第一部 ジークジオン編
第一章 ラクロアの勇者
第三話 迷いの森
ラクロア城より出て半刻、騎士ガンダム達一行は、北方へ抜けるために、
ラクロアの森の入り口の前へ立っていた。
この北方面の森は、最近では”迷いの森”とも呼ばれ、ジオンのモンスターが徘徊し、
魔力がかかっているようで、旅人が迷って出てこれなくなる事が多い、
危険な樹海であった。
しかしここを抜けなければ、被害のあった村へは行けない。
ここで立ち止まっていても埒があかないので、一行は森の中へ入る事にした。
そこで、またも騎士アムロが念を押すように言う。
「ここを抜けたところで別行動に入ろう、いいなガンダム?」
「分かってる。君の気の済むよう好きにしてくれ。」
「よし、行こうみんな」
騎士アムロを先頭に森に入ってみると、今までに普通に通れたときと比べると、
薄暗く不気味な森に変わってしまっている。
騎士ガンダムがその頃の森を知るはずも無いが、不気味さは良く分かった。
「しかし、よくここを抜けてこられたよなー。あの兵士・・・。」
ガンキャノンがつぶやく。
「そうじゃの。しかし、誰かが助けてくれたような事も言っておったでの。」
「こんなところで誰が助けてくれたってんだよ?」
ガンタンクの話にガンキャノンが不思議そうに聞く。
「そこがわからない点なのじゃ。一度迷って、モンスターに襲われて気絶して
しまったらしいのじゃが、気が付くと森の出口で倒れていたらしいのじゃ。」
「単に無我夢中で逃げてるうちに、偶然森から出れた所で気を失っただけじゃねえのか?」
「ワシもそうではないかと思ったんじゃが、違うと言いよる。」
「・・・ふーん、こんな所で物好きな奴もいるもんだな。」
「その者のおかげで伝令が城まで届いたんじゃから、
もしその者に出会えたら礼を言わねばならんの。」
「そうですね。その人に会えたら、この森の謎を教えてくれるかもしれない。」
二人の話を聞いていたガンダムが話し掛ける。
「そうじゃ・・あぐ。」
しゃべろうとしたガンタンクをガンキャノンが口を塞ぎながら後ろへ押した。
「てめえは足を引っ張らないように付いてくるだけでいいんだよ!」
「こりゃ、ガンキャノン!」
「ふん!」
(・・・当分会話も出来そうに無いな。)
ガンダムは心の中でため息をついた。
森に入ってから一刻。本来ならそろそろ森を抜ける時刻なのだが、
出口が見えてくるような気配はない。
「ガンタンク、おかしいぜ、そろそろ出口が見えてもいいんじゃねえのか?」
「そうじゃの。やはりこの森には魔力がかけられているようじゃ」
その時、怪しい気配が周りに生まれた。
[何者だ!]
騎士ガンダムが叫ぶ。
「どうしたのじゃ?」
「何かいます。気を付けて下さい。」
前の木々のかげから何者かが道を塞ぐように現れた。
「ぐはははは。俺達に気付きやがるとは。まあいい。
そこに身ぐるみ置いてってもらおうか?」
「そうだぜ、おとなしく置いてけ!」
(どうやら盗賊のようだな。)
あらわれたのは、黒いレザーアーマーを身に纏った人間種の男三人に
ゴブリンザクが10数匹のようだ。この辺りに縄張りを持つ盗賊団らしい。
「僕達はラクロア国王から選ばれた勇士だ!お前たち盗賊の脅しに乗るような
輩はここには居ない!」
騎士アムロが盗賊の脅しに反して吠える。
「ほう、威勢のいい兄ちゃんだな。俺たち”黒い三連星”を知らねえのか?」
「聞いたことも無い。こんな森の中に潜んでいる臆病者の名前なんか知るもんか。」
「・・・どうやら身ぐるみだけじゃなく、命もいらねえらしいな?」
「命を惜しんでは騎士は勤まらない!」
「そうか、なら死にな!」
盗賊の頭らしき人物が腕を上げ、さっと前に出す。
そのとたんにゴブリンザクたちが一斉に襲い掛かってきた。
騎士アムロを守ろうと後ろにいた戦士スレッガー、騎士セイラも左右にまわる。
戦士ガンキャノン、騎士ガンダムもそれに続いた。
それぞれが数匹ずつを相手に戦いが始まる。
騎士アムロは一匹のゴブリンザクを切り伏せ、さらに一匹を蹴飛ばし、
一直線に後ろでふんぞり返っている人間種三人に向かって行った。
「あの威勢のいい兄ちゃんが向かってきますぜ。」
「ふん、我らの敵ではないわ。行くぞ、マッシュ、オルテガ!」
「おう!」
そして、騎士アムロを正面にして縦に並ぶ。
「盗賊共、覚悟!」
「俺たちのこの技を食らってお寝んねしな!」
マッシュが斧を振り上げ、斬りかかってきた。
騎士アムロが斧を受け止めたと思った瞬間、
そこから盗賊の頭が左からあらわれ、蹴りを入れてくる。
そのまま後ろへ吹き飛ばされ、そこにいたオルテガがそのまま抱き止め、
羽交い締めにする。
「馬鹿な、一体いつの間に後ろへ!?」
「観念しな!これが俺たちの”ジェットストリームアタック”よ!」
二人掛かりで斧を構え突っ込んでくる!
「危ないアムロ!」
寸前のあぶない所で二人の斧を盾で受け止め、
救ったのは騎士ガンダムだった。
ゴブリンザクを仕留めた騎士ガンダムは、すぐに騎士アムロのフォローに向かい、
危ないところを救ったのである。
騎士アムロはその隙を突いて、オルテガから抜け出した。
「ちっ!」
抜け出した瞬間の騎士アムロをオルテガは後ろから蹴り、
その勢いで、騎士ガンダムの後ろからぶつかってしまう。
「うわ!」
二人の声が重なり、そのまま二人は倒れ込んだ。
そして、黒い三連星は再び騎士ガンダムたちを正面に縦に並ぶ。
「一人でも二人でもかまいやしねえよ、くらいな!」
マッシュが斧を振り上げて攻撃してくる。二人はすんでのところで転がって左右へ避けた!
騎士ガンダムはすぐに起き上がって構えたが、盗賊の頭が襲ってくる!
斧を盾で受け止める。が、その時!
「うわ!」
騎士アムロが背後からオルテガに斬られた!
だが、さすがに直撃だけは避けたようで、致命傷にはなっていない。
「馬鹿な、また後ろから?」
「アムロ!」
他のゴブリンザクを片づけた、戦士スレッガーや戦士ガンキャノンたちがやってくる。
それを見た、黒い三連星たちは後ろへ下がる。
「ちっ、役に立たねえ奴らめ!」
「ガイア、どうする?」
「かまうこたあねえ、俺たちの”ジェットストリームアタック”は無敵よ!」
「そうだな。」
そしてまた、縦に並ぶガイアたち3人。
「僕がやる!」
そう叫んで、騎士アムロがガイアたちの前へと飛び出す。
「アムロ、危険よ!」
騎士セイラが騎士アムロを呼び止めようとするが、
アムロは耳を貸さない。
(僕が討ち取ってみせる!)
ガイアに斬りかかる、アムロ。
だが、ガイアは冷静にそれを受け止めた。
「まだ懲りねえのか、お坊ちゃん?」
その時!
「上じゃ、アムロ!」
僧侶ガンタンクが叫んだ。
ガンタンクが戦闘に参加していなかったのは、戦局を見極めるために、
少し離れたところから全体を見るためであった。
「上!?」
なんと、オルテガが真上から飛び越えていく!
そして、騎士ガンダムたちの前へ立ち塞がる。
「加勢へは行かせねえぜ。」
「くそ、アムロ!」
オルテガが立ち塞がったと同時にマッシュが、ガイアの肩を使って、
騎士アムロの背後へ跳び、そのまま頭上から襲い掛かる!
「カラクリがばれちまったのは仕方ねえが、お前たちに破れはしねえよ!」
ガイアの斧を受け止めている騎士アムロに、後ろからの攻撃をかわせる術はない。
マッシュの斧が振り下ろされる!
もう誰もが騎士アムロの最後を覚悟したとき、異変は起きた。
「ぐあ!」
突然、マッシュが斧を落とし、そのまま地面にしゃがみこむ。
見ると、腕に矢が刺さっている!
「マッシュ!?」
オルテガが思わず後ろを向いてしまった隙を、騎士ガンダムは逃さなかった。
閃光が走ったような鋭い一撃を、オルテガはまともに受ける!
「ぐわー!」
オルテガが倒れた。
「オルテガ!」
「くそ、ここは一旦退くぞ!マッシュ!」
「おう!」
残った二人は一目散に逃げていった。
「くそ、待て!」
「追うんじゃない、アムロ。」
「そうじゃ。深追いは禁物じゃぞ。」
追いかけようとしたアムロをスレッガーとガンタンクが止めた。
「しかし、一体誰が?」
いぶかしげにガンダムは矢の飛んできた方を見たが、
すでに誰も居なかった。
「どうやら誰かに助けられたと言っていた兵士の話、
嘘じゃなさそうだな。」
「そのようじゃの」
「とりあえず先に進もう。ここにいても仕方ない。」
「おまえが勝手に仕切るんじゃねえよ!」
ガンタンクとガンダムのやりとりをガンキャノンが
横やりを入れる。
「こりゃ、ガンキャノン!ここでもめている場合じゃなかろう?」
「ふん!」
「しょうがない奴じゃの。」
「もう少し先に進んで、適当な場所で野宿じゃ。日もずいぶん落ちてきておるし、
今日中に森を抜け出るのは無理なようじゃしの。アムロ達もそれで良いか?」
「ああ。」
スレッガーがぶっきらぼうに答える。
「よし、出発じゃ。」
やれやれと言う表情でガンタンクはそう言った。
完全に日が落ちるまで進む頃、見晴らしの良い広場に出た。
一行はそこで野宿することに決め、火をおこした。
そして、ひとしきり明日の目標を立て、食事をとった後、
見張りを交代制にして、早めに就寝となった。
最初に見張りにたったのはセイラである。
セイラにはこの旅に目的があった。行方不明の兄を捜し出すということ。
「兄さん・・・。」
アムロ達と行動を共にすれば、色々とうわさを聞くことも出来るだろう。
「伝説の三神器、兄さんより先に見つけなければ。」
眠りにつけなかったガンダムはそのつぶやきを聞き逃さなかった。
「伝説の三神器・・・、どこかで聞いたことがあるような・・・。」
びっくりしたセイラはガンダムの方へ目をむける。
「起きてたの?」
「すまない、盗み聞きをするつもりはなかった。兄さんがどうしたの?」
起きあがりながらガンダムは答えた。
「・・・あなたには関係ないわ。」
「伝説の三神器に関しては関係あるかもしれない。」
「え?」
「何処かで聞いたことがあるような。」
「何処で?何処で聞いたの?」
セイラは必死の形相だ。ガンダムのそばによって問いつめる。
しかし、ガンダムは首を振る。
「すまない、思い出せないんだ。」
「そう。そうね。あなたは記憶喪失だったわね。」
ひどくがっかりした表情に変わる。
「何があったの?」
「・・・兄がいなくなった。」
「君の兄さん?」
「そう、そして伝説の三神器を探していることをうわさで聞いたの。」
「何故?」
「分からないわ。けれどそれを探し出せれば兄さんに会える。そう思ったの。」
「そうか。君はそれでこの旅に同行したのか。」
「そうよ。どこかでまた兄さんのうわさが聞けるかもしれなかったし、
伝説の三神器のことも解るかもしれなかったから。」
「良かったら協力するよ。僕の記憶の中に、何かヒントがあるかもしれない。
何か思い出せたら教えるよ。」
「本当に?ありがとう。」
セイラはガンダムの手を握って、頭を下げた。
よほど兄を慕っているんだな。とガンダムは思った。
顔を上げたセイラは微笑んでいた。
「あなた、いい人ね。」
「よしてくれよ。」
二人は笑った。
次の日。
夜が明けると同時に一行は出発した。
「今日こそこのけったくそ悪い森、抜けちまおうぜ。」
「同感だ。」
アムロとスレッガーが先頭に立って、進んでいる。
普通に進んでも出られない。なら、目印を付けながら、
獣道を抜けようと言う話が昨日行われた。
ここなら抜けられそう、そう思える道を探しているのだ。
「ここならどうだ?」
「そうだな、おい、どう思う、ガンタンク?」
アムロとスレッガーがガンタンクに聞いている。
どうやらガンタンクはみんなに一目置かれる存在らしい。
「そうじゃな、獣道に違いないが、人が入った跡もあるようじゃしの。
ほれ、そこに鎌の跡があるじゃろ?」
ガンタンクが杖で指した先にある木には、枝が確かに何か刃物で
切り取った跡のように綺麗な断面が見えていた。
ガンダムは感心してそれを見ている。
「ここから入っていこう。」
アムロが言う。
全員が意を決して頷く。
アムロが入り口付近にある木に剣で×と印を刻んで、
一行は先頭からアムロ、スレッガー、セイラ、ガンタンク、
ガンダム、ガンキャノンと並んで入っていく。
何度も踏み荒らされたいるようで、獣道には草は生えていない。
一人分程の広さの道幅で、思ってたより苦もなく進めるようだ。
印を30もつけた頃、一行は不思議に思いだした。
「おかしいな、この道も何処まで続くんだ?」
「確かにおかしい。獣道なんだ。もう途切れてもおかしくない。」
アムロとスレッガーが不信がっている。
そんな状況でいきなりセイラが答えた。
「あそこに何か見えるけど?」
「え?」
「ほら、あそこ。」
「本当だ。岩山、か?」
「行ってみよう!」
アムロとスレッガーがいきなり駆け出した。
後に続くガンダム達。
近くまで来てみると、確かに岩山だ。
「ラクロアの森の中にこんな場所あったかな?」
「わからん。だけど、現実に目の前にあるぜ。」
「あたりを探索してみるのじゃ。アムロ達は北側、わしらは南側から
山をまわってみることにする。再び合流したところでどうするか考えることにせんか?」
追いついたガンタンクが二人に提案する。
「うん、分かった。」
一行は半々に別れて山の周りを調べてまわる。
半刻後、一行は山の反対側で再び合流した。
「こっちには洞窟が一つあった、それだけだぜ。」
スレッガーが答えた。
「こっちはペガサスを見ちまった。」
とガンキャノン。
「わしらは見とらんのじゃけどな。」
「本当にいたんだって!」
ガンタンクの疑わしげな目にガンキャノンが抗議する。
「まあ、山の上に何かいたのは確かなようだ。」
ガンダムが補足する。
(おまえがかばってくれても嬉しくねえ!)
そう思ってガンキャノンはガンダムをにらんだが、
状況が不利なので、何も言わない。
今後どうするかその検討が行われた。まずは山に登って
ここがどのあたりか見てみようと言うことになった。
そのあとで、洞窟を探索する。
ねぐらになるようなら雨露をしのげるし、そこを本拠地として
探索隊を出すことも出来るようになる。
大体そのようなことが話し合われた。
山を登っていく、一行。
これで自分たちの大体の位置がわかる。
今日か明日にでもこの森は抜け出られるかもしれない。
そういう希望が皆の胸によぎっていた。
しかし、登っていくうちに一行の顔は青ざめていった。
「馬鹿な」
「どういうことだよ、これは?」
アムロとガンダムが思わずつぶやいた。
頂上に立った一行の眼前に広がる光景は、
辺り一面、地平線向こうまで広がる巨大な樹海だけであった。
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