キース・アウト
(キースの逸脱)
2019年 5月

by   キース・T・沢木





2019.05.22



家庭訪問における先生への「おもてなし」
暗黙のルールがあるって本当?


ファンファン福岡 5月21日


 小学校に入れば、4月は保護者も何かと忙しくなります。学級懇談会の役員決め、そして「家庭訪問」が終わるまで落ち着かないママも多いはず。入学して初めての家庭訪問の時、私に起こったハプニングをご紹介します。


 新しい学年に上がると早速「家庭訪問」があります。保護者の都合を確認するアンケートを事前に子どもが持って帰ってくるので、日程を調整します。

 家庭訪問のお知らせのプリントには「訪問時間は10分程度」「玄関先で」「飲み物やお菓子はご遠慮」の文言。

 私が子どもの頃は、親が先生にお客さま用のお茶とお菓子を用意していた記憶がありますが、最近の小学校はそういうことはしなくていいのか…。

 とはいえ、油断禁物。一応リビングとトイレは人様に見られてもいい程度に掃除をすることにしました。散らかっている目障りなものは、とりあえずクローゼットや他の部屋に一時撤収して、見た目はスッキリ!!

 当日、予定時間通りに担任の先生がわが家にやってきました。

 「お待ちしていました。どうぞお入りください」と声を掛けると、「おじゃまいたします」と先生は靴を脱ぎ始めました。

 「あれ?? 玄関先じゃないのかな?(心の声)」と思いつつ、一応「見た目」だけは良くしたリビングへ入ってもらうことになりました。

 「どうぞ、お掛けになってください」と私は先生をテーブルへ案内しつつ「冷蔵庫に出せる飲み物あったかしら…(心の声)」と頭の中はフル回転! 常備しているアイスコーヒーがあったので、事なきを得ることができました。

 10分程度の訪問のはずが、家庭訪問の時間は20分以上の大盛り上がりでした。メモを一生懸命とりながら、たくさん話をしてくれた先生はアイスコーヒーをきれいに飲み干していました。

 小学生のわが子は、先生が自宅に来てくれたことがうれしくて仕方ない様子。

 先生が「そろそろ失礼いたします」と切り上げようと立ち上がった瞬間、私に思いもよらぬ追い打ちが襲いかかりました。

 「先生! 私の勉強机、見せてあげる!」。わが子がまさかの一言!

 「それでは見せてもらおうかな」

 近頃はリビングに勉強机を置いているご家庭も多いようですが、わが家はリビングの隣の部屋に置いています。そう、掃除はおろか、たんすに入れる前の畳んだだけの洗濯物や掃除機を「一時避難」させている状態の部屋です。

 小学生のわが子にはそんな事情など分かるはずもなく、勢いよくドアを開けてしまいました。散乱している荷物を前に、もう私は笑ってごまかすどころか、大爆笑するしかありませんでした。

 先生は気を遣ってくれたのか、ノーリアクション…。

 「ここで勉強してるの〜」

 明るく言うわが子を横に、赤面の私。しかし先生は散乱した荷物を見ないように、淡々とわが子から勉強机の紹介を受けていました。もしかして同じハプニングはわが家だけではない!?

 後でママ友に聞くと、

・飲み物を出しても口にしない先生もいるけど用意する

・お菓子は食べてもらえなくても、持って帰ってもらえるように個包装のものを用意する

・先生によっては宿題をさせる場所や勉強机を確認することもあるらしい

とのことでした。肝に銘じ、今後はしっかり準備しておきたいと思います。


【上の人たちが勝手にものごとを決める】 
 今年、千葉県の野田市では父親の暴力を訴えた児童のアンケートを、教育委員会が当の父親に見せたということで大問題となったが、文科省、都道府県教委、市町村教委、知事部局、市町村長部局、あるいは校長が保護者や議員の圧力に負け、現場のこともまったく考えずにことを決めてしまうことが多々ある。

 学習指導要領の改訂はまさに毎回そうだし、最近では大阪府が児童生徒の学校への携帯持ち込みを許可した例も同じことだ。ネットいじめや“持っていない子が買わざるを得ない”といった問題は、あとで現場に何とかしてもらうしかないとでも考えているのだろう。

 「家庭訪問は玄関先で」も、校長あるいは市長村教委レベルで保護者に屈した(あるいは保護者にいい顔をしたかった)ところから出てきた制度改悪である。家庭訪問なんて死ぬほど嫌だという親は少なからずいる。私たちが一番家庭の様子を知りたいような家の親たちそれなのだが。

 家庭のプライバシーは守られるべきだという人もいるが、プライバシーを盾に病状を言わずに医者にかかる人も、何が盗まれたのかも言わずに警察に被害届を出す人もいない。
 プロなんだからそのくらいは自分でやれといわれるのは教師くらいのものだ。


【家庭訪問については、しばしば教師と保護者の利害が一致する】

 さて、
 「あれ?? 玄関先じゃないのかな?(心の声)」と思いつつ、一応「見た目」だけは良くしたリビングへ入ってもらうことになりました。
 こんな不幸な事故が起きたのは、要するに
「訪問時間は10分程度」「玄関先で」
というルールが形骸化しているという情報が行き届いていなかったからである。

 なぜそんなことになったのかと言うと要するに、
「訪問時間は10分程度」「玄関先で」
を決めた時の校長が悪いのだ。

 
家庭訪問は教師にとって超ド級の武器なのだ。北朝鮮・金王朝の核ミサイルと同じで、表向きは「やめにします」と言っても絶対に手放したくない。

 一方保護者の方にも、「一年に一遍くらいは家族全員で先生とお会いして、お願いやらお礼やらを兼ねて接待したい」という家も少なからずある
 学校で行う保護者懇談会があるではないか、という反論もあろうが、懇談会に両親・両祖母・兄弟姉妹が大挙して出かけてくるのはやはり心苦しい。ここはやはり来ていただくが一番だ、そう考える家だ。接待と言っても四国のお遍路の接待くらいの気持ちである。

 また、これを機に、先生に話しておくべきことがあるという家もある。そう言った家でも教師を部屋に上げたがる。

 いかにプリントに書いてあるとはいえ、
「上がってください」
「いや上りません」
「せっかく用意したものもありますのに」
「それでも上がりません」
「子どもも先生が来てくれるって楽しみにしていたんですよ」
「それでもダメです」
「じゃあしばらく待っていてください。足の悪いお祖母ちゃんがどうしても会いたいって、向こうで座って待っていますので、今すぐにこちらまで来てもらいますから」
 ここまで言われるのを振り切って、新学期早々保護者との人間関係を悪くしてまで守るべきルールか――教師もそんな気になってくる。


【それでもルールに対する配慮はやはり必要】
 そもそも
「訪問時間は10分程度」「玄関先で」と書いておきながら「飲み物やお菓子はご遠慮」とあるのがおかしい。
 常識的に玄関での立ち話にお茶屋お菓子を用意する家もないだろう。ここは暗黙裡に家に上げることを予定しているのではないか、玄関先で済ませるのが基本だが部屋に上ってもらう場合は
「飲み物やお菓子はご遠慮」だと。

 そんなふうに拡大解釈して部屋に上る家が何軒も続くと、教師も感覚がマヒしてついついすべての家で上がってしまう。同じことが毎年続くと、さらにマヒは深まる。
 
 もちろん
 「お待ちしていました。どうぞお入りください」と声を掛けると、「おじゃまいたします」と先生は靴を脱ぎ始めました。
とすんなり上がったのはあっさりし過ぎで、ここは若いカップルのデートのように、
「ボクが払います」
「いえ、私も出します」
「いや、いや、いや。男に恥をかかせてはいけません、ここはボクに出させてください」
 みたいなやり取りを何回かしてから上がるべきだが、1日数件軒、全部で30軒以上も同じやり取りをすることを考えると、端折ってしまう先生も出てくるのだろう。
 
 繰り返すが、だからといってプリントにある以上、さっさと部屋に上ってしまうのはマズイ。
少し綱引きをして相手があっさり手を離すようなら、「訪問時間は10分程度」「玄関先で」帰ってくるべきだろう。
 
 
【うまく行けば、三方、丸儲け】
 ところで、それにしてもこの記事に出てくるお母さんはなかなか優秀だ。
 とはいえ、油断禁物。一応リビングとトイレは人様に見られてもいい程度に掃除をすることにしました。散らかっている目障りなものは、とりあえずクローゼットや他の部屋に一時撤収して、見た目はスッキリ!!

 家庭の危機管理は親の大切な仕事だ。
 こういう親がいて初めて子も安心して日常を過ごせる。不安の少ない子は他人に対しても心を開きやすい。

 
小学生のわが子は、先生が自宅に来てくれたことがうれしくて仕方ない様子。
 この記事でもっとも素敵な部分だ。

 
「先生! 私の勉強机、見せてあげる!」
 「それでは見せてもらおうかな」

  担任とこんな会話のできる子は学校でも素直に先生の話を聞ける子だ。学業成績にしても人間性にしても、しばらくは順調に伸びるに違いない。
 
 
それを見ることができただけでも、先生に上ってもらって良かったということになる。
 
 
家庭訪問における先生への「おもてなし」暗黙のルールがあるって本当?
 と少々刺激的なタイトルを掲げながら、最後は、
 今後はしっかり準備しておきたいと思います。
 と肯定的な結論になるのはそのためだろう。
 
 素敵なお母さん、いい子どもといい担任に恵まれたね!