◎子どもと仲良くなる方法(改訂版)

 


ボランティアでお子さんと接したとき、「どのように関わればいいの?」と不安になりますよね。そんな皆さんの不安を少しでも和らげられればと思います。では、いくつかの項目に分けて話を進めますね。


◎担当するお子さんの個性を知りましょう   (まず、障害特性)

レクレーションに参加するお子さんは、何らかのハンディを持った方です。診断名として「ダウン症(候群)」 とか、「自閉症(候群)」、「精神発達遅滞」「ADHD」 などなどいわゆるショウガイがあるはずです。現場のプロとして仕事をする人の中にも、このショウガイをその子のせいにして 「この子は自閉症だから○○ができないんだよね。」 などという人がいます。
そういうレッテルを貼られることで得するお子さん(もちろん家族の方)はいません。

私達がやるべきことは、レッテルを貼ることではなく、お子さんを良く知るための第一歩として、その障害特性を知ることです。

ノースカロライナ大学のTEACCHでは、自閉症を理解するには、自閉症の文化を知ることだ。という表現をしています。僕もたった1週間ですが、ノースカロライナ州のチャペルヒルにあるCLLC(成人の方が農作業を中心とした仕事と生活を営んでいらっしゃるところ)で研修をしました。

「すいません、僕英語が苦手なので...」というと「気にするな、僕だって日本語は苦手だから。」と応えてくれたスタッフ。英和辞典(っていうのかな?)を持っていたその方は、「シージー(シンイチが僕の名前だけど、そういっているように聞こえた)、ボ・ウ・シ」と自分のベースボールキャップを指差したり、漢字を「素晴らしい!」と誉めてくれたり、僕と日本の文化を大事にしてくれました。

文化が違えば暮し向きや価値観は当然変わってきます。お子さんがレクレーションの中で見せる、一見不適応な行動も、実は意味があったりするのです。 「〜ができない。」 「〜をやってくれない。」 と思うことが多いでしょうし、それが当然だと思います。あなたがそう思っている時お子さんは、あなたの何十倍も「このお兄さん・お姉さんは私のことをわかってくれていない。」と思っているはずです。

これらのことは、レクレーションですぐに役立つわけではありません。しかし、障害特性が分かってくると 「なるほど、この行動にはこんな意味があったのか!」 と徐々にわかってきます。偉そうなことを言っている僕も今だに、この繰り返しです。


◎お子さんの好きなこと・嫌いなことを知りましょう

とにかく家族の方に、好きなこと・嫌いなことの情報をたくさんもらいましょう。そのなかで、「今、こんなことにちょっと興味が出てきたのよ。」なんていう情報があったらラッキーですね。
計画の中に、好きな活動→興味が出てきた活動→好きな活動といった具合にサンドイッチしてみると、案外うまくいくかもしれません。また好きな活動を、違う場所で・違うもの(素材や大きさ、色やかたち)でなど、少しの変化をもたせてみると活動の広がりが出てくることもあります。

はじめに情報をもらえ、といっておきながら何ですが、家族の方の情報は全てが合っているというわけではありません。苦手といわれていることでも、ボラさんとならうまくいくってことは、案外多いものです。嫌い、苦手といわれている事でも、アドバイスしてくださる方に相談したうえで、ちょっとだけ試してみてください。 


◎合図ひとつで変わってきます

結論から言います。言葉で教え諭そうとするのはあまり有効ではありません。

合図は「短く」「ゆっくりと」「低い声で」「小さな声で」「具体的で」「肯定形で」というのが基本です。 

たとえば、あるお子さんが上ってはいけないところに上っていたとします (そこが危険な場所であったら、すぐに降ろして 「だめ」 と叱るべきですが)。あなたはどうしますか? 「危ないからだめ」 「いつも言ってるでしょ」 「何回言えばわかるの」 などは、よく使われる否定的な言葉です。これらの言葉は抽象的で、いま何をすればよいのかが具体的ではありません。

具体的な言葉は「おりて」の一言だけです。ゆっくりと近づいていって、「おりて」 と声をかけてください。そして、降りてくれたら 「そうだね。」」 と誉めてあげてください。

合図は言葉がけだけではありません。合図には、声をかけてみる・ジェスチャーを交えてみる・モデルを示してみる・手を添えてみる、などがあります。あなたが海外に行った時、どんな合図がわかりやすいかを考えてみるといいでしょう。この合図に、「指差しが入ってない」と思った方はいますか。

僕の経験上、指差しはほとんど意味がありません。指差しは、合図をしているつもりにはなれますが。指差しを理解するには、指先と指された先のものを、見えない点線で結ばなければ理解につながりません。これはお子さんにとっては、すごく難しい作業です。逆の言い方をすれば、指さしがわかるお子さんには、どんな合図を使うかの配慮はあまり必要ないかもしれません。

また、すこし別の話になりますが、お子さんが手をひらひら・ジャンプ・身体をゆするなどの動きをしている場合は、その動きが終わるまで待ってから合図を出してください。それは...、明確な説明はできませんし、その理由も明らかにはなっていません。相手を認めるという視点で考えれば、「その動きの意味を僕はわかっていない。でも、何か意味があるんだろうから、終わるまで待ってるね。終わったら僕の話を聞いてくれるかな。」 といったところでしょうか。

僕たちは、日本語という言葉を使ってコミュニケーションをしています。しかし違う言語圏の人には、通じません。言葉にとらわれず、身振り・手振りを使って相手がわかってくれるコミュニケーション手段を探してみて下さい。


◎もの(グッズ・アイテム・ツール)ひとつで変わってきます

あまり英語が得意でないので、グッズ・アイテム・ツールなんていう言葉の正確な意味を知りません。
合図の続きになりますが、要するにお子さんが自分で動ける(自発的な活動なんて言い方をします)ための”もの”を探す。ということです。

食事や入浴、あるいはレクレーション等の合図をお子さんはどうやって理解していますか。あなたが手を引いてその場へ連れて行ってあげる事が多いですか。もしそうだとしたら、言葉がけと一緒に”もの”を渡してみてください。
これは、キャンプなどの宿泊の際に使うことが多いですが、ご飯へ行く時、「ご飯(食堂)に行くよ。」 と言って、お箸を渡す。お風呂に入る時、「お風呂に行くよ。」 と言ってタオルを渡す。「歯磨き行くよ。」 といって、歯ブラシを渡す。
などその子のレベルに合った”もの”を用意して、繰り返しやってみると、動きが変わってくるはずです。
いままで、なんとなーく食堂へあなたに手を引かれていっていたお子さんが、部屋でお箸を渡されたら自分で食堂まで行った。なんてことを考えただけで感動しませんか。


◎活動する場所の構造を把握しておいてください

一番大切なのは、トイレの場所です。
 次には、一人になれる場所、静かな場所です。

お祭り大好きなお子さんであれば、二番目の配慮は必要ありません。
ちょっと集団が苦手だな、というお子さんに配慮してあげたほうが良い場合があります。皆で集まる場所の端っこにスペースだけは作ってあげておく。まずみんなでやってみて、ちょっと苦手そうだなと思ったら、その場所に誘導してみる、といった具合に。
僕達が成人の方々とレストランに行く場合、隅っこのテーブルをお願いします。そしてその中でも、刺激が多いことが苦手な方には、店内に背を向けられるような場所に座ってもらいます。

無理に集団に合わせるのではなく、どの場所だったらその活動を楽しめるかを考えてみてください。


◎距離間、これって案外重要です

一見、人とのかかわりを避けようとするお子さんがいらっしゃいます。 
その子達は、人が嫌いなわけでは決してありません。
自分の空間を大事にする人なのです。
ですから、急に接近してはいけません。 距離としては、そうですね1メートルくらいの距離間が必要です。

自分の思いが伝わっていないと思う(実は伝わっていたりするんですが)と、どんどん接近したくなります。動きの激しいお子さんだったりすると、手をつないでいるか追いかけているか、なんて経験はありませんか。僕も学生時代にボランティアでレクレーションに参加していた頃は、お子さんの後を付いて、ただただ走り回っていました。

距離をおくことは、非常に勇気がいることですが、離れることでわかることはたくさんあります。恋愛だってそうでしょう。自分の距離間はどのくらいか、一度測ってみることをお勧めします。


◎1日の反省会、大切にしましょう 

反省会では、皆さんできたこととできなかったこと、次回への決意とまではいかなくても、そういった内容のことを話すと思います。

その中で、「〜ができた(できなかった)。」 に加えて、「〜○回目でできた。」 「〜○分間は出来ていたけど、その後ダメだった。」 という具合に、時間や回数をカウントしてみてください。

そうすることで、今日は3回だったから、次回は3回以上を目指してみよう、といった具体的な目標ができてきます。実際やってみると、そう簡単なことではありませんが、カウントできるようになってくるといろいろなことが見えてきます。


◎なぜ?急に混乱してしまった... 

あなたがお子さんに何か悪いことをした、と思えないのに急に泣き出してしまったり、機嫌が悪くなったりということもあります。
その原因の中の一つに“暑い”ということがあります。靴下を履きたがらない・廊下などの冷たい床に寝そべる・汗をかきにくい、などなど温度と関係がありそうなエピソードを持つお子さんは、「体が暑いけど、どうしたらいいの」と言えなくて、泣いてしまうことがあるようです。

対処としては、服を一枚脱がせる・水分を摂る・濡れタオルで体を拭く・涼しい所へ移動するなどを試みてください。

その他、ある特定の音が苦手というお子さんもいます。そのお子さんにとっては、僕たちにとっては何気ない音が不快な音になってしまいます。一般的には、赤ちゃんや犬の声などの高い音・ゲームセンターなどの音圧が苦手のようです。


◎ここまでできたらほとんどプロです

保育・教育・福祉の業界で、ここまでのことが出来ている方を、実はあまり知りません。ですが、学生さんでは難しいというレベルではないと思います。こういった視点は、どの分野で仕事をする場合でも活かされると思います。今参加されているレクレーションのサークルが継続しているのもあなた方、学生さんの力があってこそです。

僕が学生時代に所属していたボランティアサークルのお母さんが、こうおっしゃいました。「この子(自閉症の男の子)がいると、大変なこともたくさんあります。けれど、この子がいてくれたおかげで、あなた方のような学生さんと出会うことができました。ありがとう。」と。あれから20年近くの歳月が流れましたが、いまだにこの言葉は忘れることのできない言葉です。

お金では買えない何かがきっとあります。
あなた方学生さんのがんばりに期待しています。がんばってください。      
       

 

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