第一部 ジークジオン編
第一章 ラクロアの勇者
第二話 勇者、旅立つ

「そうか、その者が姫を救ってくれたのか。」 ラクロア城に帰還後、ガンダム達は王に呼ばれ、 宴会も終わって、給士達が後片付けで忙しい、謁見の間に居た。 「ありがとう、そなたの名は?」 「ガンダムというそうです。」 (ありえるわけがない!) そう思いつつ、ガンキャノンが答える。 「ガンダム・・・。ガンダムというと、あの!」 「そうです、陛下、あの伝説の勇者の名です。」 ガンタンクが答える。 「そうか、そうか。ついに伝説の勇者があらわれたか!」 嬉しそうな国王。 「記憶を失っているともうされたな?」 「はい。」 「記憶を取り戻すまでは我が城に逗留なされるがよい。」 何を喜んでいるかわからなかったが、そのまま侍女に案内され、 ガンダムは客人の間に通された。 そこへフラウ姫とガンタンクがあらわれた。 「先ほどは私共を救っていただき、どうもありがとうございました。」 改めてお礼を言うフラウ姫。 「いや、その事はいいのです。こちらも気絶していた私を助けて いただいたのですから。それより、さきほど私の名で陛下が 大層喜んでおられるように思いましたが?」 ああ、といった顔でフラウ姫が答える。 「あなたが伝説の勇者と同じ名前だからです。 ”伝説の勇者あらわれ、その元に星が集う時、大いなる影は滅びる。 その者、名をガンダムという。”ユニオン族に伝わる古い言い伝えですわ。」 「そうか、それで皆、俺を見る目が違ったのか。」 「そうですわ、今ラクロアはジオン族の驚異にさらされています。 そこへ伝説の勇者と同じ名前を持つ者があらわれたのですもの。」 そこで少しかしこまった顔になったフラウ姫は、ガンタンクを促した。 「そこでお主にお願いが有るのじゃ。それは対ジオン族の先頭に 立っていただきたい、ということじゃ。」 「え?しかし私は同じ名前というだけで」 後の言葉を遮るようにガンタンクが答える。 「分かっておる。しかし、ガンダムがジオン族との戦闘に加わった、 という事になれば、兵士達の士気に違いが出る。」 ガンダムに真剣な瞳を向けるガンタンクとフラウ姫。 「無茶なお願いとは思うが、是非考えていただきたいのじゃ。」 「しかし」 またも言葉を遮るように今度はフラウ姫が答える。 「今すぐ、答えをいただきたいとは思いません。今晩ゆっくり考えてもらって、 明日の朝、答えをお聞きします。それでは。」 いきなりの展開に驚いてしまったガンダムは、二人が出て行くのを ただ見つめているだけだった。 翌朝。 目を覚ましたガンダムは侍女が運んできた朝食をとりながら、 夕べの事を思い出していた。 森で気が付いたときのこと、いきなりの戦闘、フラウ姫達の事。 そして、ジオン族打倒のために力を貸して欲しいと頼まれた事。 「おれは、一体何者なんだ?あの戦いでの自分でも驚く剣技。 とっさに体が動いたが・・・。駄目だ、何も思い出せない。」 思い悩んでいるところへ、フラウ姫が入ってきた。 「大変な事が起こりました。謁見の間へお越しください。 すでに皆も集まっております。」 フラウ姫に案内されて入った謁見の間は、すでに熱い論議が交わされていた。 「今すぐ援軍を!」 「しかし、敵はどのくらいの部隊か分からないのですぞ?もう少し様子を見てから・・・。」 「そんな悠長な事を言ってられるか!すでに村が一つ全滅しているんだぞ!」 一番ヒートアップしている様子のガンキャノンも居る。 その時、僧侶ガンタンクがフラウ姫に気付いた。 「・・・おー、皆のもの、姫様が連れてきてくださったぞ。」 フラウ姫がそのまま王の前へガンダムを連れて行く。 「ガンダムよ、良くぞ参った。大変な事が起こったのだ。」 「一体何があったのです?」 「それはな」 ガンタンクを促す。 「ラクロアの森の北の台地に古い城がある。その付近にある村が ジオン族のモンスターに襲われて全滅してしまったのじゃ。」 「!それは確かに大変ですね。」 「うむ、問題はそれだけではないんじゃ。」 「他に何が?」 「それを指揮したものは、ジオン魔王サタンガンダムと名乗ったそうじゃ。」 「・・・私と同じ名前を?」 「そうじゃ。これで伝説の勇者、ガンダムが2人あらわれた事になる。」 「・・・」 「ジオン側のガンダムは偽者と信じたい。こうなった以上、昨日の頼み、聞いてはくれまいか?」 「いや、しかし・・・。」 「お願いもうす!」 ガンタンクは頭を下げた。 ガンダムは顔を上に向け、瞳を閉じた。 「・・・これも運命か。」 そして、決意に満ちた顔に変わり、王に顔を向けた。 「分かりました。気絶していたどこの馬の骨とも分からぬ私を助けてもらった恩も有ります。 罪もない村人たちのためにも、対ジオン族の戦闘、参加させていただきます。」 王の顔が喜びでいっぱいになった。 「おー、皆の者、聞いたか!伝説の勇者が戦闘に加わってくれる事になった!」 周りから歓声が上がる。 「それはすごい!」 「伝説の勇者が我が軍に加わるとは何と心強い事か!」 そして王が再びガンダムに顔を向け、 「では、勇者にふさわしく騎士の称号を授ける。」 「え!しかしそれでは・・・。」 「よい、それだけ余は期待しておるのじゃ。」 「分かりました。では騎士の称号、お借りします。」 ガンダムは深々と頭を下げた。 周りからさらに大きな歓声が上がる。 「騎士ガンダム!」 「魔王を倒してくれ!」 そんな中で二人、面白く思っていないものがいた。 一人は戦士ガンキャノン。 「・・・奴はスパイかもしれないってのに呑気なもんだぜ、みんな。」 そしてもう一人は騎士アムロであった。 「・・・気に入らないな。」 「ん?どうしたアムロ?」 「いや、なんでもない。」 「そうか?」 一人うつむいてしまった騎士アムロを見て、 騎士セイラと戦士スレッガーは顔を合わせた。 「どうしたのかしら?」 「さあな、分からねえ。」 王の話は続いている。 「一つ、良い話がまとまったところで、先ほどの会議を続けよう。 騎士ガンダムにも会議に加わってもらうがよいな?」 「はい。」 では。と、僧侶ガンタンクが先を切ってしゃべりはじめる。 「先ほどの援軍の件ですが、情報が余りにも少ない今、いきなり大勢での援軍は危険です。 まずは少数で、様子を見てきてもらう必要があると思われます。」 「では、斥候を出すか?」 「今回は今までと様子が違います。精鋭を選りすぐって派遣なされたほうがよろしいかと。」 「そうか、では誰が良いかの?」 「その任務、私が行きます!」 その声の主は騎士アムロだった。 「危険な任務なのじゃぞ?何が起こるか分からない・・・。」 「だからこそです!私に行かせて下さい! 」 「分かった。しかし、お主一人では危険すぎる。」 「アムロが行くなら、当然俺達も行くぜ。」 「戦士スレッガーと騎士セイラか、もう少し募りたいな。」 「では私も。」 「おー、騎士ガンダム!早速任務に赴いてくれるか。・・・うむ、 僧侶ガンタンク、戦士ガンキャノン、この二人も加えて6人で行ってもらう事とする。」 「え、私もですか?」 戦士ガンキャノンが驚いて答えた。 「そうだ。これほど”精鋭”と呼べる人選はないと思うが?」 「しかし城の守りが手薄に・・・。」 「お主たちほどに腕があるものばかりではないが、兵士達はみな命懸けで守ってくれておるよ。 残った者たちがそれほど信じられぬか?」 「・・・分かりました。」 (信じられないのは、城の兵士ではなく、このガンダムなんだがな・・・。) 不服そうな顔をしているガンキャノンであったが、仕方なく承知した。 このとき、ガンダムは何かの視線を感じ、そちらへ目をやると騎士アムロがいた。 目が合ったのが分かったのか、騎士アムロはすぐに顔を背けてしまった。 (・・・なんだ?) 「では、これで会議を決する。今回は急を要する。選ばれたメンバーは、一刻後までに 準備を整え、急ぎ出発せよ!」 「おー!」 「では、解散!」 皆が、謁見の間を出て行く。 騎士ガンダムも準備を整えようとフラウ姫と部屋を出て行った。 「騎士ガンダムは準備を整えようにも、何も持っていないでしょう?」 そう言って、いくらかの路銀と、任務に必要なものを用意してくれた。 半刻後。 コンコン。 ノックの音が聞こえ、騎士アムロが入ってきた。 「ガンダム、話がある。ちょっとそこまで来てくれないか?」 不審に思いながらも、ガンダムはアムロについていった。 連れてこられた場所は、城門の上の踊り場である。 城の外の、城門からまっすぐにつながる道の先には、 不気味なあの古城が見えていた。 そこには、戦士スレッガーと騎士セイラが待っていた。 「アムロ、やっぱりやめようぜ、こういうの。」 戦士スレッガーがアムロに会うなり、そう言った。 「そうはいかない。」 駄目だ、という感じでセイラと顔を見合わす。 そして、ガンダムの方へ向いた。 「まずは騎士の叙勲、おめでとう。」 「ありがとう。しかし、これはまだ借り物だよ。」 その言葉を聞いて、アムロの顔が少し険しくなった。 (何か様子がおかしいな?) そう思ったガンダムは次の言葉を待つ。 「話というのは、・・・僕たち三人は君と一緒に行動は出来ない。」 「え?」 「君が何者か分からない以上、共に行動は出来ないんだ。」 「・・・」 「それに、いきなり騎士だなんて」 「!」 ガンダムのセリフを待たず、そのまま言い続ける。 「僕がどれだけの苦労を重ねて、騎士になれたと思っているんだ? それが、君がガンダムという名前だけで騎士になるなんて、許せないよ。 君が騎士に値しないと証明させるためにも、別行動をとらせてもらうよ。」 「・・・」 ガンダムは何も言えず、スレッガーが語りかけた。 「すまねえな、ガンダム。俺とセイラもそこまで思ってるわけでは無いが、確かにお前さんが 何者か分からないってのは事実だ。サタンガンダムと同じ名前ってのも気にならねえ と言えば嘘になるしな。はっきりするまでは、な?」 そのまま立ち去っていく二人。 「私達は迷いの森を抜けたところで別行動に入ります。ごめんなさいね。」 最後に申し訳なさそうな顔をして、騎士セイラも二人についていった。 ガンダムはそのあと、しばらく立ちつくしていたが、 「仕方ない、な。」 (疑いは実際の行動で晴らす。) そう心に決めて、後ろを振り向くと、戦士ガンキャノンが立っていた。 「ガンキャノン?」 「声が聞こえちまったんでな。」 「ああ、実は」 「何もしゃべらなくていい。俺もそう思ってんだからな。」 「え?じゃあ、君も・・・。」 「いや、俺は一緒に行くぜ。見張りが必要だからな。」 「・・・」 「そろそろ時間だぜ、早く行ったほうがいいんじゃないか?」 「・・・そうだな。」 (これは違う意味で前途多難な任務になりそうだ。) 荷物を取りに戻りながら、そう思うガンダム。 そのあと、ガンキャノンと一緒に城門の前へ向かった。 すでに他の4人は集まっており、姫が出陣のねぎらいに来ていた。 「ご武運を。」 「は!」 6人は敬礼をとり、きびすを返す。 そして、城門が開いていく。 「では、出発じゃ!」 僧侶ガンキャノンが先頭を切って歩いていく。 その後ろに騎士アムロ、戦士スレッガー、騎士セイラが固まって続き、 その後ろに騎士ガンダム、そして最後尾に戦士ガンキャノンが続く。 6人が出た後、すぐに城門が閉まっていく。 まだ敵は辺境にいるとはいえ、警戒しておく事にこした事はない。 一行は閉じていく城門と遠ざかっていく城を見つめてながら、これからのことに思いをよせる。 「さっき話したとおり、迷いの森を抜けたところで別行動だ、いいな?」 騎士アムロが念を押す様に言ってくる。 「何の話じゃ?」 不思議そうに思っているガンタンクにガンキャノンが耳打ちする。 「・・・なんと!」 呆れ返って、首を左右に振るガンタンク。 「これから困難となろう任務に赴くというのに、早くも仲違いとはの・・・。」 (まったくだ。) そうガンダムは思っても、彼らの気持ちも分かる。 (まだこの旅は始まったばかりだ。きっとそのうち分かってくれるさ。) そう思って、空を見つめる。 一行の通る街道の先には、あの古城が暗雲に包まれて、 より一層、不気味さを際立たせていた・・・。

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