が元気に子どもと向き合うためにご協力をお願いします」と題する文書を、各学校を通じて保護者に配った。 具体的には、毎週水曜は午後5時に終業した後に教職員がすみやかに帰れる「定時退勤日」とする。8月13日から17日までを学校閉庁日とし、部活動をしない「ノークラブデー」を平日は週1日以上、休日は月2日以上設けるという内容だ。 Twitterなどでは、おおむね好意的な反応が寄せられている。堺市教委の担当者は「先生たちが元気なら子どもたちにもいい影響が与えられると思う」。一方、業務量を減らさないと「絵に描いた餅」で終わるとの指摘も現場の教職員からは出ており、「実効性を高めるため、業務量を適切に減らしていけるよう検討する」(担当者)という。 教職員に蔓延する長時間労働を改善することができるかーー。上記の中学教諭は打開策について、「仕事の総量を減らすか、人員を増やすかだ」と話す。 門外漢がよく調べもせずに口を出すとこうなるという典型的な例。しかも弁護士という肩書があるからしまつが悪い。 弁護士だの医師だのという名前がつくだけで一般の人は信じてしまう。それがどんなに浮ついた考えだったとしても。 いったい彼らは本気で物事を考えて記事にしているのだろうか。 たとえば 職員会議の場で、「部活の顧問になることはお断りします」と宣言した。校長以下、教職員たちは水を打ったように静まり返ったという。 と書くとき、教職員たちが水を打ったように静まり返ったその理由について、真剣に考え、あるいは取材したのだろうか。 まさかコロンブスが立てたタマゴを見るように、教職員は意外な発想の転換に驚いたからではないだろう。だとしたらなぜ静まり返ったのか――それは単純に呆れかえって二の句が継げなかったからなのだ。 部活顧問に予定していた一人が「顧問になることはお断りします」と宣言したら何が起こるか、世の中の人たちは想像できないのだろうか。それは単純に「その教師は顧問をしなくていい」といったことではない。別の誰かが引き受けることになるということだ。 彼が長時間労働に投げ込んだ一石は、波紋を広げるのではなく、誰かに当たってけがをさせる。 代わりに顧問を引き受けるのは、 介護や育児のために「今だけは勘弁してくれ」と校長に願い出た人かもしれない。 体に病気を抱えていて部活顧問の任に堪えられない人かもしれない。 あるいは、学級経営や教科指導に難があって、とてもではないが部活などやらせておけない人かもしれない。 いずれにしろ、顧問にしてはいけない人、顧問にしては気の毒な人に回すしかない。 あるいは通常は正副二人以上で行う部活顧問をひとりで賄うという方法もある。副顧問を外して足りない部活の顧問にするという手だ。もちろん日常はそれでもいい。しかし試合や対外練習の時はどうなるのか。 大会と言っても金で雇われた審判が来てくれるわけではないから、各校顧問が持ち回りで審判をやるしかない。種目によっては一つの試合に数人の審判が必要という競技もあって、その場合、顧問は他校の試合に出ずっぱりになる。その間、部員の指導や指示は誰が行うのか。 文科省やマスコミの大好きな「地域ボランティア」を募るという方法もあるが、さて、九州のある学校で男子バスケットボール部の顧問がいなくて困っているとして、週5〜6回、毎日夕方学校に来て2時間余り、コーチをしてくれる人材をどう探したらいいのか。野球ならできるではダメだ。バスケットボールのコーチングのできる人でなくてはならない。 学校に通える範囲に、そんな都合の良い人はいるのか。 弁護士ドットコムに相談すればすぐにでも用意してくれるというならそれでもいいが、普通はまずいない。 もうそうなれば部活を減らすしかないが、4月、元気に登校したら、 「あー、男子バスケット部ね、申し訳ないけど顧問がいないので廃部になった。特に今日まで2年間頑張ってきた3年生の諸君、ご苦労さん。明日からどこでもいいから好きな部活に移ってくれ」 というわけにはいかないだろう。 最悪の場合は教員を説得できなかった責任をとって、校長か副校長(教頭)が顧問になるしかないが、「多忙」の権化みたいな副校長(教頭)に顧問をやらせたら次々と過労死しかねない。 職員会議の場で、「部活の顧問になることはお断りします」と宣言した。校長以下、教職員たちは水を打ったように静まり返った のはそのためだ。この先起こることに対する不安と戸惑いが広がる。 そして新卒のペーペーで事情を知らならまだしも、30歳を過ぎてみんなが困ることを百も承知なのに平然と顧問を蹴ることのできるその教師の、信じられない傍若無人に茫然としているのだ。 後になって、「そういう時代だよね」と理解を示してくる教職員が複数いたことが救いだ。 その複数の教職員、いっしょに部活顧問を蹴ってくれたか? おそらくそうではないだろう。そんな恐ろしいことのできる教師が、一校に2人も3人もいるはずがない。つまり「そういう時代だよね」は、「オマエみたいな変なヤツが出てくる時代だよね」と呆れかえっているにすぎないのだ。 しかし部活を蹴った本人はさらに言う。 「部活の顧問を押し付けるのは、事実上のパワハラです」 そうかもしれない。しかしだからといって本質的な解決を図ることもせず、顧問を他人に回して押し付けるのも、やはりハラスメントではないか? 「いくらなんでも割りに合わない」 はキミだけではないが、そもそもそういう考え方をする人はこの仕事に向かないのだ。 ただしこの教師の、 教職員に蔓延する長時間労働を改善することができるか――。上記の中学教諭は打開策について、「仕事の総量を減らすか、人員を増やすかだ」と話す。 には同意する。 教師の多忙というと部活ばかりが敵視され、部活問題さえ解決すれば適正な労働環境になるように言われているがそんなことはない。 部活動のない小学校教諭でも勤務時間は平日が1日あたり11時間15分(2006年度比43分増)なのだ。 やはり「仕事の総量を減らすか、人員を増やすかだ」 それしか根本的な解決の方法はない。 ところでこの中学校教師、同じくボランティアであるPTAの仕事とか、時間外の生徒指導とかもやらないんだよね、きっと。 たしかにすごい奴では、ある。 |