序章 銀の盾

・・・ワーワーワー・・・。 ガキーン、キーン。 けたたましい音と声が戦場中に轟いている。 「もう一押しだ!よし、別働隊に伝令を!側面を突けと!」 優勢な状況にある頑駄無軍総大将、武者頑駄無が叫ぶ。 「ほう?我が方が優勢か。」 「そのようでござる。」 伏兵として戦場側面に伏せていた、別働隊を指揮する武者真悪参は 副将の百士貴とともに戦場を一望出来る高台から見下ろしていた。 「ん?あそこに居るのは・・・。」 真悪参は不敵な笑みを浮かべ、騎馬モードになった。 「全隊、引き続きここで待機せよ!」 「真悪参殿!持ち場を離れてどこへ行かれる!!」 「あそこに奴が居るのよ!」 そう言い捨てて、真悪参は一騎で戦場へ突っ込んだ。 「奴さえ斬れば、次の大将軍は・・・、俺だ!」 「なんと、真悪参がまた一騎で戦場へ向かったというのか!!」 「は!」 伝令の報告を受けて頑駄無は怒気をあげた。 「おのれ、またも奴は有利な戦況をかき乱す気か! 」 「重要な任務を任せれば少しはおとなしくなるかと思えば・・・。」 参謀役として傍らにいた将頑駄無が言う。 「これでは我が方が窮地に立たされしまうぞ。」 「父上、わかっています!」 「第壱陣は真悪参の救出!第弐陣は第壱陣を援護しつつ、敵を引き付けさせよ! 第参陣の駄無留精太は左側面より牽制、別働隊は副将の百士貴に指揮をとらせ、 右側面から突撃させよ!残りの部隊は退路を確保せよ!」 「壱陣、弐陣の退路がまだ危ない。」 「そうか、では後詰めに仁宇の部隊を!」 伝令たちが各武将たちの元へ走る。 「間に合うといいが・・・。」 「ぐわー!」 瞬く間に周囲にいた8人の兵士が切り捨てられた。 「見つけたぞ、殺駆頭!」 「・・・真悪参、また貴様か。」 真悪参は8人を斬った勢いそのままに殺駆頭に斬りかかる。 「今日こそ貴様の御首、もらいうける!」 しかし、殺駆頭は真悪参の強烈な斬撃を受け止め、 そのまま真悪参を押し飛ばした。 「ん?真悪参、貴様一騎だけか?ふふふ・・・。」 「何がおかしい!俺が指揮だけとってふんぞり返ってるやつではないこと、 貴様も知っていよう!」 すぐさま起き上がった真悪参が吠える。 「ふははは、これが笑わずにおられるか。貴様がここに居るのに、貴様の部隊は 一度も戦場で見かけておらん。そして、初めて見たのが貴様一騎。なのに、 我が軍が突破された形跡はないのに関わらず、貴様はわしの前に現れた。」 「・・・何が言いたい?」 殺駆頭の真意がつかめず、真悪参は聞き返した。 「お主は一体どうやってわしを見つけたか、簡単な推理だのう?」 「!」 「全軍に伝達!右側面から総突撃! 頑駄無軍は左側面の高台に伏兵を置いている、 後方の憂いはない!」 「しまった・・・。」 「自部隊を連れて側面を突けば勝ちは決まっていたものを・・・。 自軍が優勢なのを見て、いつものように高名心にかられて一人で突っ込んできたのであろう? だから貴様は猪武者と言われるのよ。いくら腕があろうと戦局を見極めるここがなければな!」 殺駆頭は真悪参を馬鹿にするような笑みを浮かべ、自分の頭を指で2度小突いた。 「貴様さえ打ち倒せば戦局はすぐさま変わる!」 「ふん、勝ち戦に変わった今、貴様と斬りあう気などない。」 そう言って殺駆頭は馬を後方に走らせようとした。その時、 「俺が相手してやるよ!」 右後方から刃が振り下ろされる! ガキーン! 間一髪、剣で受け止めた。 「ぬ!・・・新殺駆か!邪魔をするな!」 「そうはいかぬ!」 「く、待て、殺駆頭!」 「今度会うたなら考えてやろう。この状況で生きていられたらな・・・。」 そのまま殺駆頭は遠くへ去っていく。 「また、・・また、逃げると言うのか!殺駆頭ーーーーーーーーー!!!」 「ここで死ぬ貴様が御館さまの名を軽々しく呼ぶな! 」 「どけーーー!貴様など俺の相手になるかーーーーー!!!」 ギン、ガ、バキーン! 真悪参の圧倒する気迫と剣術に新殺駆は押され、3合で刀を弾き飛ばされた。 「ぐ、ここは勝負を預ける。」 新殺駆が馬を走らせる。 「待て、こうなれば貴様だけは斬る!」 真悪参が騎馬モードになる。そのとき! 「撃て! 」 矢の雨が降り注ぐ! 矢を必死で交わし、剣で斬り払うが、 「ぐわ!」 真悪参の肩に矢が突き刺ささった。 「これ以上どこへ行こうというのだ?真悪参よ。」 「兄者達!」 「苦殺駆に今殺駆!三人衆勢揃い、か・・・。」 「弟分をかわいがってくれた礼をしなけらばな。」 「ならば三人とも斬り捨てるまでよ!」 「ふん、何故貴様と斬りあわねばならん?」 「何だと?」 「御館さまが言わなかったか?戦とはここでやるものよ。」 「!」 「はりなずみになるがよい。」 「撃て!」 その時!真悪参の後方より弓矢が飛び、敵を襲う! 「何事!」 「全隊、真悪参を救出せよ!」 第壱陣を示す頑駄無軍の旗がはためく。 「ぐぐ、あの真悪参をもう少しで討ち取れたものを・・・。 全隊、敵部隊に応戦せよ!」 「・・・農丸兄者か。」 真悪参の横を農丸軍が通り過ぎていく。 「救護班、真悪参を!我が部隊は敵部隊を牽制しつつ引き上げるぞ!」 農丸の声を聞き安心したのか、真悪参は気を失い、倒れてしまった。 「・・・間に合ったか。しかし・・・。」 周りでは頑駄無軍兵士の悲痛な叫び声が聞こえていた。 頑駄無城に全軍が引き上げた次の日。 将軍謁見の場に主立った武将が集められていた。 「真悪参、面を上げい。」 顔をあげた真悪参は至極冷静な表情で正面を見つめた。 頑駄無大将軍が威厳に満ちた表情でこちらを見つめている。 「真悪参よ、分かっておるな? 」 「は。」 「我が軍は優勢な状況であった。それがお主の軽薄な行動で 全軍壊滅の憂き目を見た。その罪は重い。」 大将軍は将頑駄無に顔を向け、うながす。 「真悪参、お主を無期限の謹慎処分とし、一兵卒に降格とする。」 「謹慎?」 「御館さまがお主の腕を惜しんでのものだ。本当なら切腹ものだ。」 「・・・承知。」 そのまま真悪参は立ち上がり、背を向けた。 「どこへ行く?」 「もう評定はおりたのだろう?部屋へ戻る。」 真悪参はそのまま謁見の場を去った。 「・・・無礼な。」 「なんて奴だ。せっかくの大将軍のご厚意を・・・。」 「やはり奴は切腹にすべきなのだ!」 謁見の場がざわめく。 大将軍がため息とともに言葉を漏らした。 「あの性格さえまともならな。腕だけは我が軍の中でも飛びぬけているというのに。」 「御意。」 真悪参が去った廊下の方を、将頑駄無は残念そうに見つめていた。 数日後。 「・・・ここにいても、出世の望みはないな。」 真悪参は見張りを付けられ、自分の部屋に押し込められていた。 肩をぐるぐる動かし、回復具合を見る。 「肩ももう動くな。」 そう言って、包帯を取っ払った。 「さて、何処なら俺を高く買ってくれる?」
その深夜。
自分の部屋で布団にもぐりこんでいた真悪参は雨の音を聞き、
目を覚ました。
「外は雨か、実行は今だな。」
見張りの兵士は眠りこけているようで、
真悪参は部屋を抜け出した。
そして、将頑駄無の屋敷へと向かい、宝物庫へ忍び込んだ。
「ふふふ、将頑駄無秘蔵の銀の盾、こいつを持っていけば」
「誰だ!」
「ちっ!」
「曲者だー!」
真悪参はその者を切り捨て、外へ飛び出した。
声を聞きつけた兵士たちが集まってくる。
しかし並みの兵士では相手にならず、数人を切り捨て、
屋敷の外へ出た。
だが、そこにも兵士が駆けつけはじめていた。
「思ったより数が居るな。あそこへ入るか。」
追手から逃げる真悪参は山の方へ駆け出した。
「この雨だ、山の中なら簡単には見つかるまい。」
空は雨が更にひどくなる中、雷鳴が轟きはじめていた。

「賊は山へ逃げたぞ−!」
追手が叫ぶ。真悪参は奥へ奥へと入り込んでいった。
しかし、真悪参の目論見とは外れ、一騎、真悪参に追いついた。
「・・・賊が貴公とはな」
「精太か、そうだな。俺に追いつけるのは、五人衆の中でも、
葦駄天の異名を持つお主しか居らぬな。」
「さあ、その銀の盾を返していただこう。」
「そうはいかぬ。それに貴公の腕で俺を斬れるか?」
そう言って、真悪参は銀の盾から剣を引き抜いた。
「何?その剣を抜いた?」
不思議そうに剣を見つめる精太に真悪参は問い返した。
「何に驚いている?」
「その剣は誰にも引き抜けはしなかった。」
「そうか?だが、簡単に抜けたぞ!」
真悪参は剣を真上に掲げ、精太に斬りかかった。だがその時!
ピシャーン!
雷が真悪参に落ちた!
その衝撃で吹っ飛び、大木に背中を打ち付ける精太。
「ぐ、一体何が起こった?」
起き上がった精太はあたりを見渡した。
「真悪参?」
だが、そこには雷の落ちた後が、大地を焦がしているだけだった。

「何処だ、ここは?」
真悪参は地面も何も無い不思議な空間に浮いている自分を発見した。
「何が起こった?」
そして銀の盾を見つめる。
「この剣を抜いて、精太に斬りかかって・・・。」
その時、前方より強い光が差してきた。
「何だ?」
光はだんだんと強さを増していく。
「まぶしい」
そして突然その光が弾けとんだ。
「うわ!」
面食らった真悪参は、思わず顔を背ける。
そして、再び正面を見たとき、そこには黄金の光に包まれた巨人が立っていた。
「選ばれし者よ。我が名は黄金神スペリオルカイザー。スダ・ドアカワールドを
守護せし者。」
「おまえか!俺をこんな所に連れ込んだのは!」
「そうだ、我が呼んだのだ。スダ・ドアカワールドを救う新たな勇者として。」
「スダ・ドアカワールド?勇者?一体何のことだ!」
「君が住んでいた所とは違う世界、つまり異世界だ。」
「異世界だと?」
「そうだ。ユニオン族が平和に暮らしている。しかし、その平和を乱す存在が現れた。
スダ・ドアカワールドはジオン族の脅威にさらされている。君に救って欲しいのだ。」
「何故俺が選ばれたのだ!」
「その剣を引き抜けたのが勇者の素質がある証。銀の盾は真悪参、君を選んだのだ。」
「この盾が?」
「我が新たな勇者となる人物を見つけるために、君の世界へと送ったものだ。」
「俺はたまたまこの剣を引き抜いただけだ!」
「その剣は勇者になれる人物しか抜くことはできない。」
「!そうか、だから精太はあんなことを」
「さあ、スダ・ドアカワールドを救うため、君の力を貸してくれ。」
「断る!」
「何故だ?」
「何故、他の世界のために体を張らなければならない。そもそも守護せし者と
御大層なことをいうのならば自分がやればいいだろう?」
「・・・それが出来ぬのだ。」
「どういうことだ?」
「我は長い間スダ・ドアカワールドを護ってきたが、前回の戦いで力を使い果たしてしまった。
そのため今の我の力だけでは戦えぬのだ。見よ!」
また強い光が発した!
そして光が収まると、ぼろぼろに傷ついた、騎士と竜が居た。
「この神の龍、カイザーワイバーンは君をスダ・ドアカワールドへ運ぶぐらいしかできない。
そして、私は残された最後の力を君に託すしかないのだ。」
(・・・ふふふ、そういうことか。自分の世界での出世が絶たれた今、
スペリオルカイザーの力を使い、異世界で成り上がるのも良いか。)
「分かった。そういう事情ならば力を貸してやる。」
「そうか、ありがとう。・・・むん!」
何かの力を使ったのか、まわりから光が収束し、目の前に鎧、盾、剣が現れた。
見事なそれらの武具は星の紋章がついており、神々しい光を放っていた。
「この三種の神器を身につけるがよい。神器の力と君の剣術が合わされば、
きっとジオン族も打ち破れるはずだ。」
武具は突然真悪参に向かっていき、自然に装着された。
「な、なんだこれは?力が、力があふれてくる。」
「うむ、ではワイバーンよ、我々をスダ・ドアカワールドへ。
勇者よ、ワイバーンの背に乗るがよい。」
恐る恐るカイザーワイバーンの背にまたがる。騎士も続いて乗ってきた。
「いけ、ワイバーンよ!」
カイザーワイバーンは一声嘶くと高速で何処かへ向かいはじめた。
「・・・なんて速度だ。」
そのスピードに振り落とされまいと、ワイバーンに必死でしがみつく真悪参。
しばらくして、真悪参は騎士の体に異変が起こっていることに気が付いた。
騎士の体が消えかかっているのだ。
「どうした、その体は?」
「最後の力を使い果たしてしまったのだ。」
「何!」
「消えてしまう前に我の黄金魂を受け取ってくれ。」
「なんだそれは?」
「我そのもののことだ。私の培ってきた智恵も受け継いでくれ。」
「・・・分かった。」
「では、行くぞ!」
光の塊となった騎士は真悪参の胸から中へ入っていった。
「ふふふ、これでスペリオルカイザーの力を全て受け取ったのか。」
不気味な笑みを浮かべる。
「では、この力を使って、ユニオン族、ジオン族共に支配してやる!」
「なんだと?馬鹿な、善悪も見極められないほど、我は衰えていたと言うのか!」
「な、なんだ!どこから聞こえる? 」
突然聞こえてきた声に真悪参は動揺した。
「お前の中だ。これほど邪悪な思考の持ち主とは・・・。」
「そうか、だがお前の力を全て受け取った今、もうどうにも出来まい?」
「我はまだ完全に消えてはいない!」
三種の神器が光り出す。
「な、何?」
三種の神器は真悪参から外れ、何処かへ飛び去った。
「仕方があるまい、お前の魂をこの体から追放する!」
「何だと!そうはさせるか!」
抵抗する真悪参。だが騎士の力は想像以上に強かった。
「ぐあー!!」
「去れ!邪悪な思考の持ち主よ!」
苦しむ真悪参は、カイザーワイバーンの上で暴れ、
もがき苦しみ、そして、落下してしまった。
「うわーーーーーー!!!」
二人の声が重った。

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