シセツの現場から    (その3)

 

◎今回のテーマ

  今回のテーマは、最近の流行(2001年1月現在)となっています、『行動障害』 について考えてみたいと思います。しかし、こんなペースで続けていたら、すぐにネタ切れになってしまうことは明らかですが、まぁやってみましょう。

 
◎行動障害ってなに

 「行動障害とは...」 なんていう定義は、頭のいい先生方が定義してらっしゃるので、そういった文献をあたってください。現場の感覚では、 「暴れるは、物は壊すは、とにかく大変。何とかして!」 というところですかね。

 「大変な人だぁ。」 と前評判のある方には、福祉事務所から送られてくる書類の中に、行動障害の判定基準表みたいなもの(正確な名称を忘れたので、みたいなという表現にしました)がついています。

 内容は、物へのこだわり・不眠・他者への暴力・排泄の問題などなど、いわゆる問題行動と呼ばれるものについて、ほぼ毎日で大変(5点)、週に1〜2回(3点)、たまにある(1点)とポイントを加算し、そこで、15点?20点?(これもまた正確な点数を忘れた)になれば、強度行動障害として認定されるというわけです。

 変ですねぇ。現場のスタッフが主観で「大変だぁ。」といってしまえばそのレッテルが貼られてしまうわけですから。とはいえ、まずはこのような問題に国が着手し始めたということを認める段階なのかもしれませんが。

 
◎行動障害の一言で片付けるなぁ

 5年前、東やまたレジデンスの設立準備中、40名の利用者のうち約8割のかたが 「強度行動障害」のレッテルを貼られていました。”その1”で少し触れた aさんも 「とにかく暴れる人」 でしたし、bさんは「他人を噛む人」、 cさんは 「ガラスを割る人・壁に穴をあける人」...。
 そのころは、今以上に力不足だったので日々生じる問題に終われる毎日でした。またスタッフも、一部の実力のあるものを除いて、ノウハウがあったわけではありません。

 
ただひとつ大切にしたのは、問題行動をその人のせいにしない、ということだけです。

 TEACCHでは「氷山モデル」という表現で、行動分析学では、「三項随伴性」という枠組みで問題行動のメカニズムについて考えます。その他の学派・流派の方々がどのような考えに基づいてらっしゃるかは、勉強不足ですので、伝えられません。
 (余談ですが、それぞれの流派・学派が自分達の正当性・妥当性を主張することの
  メリット・デメリット)については、いずれ書きたいと思っています。話を戻します。)

 僕は行動分析学を多少かじってきたので、その枠組みで考えています(もちろん全ての問題が解決するわけではありませんし、万能だというつもりもありません)。

 問題行動が起こった直前の状況→問題行動→直後の状況を中心に、それ以前の関連すると思われるエピソードを丹念にひろっていきながら、問題解決の糸口を探るわけです。そこには、僕達の対応のまずさが基本にあります。

 「大変な人なんで、うちでは...」 「行動障害はねぇ...」 そんな一言で、片付けるな〜!

 
◎それも個性のひとつ?

 怒った勢いで、もうひとつ。別のシセツで働いているd女史が、僕と話した内容をシセツ長に話されたそうです。そこでシセツ長は、 「○○くんが暴れるのは、彼の個性のひとつなんだから、その個性を消してしまうような対応は、どうかしら?」 とおっしゃったとのこと。
 
「長瀬さん、個性って言われるとどうして良いかわからなくて。」 と d女史。
  「確かに、個性は大事ですよ。
僕だって、個性を無くすようなことはしたくありません。
    薬を必要以上に
飲まされて覇気がない人よりは、活動的なほうが良いでしょう。で
    もね、彼は暴れたくて暴れているんでしょうかねぇ。その手段しか知らなかったとし
    たら。もしそうだとしたら、自分の思いを伝えられる方法を覚えてもらったうえで、暴
    れても良いけどこういうやり
方もあるよ。どっちにする。ってのはどうでしょうね。僕が
    知る限りでは、それでも俺は暴れる!って人はお目にかかったことがないけど。」
  孤軍奮闘している d女史、次年度は若手スタッフを集めて僕らと一緒の勉強会を計画中のようです。

 
◎とっておきの解決法教えます

 おまたせしました。解決法を教えます。

@徹底的に付き合うこと(その人と向き合うこと)。

 →これって、その1でも同じようなフレーズを使ってましたね。もうネタが尽きてます。成人の方で問題行動がある場合、生じる問題の大きさに目が向いてしまいます。そのために手段を講じないことから悪循環が生まれます。楽ではないのは良くわかります。始めは勤務外の仕事が増えてしまいます。

  しかし、向き合う姿勢があれば糸口は見つかります。

AQ:「何かいい本。すぐに分かるようなものないですかね。」

 →A:「ないです。しかし、お勧めはあります。昨年、エンパワーメント社からでた 
          
『    』   
   志賀利一著  1100円です。良書です!必見です!
   この本を紹介すると、僕が書くことなんてなくなってしまいます。

B利用者主体ではない行事は止めましょう。

 →あなたが初めて海外旅行へ行きました。降り立った空港で何かアナウンスが「&@#!:+」。乗るはずのバスがありません。するといきなりタクシーに乗せられました。と、このような状況を日常場面を作ってないでしょうか。水曜日は、国語〜理科〜算数〜給食のはずなのに、国語〜運動会の練習〜給食なんてね。

Cスーパーバイザーを見つけましょう。

 →大変そうで、実はそんなに大変ではありません。講演会などへ行くでしょう。「これだ!」と思う人がいたら喰いつくのです。困っている現状を訴えます。本物は、そういう真摯な姿勢を持っている人を見捨てません。僕もそうやってネットワークを広げています。

 
○もっとありそうですが、整理できません

 →頭には浮かんでくるのですが、書きっぱなしのスタイルがこの「シセツの現場から」です。と勝手に決めています。アカデミックに整理できるタイプではないので、また整理したら加えていきます。 

 
◎現場が最先端です

 第一線で働く僕らが解決していくのです。研究者は、その実践を理論的に跡付けしてくれることが役割だと思っています。それに、「行動障害とは」に焦点を当てるスタイルはいやだなと思うようになってきました。やれること(適応行動)が増えれば、問題行動は減っていきます。行動障害と言う必要もなくなるはずです。その実践を築いていくのは僕達です。後日、その取り組みについても報告できればと思っています。 

 
◎行動障害のカテゴリーから外れるけど、大変

 知的なレベルは高いんだけれども、困っているという方が結構いらっしゃいます。例えば電車には一人で乗れる、買い物もできる、けど金銭感覚が...といった具合に。
 
ひとことで言えば、人的・物理的な社会資源を活用しながら解決していくということでしょうが、現実は厳しいです。暗中模索の状態なので、お伝えできることがありません。

 
◎おわりに

 行動障害については、色々な実践が報告され始めています。どの実践から読み取れる共通のものは、やっぱり 「毎日地道に向き合うこと」 のようです。僕はこの仕事は、創造的な仕事であると思っています。

 「暴れないで過ごしてもらえたら良いな、そのためにはこんなアイディアはどうかな。」 そんな創造の時間をどうやって多く持つかが今の課題です。

 
 

 

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