キース・アウト
(キースの逸脱)

2019年 6月

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by   キース・T・沢木

サルは木から落ちてもサルだが、選挙に落ちた議員は議員ではない。
政治的な理想や政治的野心を持つ者は、したがってどのような手段を使っても当選しておかなければならない。
落ちてしまえば、理想も何もあったものではない。

ニュースは商品である。
どんなすばらしい思想や理念も、人々の目に届かなければ何の意味もない。
ましてメディアが大衆に受け入れられない情報を流し続ければ、伝達の手段そのものを失ってしまう。

かくして商店が人々の喜ぶものだけを店先に並べるように、 メディアはさまざまな商品を並べ始めた。
甘いもの・優しいもの・受け入れやすいもの本物そっくりのまがい物のダイヤ
人々の妬みや個人的な怒りを一身に集めてくれる生贄
そこに問題が生まれれば、今度はそれをまた売ればいいだけのことだ。














2019.06.16

 「1人でできる子」は、テキトーに育てられている

[東洋経済オンライン 6月16日]


1人でちゃんとできる、しっかりした子に育ってほしい。部屋の片づけ、食べ物の好き嫌いをなくす、早寝早起き、ドリルがちゃんと解ける、どれもできるようになってもらわないと――。たいていは親が子に「こうであってほしい」と望み、そして、そのとおりに行動してくれないから、イライラしてしまったりします。
しかし実のところ、かなり多くのことが、子どもをいい子にするためになっておらず、悪い方向に向かってしまっています。

『1人でできる子になるテキトー子育て 世界トップ機関の研究と成功率97%の実績からついに見つかった!』の著者であり、子育て支援サービスを運営する、はせがわ わか氏はハーバード大学や東京大学など国内外の1000以上の子育てに関する研究を調べ尽くした結果、「テキトーこそ最高の子育てである」という結論にたどりつきました。

テキトーとは「こうじゃないとダメ」とこだわるのではなく、「こだわらなくていいことにはこだわらない」という意味です。今回は、テキトー子育ての具体的なものをいくつかピックアップしてご紹介します(なお、本記事でいう子どもとは、未就学児を指します)。


■無理に部屋の片付けをさせなくてもいい
 大人でも、なんだかよくわからないものに囲まれていると、気が散って1つのことになかなか集中できません。子どもは大人よりももっと気が散りやすいので、部屋をきれいにするのは子どもにとっても大きな意味があります。ですから、部屋が片付いたときの気持ちのよさを知れば、やがて子どもは自主的に片付けるようになります。

 その気持ちよさを十分に知るまでは、遊びに夢中になっている子どもに「片付けなさい!」と言ったところで、なかなか片付けてくれません。

 だったら大人がササっと片付けてしまいましょう。損な役回りと思うかもしれませんが、そのうち子どもはたくさん散らかしても、自分で片付けるようになりますから。

 きれいにしていれば、汚したり散らかしにくくなることは、「窓割れ理論」として知られる理論からも説明がつきます。割れた窓を放置すると、どんどん窓が割れていきますが、逆にちょっとでも割れたらすぐに直せば、窓は割れなくなるという理論です。

 わかりやすい例が、ニューヨークの街。以前は落書きだらけで、ゴミが散乱していました。しかし、落書きなどの取り締まりを強化したところ、落書きもゴミも、さらには犯罪までもが激減したのです。

食べ物の好き嫌いがあっても気にしない
         (以下略)


【やらせようとしなければやるようになるという逆説教育論】
 
子どもを指導しようとしてはいけない、放っておけば必ず良くなるという育児論・教育論は、古くはジャン・ジャック・ルソーに始まり、スポック博士の育児書を経て今日まで脈々と流れる一方の派閥である。もちろんルソーやスポック博士がそう言ったというのではなく、誤解され続けたという意味でもあるが。

 学校も「担任が“勉強しろ”“勉強しろ”と言えば言うほど子どもは勉強しなくなる」とか「不登校は登校刺激を与えなければ必ず良くなる」といった非科学的な理論で攻撃され続けたが、結局は“子どもの学力はどうなっているんだ”とか“不登校14万人を生み出した学校の責任”みたいな形で逆の立場からも攻撃されるようになった。

 育児について言えば、これだけ虐待が問題になり育児放棄が重要な課題と浮かび上がっている中で、『「1人でできる子」は、テキトーに育てられている』といった本が持ち上げられるのも不思議なことだ。

 もちろん筆者には「思い詰めた育児が虐待を産む」といった思い込みがあり、気楽に子育てできるようになればそれもなくなるといった考えがあるのかもしれないが、万人が喜びそうだというだけでテキトーなことを述べるのは教育のポピュリズムであって何の益にもならない。


【片付けろと言わなければ片付け上手になるのか】
 しかしこの記事、よく読むととてもではないが「テキトーに育てられている」といったお気楽な話ではないことが分かる。

 たとえば「無理に部屋の片付けをさせなくてもいい」では、
 部屋が片付いたときの気持ちのよさを知れば、やがて子どもは自主的に片付けるようになります。
 その気持ちよさを十分に知るまでは、(中略)大人がササっと片付けてしまいましょう。損な役回りと思うかもしれませんが、そのうち子どもはたくさん散らかしても、自分で片付けるようになりますから。


「食べ物の好き嫌いがあっても気にしない」でも、
 
ピーマンやしいたけなど、子どもは何かしら嫌いな食べ物があるもの。ただ、理由があって嫌いなのです。実は子どもの好き嫌いの判断基準はただ1つ。食べても安全かどうか。(中略)
子どもが信頼しているお父さん、お母さんが同じものを一緒に食べれば、本能的に安全だと理解しやすいのです


「早寝早起きにこだわらない」と言っても
それよりもはるかに大事なのは、決まった時間に寝て起きることです。
という話。
 
バカヤロー! それが大変なんだ! と思わず叫びたくなる。
 
 つまりがみがみ言って何とかやらせるのではなく、親が一生懸命片付け、好き嫌いなくい何でも食べて見せ、睡眠時間はきっちり守らせよう、もっと工夫をしましょうというごくごく常識的な話なのだ。

 ここまでくるとこの、さまざまに考えさまざまに工夫をする著者の育児法が「テキトー」というのが理解できなくなる。
 もしかしたらこの本のタイトルは、
「『1人でできる子』は、適当(適切)に育てられている』
だったのかもしれない。


【素人は真似をしてはいけない】
 さらに読み進んで「ドリルでのミスを正さない」までたどり着くと私は絶句する。
 
未就学児にドリルを取り組ませる際は、ドリルの選び方がとても大事。

 ヲイ! オマエ、未就学のうちからドリルさせてんのか?

 
 私自身は自分の子に対して過保護で過干渉で、しかしそれが分からないようにかなりの時間と手間をかけて工夫しながら子育てをしてきたような人間だ。しかし未就学のうちから国語や算数のドリルに取り組ませようなど、爪の先ほども考えなかった。

 かくしてこの人の育児論の底が割れる。

 要するに、
 
能力のある私が、
 ハーバード大学や東京大学など国内外の1000以上の子育てに関する研究を調べ尽くした
 上でしっかりと工夫してやれば、子育てなんてチョロイものよ。テキトーでかまわない、
といった話なのである。
 
 能力もなく古今東西の子育て論研究なんてさらさらする気もなく、工夫もない――そういうフツーの人たちは、ゆめゆめこんなアホ話に乗っからないよう、切に願う。







2019.06.17

 「お箸の持ち方がおかしい。お嫁にいけないよ」
娘への言葉に母が反論


[BuzzFeed Japanン 6月17日]


「お箸の持ち方がおかしい。お嫁にいけんよ」
小学校1年生の女の子が、学校の先生に言われたという言葉が、Twitterで大きな注目を集めています。【BuzzFeed Japan / 伊吹早織】

「お箸の持ち方」を先生が指導
発端となったのは、二人のお子さんを育てるちゃちゃこさん(@shinkontosa)が投稿したツイートでした。

「娘が小学校の先生から『お箸の持ち方がおかしい。お嫁にいけんよ』と言われたというので、朝から母はヒートアップ。お箸の持ち方が変だから結婚したくないとかいう人とそもそも結婚せんでいいし、いや、結婚する相手を決めるのは娘やし、女が選ばれる時代なんてとっくに終わってる」

ちゃちゃこさんによると、朝、学校に行く前に「昨日先生と一緒に給食を食べたら、『お箸のもちかたがおかしい。お嫁にいけんよ』と言われたがよ」と打ち明けた娘さん。

「『お箸の持ち方がおかしいから、お嫁にいけない』という先生の発言は、時代錯誤だと感じました。『お箸の持ち方で人の優劣を決めること』を私はしたくありません」

「人を攻撃しない、迷惑をかけない、ということはちゃんと教えています。でも、しつけやマナーに関しては、我が家では『相手を不快にすること』以外は重要視していません」

そう語るちゃちゃこさんは、娘さんにも「お嫁にいけんとか先生が決めることじゃない。気にせんでいい」と伝えた、とBuzzFeed Newsの取材に話します。

このエピソードをTwitterに投稿すると、お箸の持ち方をめぐって「よほど変じゃ無い限り、他人の持ち方を気にしたことないなあ」「お箸の持ち方に口を出してくれる先生なんて貴重でありがたい」などと様々な意見が投稿されました。


「親御さんの前で恥かくぞ」
都内などで働く20代の男性も、中学生の頃、お箸の持ち方について「結婚するとき、相手の親御さんの前で恥をかくぞ」と先生に指導されたことがあるとBuzzFeed Newsの取材に話します。

「何度も言われましたが、僕はあんまり気にしていなかったので、『直します!』と返事だけして、その後も持ち方は変えていません」

「たまに会食などの場で『箸の持ち方のせいで、常識がないと思われたらどうしよう』などと考えることはあります。でも交際相手の両親と食事をした時に、何か言われた記憶はないですね」

その一方で、相手によっては「知らないうちに損をしている可能性はある」とも言い、「直したくない人が直す必要はないですが、直して損はないかなとも思います」と話しました。


自分で考えて行動すること
ちゃちゃこさんは今回のツイートに対して、「親が子どもに箸の持ち方を教えないのは虐待だ」とまで非難する人がいたことに、ショックを受けたと語ります。

「『恥をかくのは娘さんだから、親がしつけをしろ』という意見も多かったですが、娘が持ち方を直したい時はもちろん手伝いますし、直す必要がないと娘が思うなら、直さなくてもいいと思います」

「過剰な『しつけの文化』や、それを怠った時に親を責めるような風潮が、日本で子育てしにくい一つの大きな原因だと感じさせられました」

また、「子育てしてみたらわかると思うんですけど、子どもって全然思い通りにならないんです」と話すちゃちゃこさん。

「お箸をきれいに持てないことで、恥をかく可能性があったとしても、そうした失敗を親が最初から全て排除しなくていいと思います。失敗の経験を通して、子どもは成長すると思います」

「『自分で考えて、自分で行動すること』が、娘の将来のために一番大事だと思っています」



 先生の言い方自体は「食べてすぐに横になるとウシになるぞ」「いつまでも裸で歩いているとカミナリ様におへそを取られるぞ」と同程度の暗喩なので「
時代錯誤だ」「非科学的だ」と非難するほどのこともないと思うが、朝からヒートアップしてTwitterに投稿するまでしたところを見ると、躾ができていないと言われたことによほど傷ついたのか、そもそも学校や担任に対して根深い不信感を持っているかのどちらかだろう。

 不信感で満水になっているコップに一滴水を落としただけで、驚くほどの水が誘引されて零れ落ちる。
 つまらぬことで怒ったものだと馬鹿にしてはいけない理由がここにある。

 教師はそもそも指導をするのが仕事で、年中同じようなことをやっているのでついつい丁寧さを書いてしまうが、本当は
「お嫁にいけない」などと言わず、こう言えばよかったのだ。


【箸の持ち方を直した方がいい理由】
 
あなた、お箸の持ち方、ちょっと変かもね。

 お箸の持ち方というのは親が最初に直面する最も難しい躾で、放っておいても自然にできるということはない。手間もものすごくかかる。その点でトイレット・トレーニングと違うんだ。

 だって親からちゃんと躾けてもらわなかったから未だにオムツをしている大人って、会ったことないでしょ? でもお箸の持ち方の方は本人が意図して直さない限り、大人になってもずっとそのままだ。
 
 知ってるかい?
 お箸の持ち方の練習って、実は二段階からなってるんだ。
 ホラ、私が正しい持ち方をするから見てごらん。
 
 このときね、右手の薬指が下の箸を持ち上げるように支えなければならないんだけど、習い始めの子どもはそこがうまく行かないんだ。でも、(私はうまくできないんだけど)子どもは薬指で支えなくてもうまく箸を動かせるんだよ。
 そこまでが第一段階。
 
 下の箸を小指で支えたり、そもそも支えないまま動かしたりといろいろなやり方があるんだけど、とにかく薬指のことは忘れて、親指と人差し指と中指の三本で箸が動かせるようになったらそれで食べるようにして、慣れたら後で薬指を練習すればいい。それが第二段階で完成というわけさ。
 
 箸を使わせることに熱心な親御さんは自然にそういうことをやっている。いつまでもこだわって箸の持ち方を練習させていると、薬指の問題が最後になるのが自然だからね。
 
 さて、そうなると次に出てくるのは、
「箸をきちんと持てない子の親は、そうした丁寧で根気の必要な躾をきちんとしてこなかったのか」
という問題になるんだけど、それはおそらくその通りだろう。

 先生はよく知ってるのだけど、あなたのお父さんもお母さんも必死に働いてあなたのことを育ててきたよね。お父さんとなんて、朝も夜も一緒に食事をしたことがほとんどないんじゃない? お母さんも、あなたが朝食を食べている時間はたいていランドセルの中身のチェックをしたり自分のお化粧をしたり、夜は夜で一刻も早く食事を終えて洗濯をしたりお風呂の用意をしたりと、あなたのお箸の持ち方を気にしている暇なんかなかった――だよね。
 わかるよ。ウチだって似たようなものだから。
 
 しかしね、私のようにあなたの家の事情を知っている人間ならともかく、そうでない人から見ると、お父さんやお母さんが頑張って生きてきたからお箸の指導ができなかったのか、ただの不熱心でだらしない親だったから教えなかったのか、分からないのだ。
 特に自分の息子の結婚相手となると、付き合いは一生ものだからついつい慎重になって一度は疑ってみる気になる。
 
 昔から「箸がきちんと使えないとお嫁にいけない」とか「親が恥をかく」と言われるのはそのためだ。もちろんよく調べもしないで疑う方が悪いと言えば悪いのだけど、第一印象って大事だよ。
 
「ああこの子、なんて美しい食べ方をするんでしょ。きっと丁寧できちんとした教育を受けてきたからね」
から始まる人間関係と、
「アラやだ。この子、なんて汚い食べ方しているの? 親の顔が見てみたいわ」
から始まる人間関係では、すくなくとも最初の段階ではずいぶんちがったものになるだろう。

 キミ自身の問題は修正の機会がいくらでもあるからいいけど、めったに会わない親の方はそうはいかない。キミはご両親がそんな誤解を受けたらいやでしょ? しかもこの手の問題は相手もめったに口にしないから、誤解されていること自体に気づかない。

 だからね、親御さんのためにも、キミ自身がその気になっていまから箸の持ち方を直しておくといいんだ。それにそもそも、「見た目だけでなく仕草も美しい」なんて言われたらキミ自身が幸せでしょ?
 だから、ね、頑張ってみようよ


 しかしこんなこと、小学生に話してもなかなか分かってもらえない。そこで簡単にしてこんなふうに言ってしまうのだ。
「お箸の持ち方がおかしい。お嫁にいけないよ」


【世間は案外常識的】
 問題を提起した方のツイッターに対して、
「親が子どもに箸の持ち方を教えないのは虐待だ」
は言い過ぎにしても、
「お箸の持ち方に口を出してくれる先生なんて貴重でありがたい」
「恥をかくのは娘さんだから、親がしつけをしろ」

といった意見が出てくるのは、ある意味で自然なことだ。

 また、取材を受けた人が、
「たまに会食などの場で『箸の持ち方のせいで、常識がないと思われたらどうしよう』などと考えることはあります」
とか、相手によっては
「知らないうちに損をしている可能性はある」
「直したくない人が直す必要はないですが、直して損はないかなとも思います」

と発言するのも理解できる。

 かしこまった席で会食することが絶対にないという人ならともかく、向かい合わせで食事をすれば視線は自然に手のあたりに向かうから、気にし始めるときりがない。
 他人の箸の持ち方が気になるというよりも、うまく使えない人は自分の持ち方が気になり続けるのだ。
 やはり直せるものなら直してやる方がいい。


【最後に一言】
 売り言葉に買い言葉でバンバン出てくる話なのでいちいち突っかかっても仕方がないがお母さん、
「娘が持ち方を直したい時はもちろん手伝いますし、直す必要がないと娘が思うなら、直さなくてもいいと思います」
「過剰な『しつけの文化』や、それを怠った時に親を責めるような風潮が、日本で子育てしにくい一つの大きな原因だと感じさせられました」
「お箸をきれいに持てないことで、恥をかく可能性があったとしても、そうした失敗を親が最初から全て排除しなくていいと思います。失敗の経験を通して、子どもは成長すると思います」

は全部違っていませんか?

「『自分で考えて、自分で行動すること』が、娘の将来のために一番大事だと思っています」
とおっしゃいますが、子どもが「自分で考えて、自分で行動する」とき、必ずしも正しい考えにそって正しく行動するわけではない。
 お嬢さんが「明日から一人で旅に出る」とか「もう学校に行かない」とか言い出しても、その決心を応援できますか?

 ただし、
「子育てしてみたらわかると思うんですけど、子どもって全然思い通りにならないんです」
 それは正しいと、私も思う。
 
 

キース・アウト2019年6月R