第一部 ジークジオン編
第一章 ラクロアの勇者
第一話 二つの流星

ここはラクロア城。 謁見の広間にて騎士の叙勲式が行われていた。 「今日のジオン族との戦い、見事であった。」 「ありがたきお言葉。」 かしこまる若者。 「皆の者!本日よりアムロは騎士となった!」 わーっと、まわりから歓声が沸き上がる。 「おめでとう!」 「良かったな、アムロ。」 傍らに居た騎士セイラと戦士スレッガーが駆け寄る。 「いや、君たちが居たからこそだよ。」 その言葉に二人は首を振る。 「違うわ。あなたの努力があったからこそよ。」 「そうだぜ、アムロ」 王はその言葉にうなづき、アムロに笑みを向けた。 「うむ、これより騎士としての一層の努力を期待しておるぞ。」 「は!」 「では、これより祝宴を始めようぞ!」 王の一声により、音楽が流れはじめ、テーブルと、 料理が運ばれてきた。 一刻もたった頃、すっかりワインで頬が赤くなったフラウ姫は 夜風で涼もうとテラスで夜空を見上げていた。 そこに突然、流星が姿をあらわした。 「流れ星?あ、二つになった!」 流星は古城がある方へ落ち、もう一つはラクロアの森へ落ちた。 「まあ、大変!」 「な、何だ?」 流星の爆音で、驚いてる皆を尻目にフラウ姫は外へ駆け出した。 しかし、門が閉まっている。そこで、門兵達に呼び止められた。 「誰だ、そこに居るのは?」 「ひ、姫様?」 姿を見た門兵達はすぐに態度を改まった。 「ここを開けてください。」 「駄目です。外はモンスターがうろついております!」 「森の方に流星が落ちたの!」 「なんですって?」 「だからここを開けて!」 「それだったら私たちが見てまいりますから。」 「開けなさい!」 「わ、わかりました。」 迫力に押されて渋々と扉を開ける門兵たち。 開くと同時にフラウ姫は森の方へ駆け出していった。 「おい、おれたちは姫についていく!誰か城に知らせてくれ!」 そう言って、門兵三人が姫を追いかけ、城へは一人伝令が走った。 「たしか、こっちの方へ・・・。」 森の中へ入って行こうとするフラウ姫と門兵たち。 「姫ー!」 そこへ、戦士ガンキャノン、僧侶ガンタンクと衛兵達が追いついてきた。 「姫、外は危険です! 城へお戻り下さい!」 しかし、姫は首を振る。 「私、見たのです。森の奥に流星が落ちたの。 」 「そうですか・・・。それは私たちが見てまいりますので、 城へお戻りを。」 「嫌です!この目で見たいの!」 そう言って、再び森の中へと駆け出した。 「姫!」 慌てて追いかけるガンキャノンとガンタンク。だが、 「きゃー!」 目の前にスライムアッザムがあらわれた。 「おのれ、ジオン族のモンスターめ!」 戦士ガンキャノンが噛み付こうとしたのを食い止め、一刀両断する。 「助かりました。」 「このとおり、危のうございます。あ、姫!」 「あそこが何か光ってるの!」 奥の方に青く光る何かを見つけたフラウ姫は そこに向かって駆け出していた。 近づくと流星が落下した跡と思われる小さなクレーターがあった。 「あの穴の中?」 クレーターの中を覗くと、中央に何かの物体が有る。 どうやらその物体がぼんやりと光っているようだ。 「何、何なの?」 クレーターの中に入り、恐る恐る近づくフラウ姫。 光が消えていく。その光の中には倒れている人らしき姿が見えてきた。 「人?死んでいるの?」 「はあ、はあ、ひ、姫、それ以上、近、づくのは、危険、ですぞー!」 やっと追いついたガンキャノン達。上から叫んだガンタンクは、 普段は城の中にいる為、息を切らしてしまっている。 フラウ姫はガンタンクの忠告を無視して、 倒れている者に近づき、息を確かめる。 「う、うーん・・・。」 「生きているわ!ガンキャノン、城へ運んであげて!」 ガンタンクは動きにくいローブを着ているため、降りられないので、 代わりに降りてきたガンキャノンに向かって言うフラウ姫。 「え!何者か分からないのですぞ?」 「あの人が気がついてから調べればいいでしょ!」 「わ、わかりましたよ。」 倒れていた何者かを肩に担ぐガンキャノン。 そして、上で待っていたガンタンク達の元へ戻った。 「その者は・・・?」 「どうやらMS種のようですが・・・。」 「何者なんでしょう?」 「とにかく、詮索は城に帰ってから行いましょう。」 城へ帰ろうと皆が歩き出したその時! 「ぐわー!」 兵士の一人が倒れた。 そしてその後ろにはモンスターワームアッグガイが居た。 よく見ると、スライムアッザムやゴブリンザク達、 数体のモンスターに周りを囲まれてしまっていた。 「く、しまった。」 襲ってくるモンスター達! 「この、うわー!」 触手に捕まれて投げ飛ばされるもの、噛みつかれているもの。 兵士たちが次々とやられていく! ガンキャノンは肩にいる者が邪魔で思うように戦えず、 ガンタンクは姫を守るのが精いっぱいだった。 「こんな奴ら、いつもなら・・・」 大苦戦のガンキャノン。 「く、この!うわ!」 そのうちに、ガンキャノンはワームアッグガイの触手に弾き飛ばされてしまった。 その拍子に木に激突し、気を失ってしまう。 「ガンキャノン!」 フラウ姫が叫ぶがガンキャノンは動かない。 ワームアッグガイが触手を振り下ろす! 「きゃっ!」 フラウ姫は顔を背けた。 キーン! 「キーン?」 その音に不思議に思って顔を向けると、ガンキャノンを守っている者が居た。 そして、その者は一瞬の間に、ワームアッグガイを切り伏せていた。 何が起こったか分からないフラウ姫。 そして、次々とモンスターを切り倒していく! 「す、すごい!」 フラウ姫は感嘆の声を上げる。 モンスター達はかなわないと悟ったのか、逃げ出していった。 「ありがとう、助かりました。」 「・・・・・」 フラウ姫がお礼を言ったが、男は答えなかった。 周りを見渡しながら、何か戸惑っている様子だ。 「あの?」 「・・・ここは何処だ?」 「え?」 「何も思い出せないんだ・・・。」 「?」 フラウ姫はどうしていいのか分からず、ガンタンクを見た。 「どうやらその男、記憶喪失のようですな。」 「記憶喪失?」 「そうです。何か強いショックを受けた時に起こる、 何も思い出せなくなるという症状のことですじゃ。」 「そうなのですか・・・。」 「お主、名前ぐらいは分からぬかの?」 「名前・・・。名前は、す、・・・が?」 頭を抱える男。 「・・・が、がんだむ・・・だ。・・・そう、ガンダム。」 (ガンダムじゃと?) ガンタンクは驚いたが、何も言わなかった。 「他には何か思い出せないの?」 フラウ姫が尋ねるが、それ以上は何も思い出せない様子だった。 「そうですか、ではガンダムとやら、助かったお礼がしたいので、 城に来てもらえますか?」 「・・・」 「記憶を取り戻すための手助けもしたいし。」 「分かった。」 コクッと、ガンダムと名乗る男はうなづいた。 「では兵士達を担いで城に帰るとしますかの。こら、ガンキャノン! そこでいつまで寝とるつもりなんじゃ!」 「う、うーん・・・。」 ガンキャノンがガンタンクの声で目を覚ました。 慌てて起きあがって構える。 「あれ、モンスター共は?」 「こちらの方が追い払ってくれました。」 間抜けなガンキャノンの姿にフラウ姫がクスクスッと笑いながら答える。 「お前、さっき倒れてた奴だよな、何者だ?」 赤くなりながら、肩に斧を抱え直して聞くガンキャノン。 「ガンキャノン、こちらの方は記憶喪失なのです。」 「記憶喪失〜?」 「名前以外、何も思い出せないんだ。」 ガンダムは答えたが、ガンキャノンは不信そうな瞳でガンダムを見る。 「そうか?何かうさん臭い野郎だ・・・。」 「ガンキャノン!そのような失礼な事を!」 「すみません。しかし・・・。」 (ジオンのスパイじゃねえのか?) ガンキャノンはそう思ったが、姫にこれ以上たてつくわけにもいかない。 「ふう、分かりました。で、これからどうしますか?」 「この方と一緒に怪我した兵士たちを城に連れ帰ります。」 「え?こいつも連れて行くんですか?」 「そうです。お礼もしなければなりませんから。」 フラウ姫は少し不機嫌に答える。 「分かりました。おい、お前も手伝えよ!」 ガンキャノンはそう言った後、倒れている兵士を両肩に担ぐ。 それを見たガンダムも兵士を一人背負った。 その頃、ラクロアの最北端にある、もう一つの流星が落ちた古城では、 騎士サザビーをはじめとするジオン族の兵士達が集まっていた。 何が落ちてきたのか、探索していたのである。 「・・・ここには古龍がいたはずだが、一体どこへ?」 不思議だと考え込んでいたが、そこへ戦士ザクが駆けつけてきた。 「騎士サザビー様、見つけました。」 「そうか、ごくろう。」 戦士ザクに案内されて向かったその場所は、城の一部が流星の落下の衝撃で 破壊されて窪みが出来ており、そこから赤い光が放たれていた。 近づくにつれて、窪みの中の光が消えていく。 窪みの中を覗くと、そこには青い法衣を身に纏った、何者かが立っていた。 近づいてきた騎士サザビーに青い法衣の者は口を開いた。 「何だ、お前は?」 「私はジオン族ラクロア王国先遣攻撃隊隊長、騎士サザビーである。お前こそ何者だ?」 騎士サザビーの問いに何か考えているようだったが、それは無視しているようにも見え、 戦士ザクが声を荒げて言う。 「おい、答えないか!」 騎士サザビーが、戦士ザクを制止しようと腕を上げたとき、その者は答えた。 「そうか、ここはラクロア王国というのか、ではこの国、私がもらう。」 「何?」 「私がこの国の王になると言っているのだ。そしてお前たちはこれからは 私の大切な手足となってもらおう。そうだな、お前は私の親衛隊長に任命しよう。」 「何故この私が貴様などの親衛隊長にならなければならん? しかもこの国の王になろうなどと。この国は我々ジオン族がもらうのだ!」 「それが私のものになるのだよ。お前もこれからは私に忠誠を誓う事になるのだ。」 「話にならん!切り捨て・・・」 「むん!」 青い法衣の者は騎士サザビーの言葉を遮る様に叫び、その瞬間赤い光が放たれ、 古城付近中を包み込んでいった。 「な、何だ、これ、は・・・。」 騎士サザビーを含め、その光を浴びた城中のジオン族の兵士達は倒れた。 そして、その光の中で青い法衣の者は雄たけびを上げる。 それは何かの狂暴な猛獣が咆哮しているようだった。 古城近くの村では、城を包む異様な光と先ほど聞こえてきた不気味な吠え声に 村中が大騒ぎになっていた。 「何だ、さっきの声は?それにあの城の光は?」 「あ、あれを見て!」 空を見上げると、そこには巨大な顔が浮かび上がっていた。 「我はジオン魔王サタンガンダムである。たった今からこのラクロア王国は 我が支配することになった。」 「何だと!そんな話、誰が信じるかー!」 「そうだ、そうだ!」 村人たちが口々に文句を言う。 「そうか、我に従う気はないか。では、死ぬがよい。」 そのとたんに何処からかモンスターが現れ、村人に次々と襲いかかる! 村人の絶叫が辺りに鳴り響き、村は炎に包まれていった。 魔王出現の瞬間であった。

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