シセツの現場から  (その5)

 

                                                            

 「3人の署名が集まったら書きます。」と言っておきながら、永らくお待たせしました。
いつものように、思いついたままをツラツラと書いていきますので、論旨がチグハグな
部分はご容赦下さい。
 では始めます。

 今回は、2001年2月に参加した『冬の応用行動分析研究会』についてです。
この会は、いわゆる学会の類ではなく自称「行動分析家とそのたまご達」が集まって、
2日間に渡り(飲みながら)語り合う会です。その楽しみは「あの著名な先生が実は○○だった。」なんてところにもあり、ウラの顔を覗いたり覗かれたりでヒジョーに仲良くなれるところにあります。

 

 今回の参加者は...

 ・上越教育大学 ・富山大学 ・明星大学 ・兵庫教育大学 ・吉備国際大学

 ・淑徳大学 ・我孫子市こども発達障害センター ・東京学芸大学付属養護学校 

 ・東やまた工房(わたしともう一人)

                     ...で、総勢50名ほどでした。

まず、発表内容は...

 @ほめたよ日記にはんこを押して(富山:武蔵)

 A課題の選択を行うことが課題従事行動に与える効果

  −課題に対する好みのレベルの関連から−(上越:村中・藤原)

 B軽度発達障害幼児における集団参加支援(兵庫:石原)

 C自閉症児の社会的文脈場面における感情表出(兵庫:岡島)

 D視覚障害を併せ持つ自閉症者に対する自傷行動の軽減の試み(兵庫:竹田ら)

 E知的障害者施設の作業的活動場面を通した(新任)職員の育成について(ながせ)

 

そして討論会は...「応用行動分析学を現場でどのように応用するか」

 ・なぜ私は応用行動分析を学んでいるのか(上越:村中)

 ・応用行動分析を現場で生かすために(兵庫:井澤)

 ・一般的な心理、教育臨床相談における応用行動分析の可能性(上越:米山)

 ・応用行動分析学を福祉施設に導入する際のコツ(吉備:奥田)

                                             ...でした。

 この中で、@とAは大学の先生。B〜Dは大学院の学生さんです。
  そして討論会は全て先生です。

 わたしにとってこの会は、年に1度の大イベントで、ここでの実践報告を通して自分を客観的に評価する場にしています。行動分析の分野の第一線の人達が集まるわけですから、そこで”試合”をすることはプレッシャーと同時に、それ以上の好子(こうし:最近では正の強化子のことをこう呼んでいます。)があります。

サッカーのフランス戦じゃないですが、外界を知ることで得られるものは多いですよね。

 概要の説明が長くなりました。長くなったついでにひとつ、本の紹介を。
上記@の富山大の武蔵先生、上越教育大の藤原先生達が富山大付属養護学校の実践を 『個性を生かす支援ツール』 という本にまとめられています。明治図書の出版で2460円+税です。ボクは今回の発表のご褒美に、と一冊いただきました。発表すると思いがけない良いことがあるものです。

  では、本題に入ります。パワーポイントを使っての報告としたので、その流れに沿って説明します。なお、発表時には以下の記載内容全てに触れたわけではありません。

 


■現場の課題
 

※チ−ムで仕事をするということ

 現場では、職員のカンと根拠のないリクツで利用者への援助が横行しています。一人のスーパースターに頼った問題の解決、あるいは「あいつとはウマが合わない...」といった理由での問題の放置。いずれも、援助の方法としては間違っています。

 解決できる問題は、チ−ムの力量にかかってきます。そのチ−ムで対応できない問題であれば、今は(いまは..ですよ)諦める。または、他から助っ人を連れてきて、チ−ムの一員にすれば良いんです。今のIT社会、その気になれば海外の人だって引き込めます。チ−ムの成熟こそが最大限のパワーなのです。

 

※利用者へのOJT

 OJT(On the Job Training)、言うまでもなく仕事をその場で教えることですね。福祉の業界では最近、エセ人権論者の方々が「いまの、ありのままの姿を受け入れる」的な発想で、”仕事をする権利”を奪っている場面にであいます。お菓子やケーキを食べに外出計画を立てる前に、ナゼ仕事を教えないのでしょう?仕事で疲れたから、「甘いものが食べたい」となるのでは?

 どんなに障害が重たい方でも、きちんと教えれば仕事が出来ます。もちろん仕事内容は、人それぞれですけど。その努力を我々は怠りすぎていた(いる?)、というのが率直な思いです。

 

※(新任)職員へのOJT

 わたしのチ−ムで非常勤をしてくれている女性(超優秀)が、以前勤務していた職場に、彼女の言うことを聞いてくれない利用者の方がいたそうです。その時先輩職員(お局様と呼ばれていたらしい)が言った一言。「関係性の問題よねぇ〜。」

な、なんじゃそれ。よくある話だと思いますが。

 新任を活かすも殺すも、先輩の的確なアドバイス次第ですよね。

 

※コスト意識

 前にも書いたような気がしますが、福祉(教育はもっとかな?!)業界、現状の利用者数:職員数で援助(指導)をしようとします。「人手がないから」は常套句ですね。私達のチ−ムは、利用者15名に対して職員4名です。「なに、シセツにしては恵まれてるですと?」そんなこと言うなら、そのうち○×人の方は、バリバリの行動障害って言われていたんだよぉ〜ん。って言おうかな。(やっぱ、どっかで書いたな、その3?)

 とにかく、職員体制3名で支援するには(2名だと結構シンドイっす)を考えて”現場の組み立て”をして行かないことには、新しいことなんか何にもできません。余裕のないところからは良いアイディアは浮かばないですよね。こども4人に先生3人なんていうクラス、ありませんかぁ?

 

 

■大きな流れ

※SVによる標的行動の選定

 ごめんなさい。表現が固くって。SV(=スーパーバイザーの略)。自分のことをSVというのは気が引けるんですが、それはおいといて。ぶっちゃけた話、、「どの利用者のどんな行動を」「課題とするか」ということです。もちろん課題として選ぶ行動は、仕事場ですから「短期間で達成される(事が予想される)作業」というわけです。まずは、新任職員に達成感が得られるような簡単なことが中心となります。簡単といってもそう簡単ではありません(まぁ、奥歯にモノが挟まったような嫌みな言い方!)。

 行動分析が敬遠されるところって、「標的行動」みたいな小難しい用語のところなんですよね。

 

※(新任)職員のBLの測定

 →利用者と職員のマッチング

 これまた、ごめんなさい。職員のBL(ベースラインの略)というのは、職員の現状を知ることです。具体的には、

@ボクが選んだ利用者の方の「課題として選んだ行動」を新任職員に記録をしてもらいます。その場合、「あなたは次の会議で、Aさんの○×行動(今から記録をする行動)について、報告することになったとします。その時の資料となるように記録をしてみて下さい。」と言った指示を出すと、少しはイメージがわくようです。

 そしてその記録の記載内容から、客観的事実(○回やった、□分できた等)と主観(楽しそうだった、イライラした感じだった等)に色の違うペンでアンダーラインを引きます。また、仕事を教えている場面での指示の出し方、距離間なども横目で鋭く観察しておきます。場合によっては、やり取りの場面をビデオに録画もします。

A@の記載内容について、本人に説明します。その時、職員を決して叱ったり、批判してはなりませぬ。幸い、うちの職員はもともとソコソコのレベルに達しているので、怒る必要がないとも言えますが。そこでは、『課題分析』『行動連鎖』などのちょっと専門的な話題と以前(その2?)で書いたような学生さん向けのコツに軽〜く触れてみます。

Bそしてまた、同じ利用者の同じ作業を再度記録してもらいます。それがまた@→A→Bと続くわけです。

Cビデオに録画していた場合は、やり取りの様子を見ながら、「指示のタイミング」「距離」などについて、職員間で”やりとり”します。

 この場合、ボクもそのビデオの中に収まっていることが大事です。やらせるだけで自分にワザがなければ納得させることは出来ません。自分がやって見せて、「なるほど言っていること通りだわ。」と思ってもらえねば。こうして、新任に抜かれないようベテランもワザを磨くのです。あの、ボクも一援助職員ですからベタ付きというわけではなく、合間でチョコット介入して、ソット去っていきます。「一瞬だけ、美味しいところを持っていって」ですって。そうです、長くやるとボロがでるから。

 

※計画・実行・評価

  言うまでもなく、どんな仕事もこの繰り返しです。

 ここで大切なことは、他の職員と比べて「そのレベルが高いか低いか。」ではなく、自分自身が「1回目と2回目、3回目と比較してどんな伸びをしているか。」を分からせてあげることだと思います。現場では、泥臭〜く粘る人間が最後には良い仕事をする。と信じています。

 

※現場の状況に応じた「機能的アセスメント」

 「機能的アセスメント」の話をすると長くなってしまうので簡単にまとめます。これまでの、いわゆる”問題行動”への対処法は、起こってしまった行動にどう対処するか?が主でした。しかし最近になって、起こる前の状況やその背景にあるエピソードにも着目していこうという考え方が出てきました。”問題行動”が起きてから消火するのではなく、防火に努めよう!というわけです。たとえると余計に分からない?

 そうですね〜。例えば自傷行動(「頬を手で叩くとします」)の場合、

a)注目:「こっちをみて」と叩く→「叩かなくても、こうすれば良いんだよ」という方法を
   教える。

b)逃避:「いやだよ〜」と叩く→「分かり易い課題に変える」あるいは「ここまでやったら
   終わるよ」と、相手に分かるように(ここが大事)教える。

c)要求:「○○がほしいよ」と叩く→「こうすればもらえるんだよ」という方法を教える。

d)感覚:好き?でやっている(感覚強化などと呼ばれます)。→叩く感覚が得にくいよう
   ガードする(感覚消去法などと呼ばれます)。

 a)〜c)は分かると思いますが、d)はよく解りませんね。ボクもよく解りません。ボクの
   修士論文は、感覚消去法をテ−マにしたんですが。トホホ...。

 後は関係者に聞き取りをしたり、起きている実際の場面の分析をしたりして、自傷行動の代替となる行動を身につけてもらうわけです。どんな行動を身につけてもらうかは、まさに”状況に応じた”行動となります。その点を明らかにしたいのですが、残念ながらどこにもその方法は載っていません。自分の経験と障害特性の理解を極めるしかなさそうです。

 簡単にまとめるつもりが、長くなったうえに全然まとまっていません。詳しく知りたい方は、PBS(Positive Behavioral Support)で検索してみて下さい。

 

 

■小さなワザ@

 その通りのことです。当たり前のことですが、これがなかなか難しい。プロの力量が問われるところです。

   合図は  ゆっくり  小さく  短く  低い声で  肯定形で

■小さなワザA

※変数を明確に

 Aさんの作業効率を考える場合の変数とは、ひと(例:関わる職員によって作業効率が変わるか)、場所(例:四方を仕切った時と一方だけ仕切った場合で作業効率が変わるか)、時間(午前と午後、曜日などで作業効率が変わるか)、環境(温度、湿度、気圧、音刺激などで作業効率が変わるか)、生理的条件(排便、体温、アレルギーなどで作業効率が変わるか)などが考えられます。

 1回の結果に一喜一憂せずに、また「今日は調子が良かったね(悪かったね)」で終わらせることなく、1日の中での違い→1週間の傾向→1ヶ月の傾向と見ていくことが大事です。作業時間が20分→17分→14分と捗ってきた時、突然23分かかってしまった。その場合の誘因は?ここで考えるか、見過ごすかで大きく違ってきます。

 また、生理的な条件にまで踏み込んで援助出来るようになるには、結構時間がかかります(と思います)。

 変数というと非常に堅苦しいですが、「その人を良く知るため」には「事実」を明確にすることが必要なのです。

 

※記録をグラフにすること

 グラフにすることで、事実が見えてきます。傾向が明らかになります。当然チ−ム内の議論が活発になりますし、新任職員もグラフから読みとれる事実を確認できます。新しい改善策も生まれやすくなります。ただし、切り口が間違っていると何も見えてきません。

 

※「学習する」ということ

 学習が成りたたない要因としては、未学習、不足学習、誤学習、過剰学習などがあります。と言いきっていますが、この4つで正しいかどうか自信ありません。

 ボク達が援助する方の場合、誤学習が圧倒的に多いようです。「こんなに問題を複雑にしたのは誰じゃい!」と、つい感情的になったりもします。

 この学習という単語が、福祉の業界では使われません(使っていたらごめんなさい)。ヒトは常に成長する、なんていうのはカッコつけすぎでしょうか。ヒトそれぞれ学習する早さは異なります。「どうやったら分かってもらえたか。」「何回教えたら覚えてもらえたか。」ということが、いま行っている課題だけではなく、今後も何かを覚えてもらう(教える)時に役立ちます。

 また覚えるということは、そのうち忘れる(これも個人差)ということです。TEACCHでは、スケジュ−ルシステム・ワークシステムなどを使いますが、これがくせ者です。一度システムを作ってしまうと、未来永劫そのシステムが機能するかのように錯覚してしまいます。特に初めからそのシステムを見てしまった新任職員には、そこに至る経過が見えないため「カードを作ること」から始めようとします。”システムの罠”にはまってしまうわけですね。結果ではなく経過が大事だよ、ということを丁寧に伝える以外にありません。

 TEACCHの誤解や批判は、この点にありそうです。

 

※〆切日の設定

 課題を出した際、「いつまでに出来る?」と聞きます。新任さん「○日までに。」と答えますが、始めのうちはその日までに完了することは稀です。そこで「やる気がない。」で終わらせては次はありません。「やる気」は実態が見えないものなので、それを相手にしても答えは出ません。こちらの伝え方がまずかったからなのか、彼女にふられてそれどころではなかったのか、要因はいろいろと考えられます。

 あくまでも、相手の反応に応じた働きかけが大事です。こちらの対応が適切であれば、〆切日を守る回数、聞きに来る回数が増えてきます。

 ボクは、相手が聞きに来る回数がどう変化したか(1週間単位でカウント)で、判断しています。ある男性新任職員は、1週目はボクと目をそらし、聞きに来た回数は0回、2週目は2回、3週目は5回と増えていきました。

 

※結論を急ぐな!

 変数を明確に、のところでも触れましたが、あくまでも@傾向を読みとり、A仮説を立てて、B次の行動を予測すること、が大事です。

 昔の人は言いました「急がば回れ。」

 

※常にtry and errorよ

 うちのボスは僕らにこういいます「失敗したら、俺達が責任をとる。」と。ボクが責任を取ると言っても「責任者を出せ!」と言われるのがオチです。ひらのボクには、「トライ&エラーの連続だよ。」というのがやっとです。

 

 

■Oさんの作業経過

 Oさんは、最重度の知的ハンディを伴う自閉症の青年です。Oさんは、自傷行動が激しい方でしたが、2年前より治まっています。作業は、空き缶を空き缶潰し器に入れる作業を行っています。この図は、1回の作業にかかった時間を示した折れ線グラフです(行動分析に詳しい方、ナゼ線がつながってるんだ?と思われていることでしょう。そうです。手続きが変わったところでは線を切るのですが、コピ−が上手くいかず、つながったままになってます。)

 ここでは、内容の説明はしません。その傾向を見て下さい。1回にかかった時間にばらつきが見られるのは一目瞭然ですね。このばらつきの要因は何なのか?ひとつの大きな要因として、体温の変化と発汗作用との関係がありそうです。しかし、その対応をどうするのかは、いまだ試行錯誤中です。

 以前、他の方で上手くいった対応については、昨年(第18回)の応用行動分析学会で報告したものがあります。興味のある方は、発表論文集にあたって下さい。

 

 

■スタッフのチェック率

 これは、上記の記録をどれくらいの割合で書き漏らさずに記録したかをチェックしたものです。「忙しかったから」「意識から抜けていたから」記録できなかった結果が、この図の通りです。一瞬上昇しているのは、グラフを刷り出してお互いにその重要性を確認したところです。またすぐに下降してますが。

 そして面白いことに、この『チェック率』をバーンと張り出した後は100%の記録率をいまだに維持しています。営業成績の記録と同じ効果ですね。

 

■タイトルなし

 これは、他の自閉症の青年の作業自発率です。「ボ−ルペンを3本組み立てるだけでパニックになる。」というレッテルを貼られていたIさん。今では空き缶の作業を1回30分、1日8回出来るまでになりました。

 お二人ともボクともう一人の先輩職員が組み立てて、新任職員へ引き継いだ課題です。

 

 

■今後の課題

※より綿密な行動観察と行動分析

 少し自慢みたいになりますが、いま世にペ−パ−として出ている実践報告・研究が援助している課題は、ボク達にとってはもう、クリアしているものばかりです。 ボク達がワザを磨いていくしかないな、と言うのが実感です。

 

※コミュニケーションアプロ−チへ

 やはり、「重度だから、自閉症だから」という理由で、やりとりをする機会が圧倒的に不足しているように思います。お互いの接点を見出す作業を勉強しなくてはいけないな、と思っています。

 

※パフォーマンスマネ−ジメント

 〆切日の設定、で書いたことはその一例です。「人を憎まず、行動を見直す」と言うのがモットーです。

 

※現場の職員が発信する機会を

 自分の実践をまとめること、報告することで見えてくることがたくさんあります。現場に埋没させないために、是非、発信の機会を設けてあげたいな、と思っています。実際には、うちの法人が「事例フォーラム」を主催するのが一番かな、と思っています。

 

 以上です。最後の方は疲れていい加減になってしまいました。最後まで読んで下さってありがとうございました。御意見・ご感想、何でもいいから下さい。それが欲しくて書いているんです。もう、書けましぇん。

 

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