自閉の子供と言われて(1)   
                               
by ゆみ

 


 22才の若妻が、ある病院の診察室で2才の小さな男の子を抱きしめ

声を押し殺して泣いています。

その向かいには丸イスに短い足を組んで、タバコの煙を揺らしながら

「副院長」と呼ばれる医者が長々と若い母親に

耳慣れない「発達遅滞」 「療育」 「自閉傾向」という言葉を

連発しています。その医者の態度にも腹がたって悔しい思いがして、

母親は泣いてしまいました。

人前で泣くのは、何年ぶりでしょうか。

「やはり」という思いと、今まで生きてきた社会と

突然、違う世界に生きていかなくてはならないんだなあ、

という戸惑いで頭はこんがらがっておりました。


「こんなにかわいい子供なのに? どうして私だけ、、、。」

暗闇でスポットをあてられたヒロインよろしく、

東映映画のでだしのあの岩にぶつかる波のような

気分で診察室を後にしました。

もう、若妻の顔は涙なのか鼻水なのかよくわからないぐしゃぐしゃの顔で、

タクシーに乗りこみ、運ちゃんに一生懸命、

慰めてもらいながら帰宅しました。

その日見た夕焼けを、やけに今でもはっきりと思い出せます。


「治らない」 これからどうやってこの子と生きていけばいいのだろうか?

泣きながら、子供に夕飯を食べさせて、旦那が帰宅するまで泣いてました。


それからすぐに児童相談所へ障害児専門の保育園に

入園したいと電話しました。

まずは見学に行きなさいと言われ、初めて障害児を教育する

保育園へ旦那と息子と行きました。

福岡県飯塚市にある「まどか園」へ見学に行きました、、、。

もう、そこにはすごく元気な先生方の歌う声が響き渡って

若い先生方に混じって園長も走り回って子供たちをみてました。

一生懸命さに感動すらして、「ここしかない。」と、旦那と即決めましたが、

窓口は相談所で、そこで許可を得ないといけないのでした。

園長は「早期発見、早期治療ですよ。」と、言って

私達を待っていると言ってくれました。

私達には当時の園長先生が観音さまに見えました。


さっそく相談所の職員が家にきて息子と面接しました。

「まだ小さいから、3才になるまで待ちましょう。」と言いました。

あと1年を家で過ごせというのでしょうか??

早く療育を受けたいのに。

障害のことすら何も知らないのに、、、。

「、、、じゃあ、1年待ってる間に息子が悪くなったら、

 あなたが責任をとってくれますか?」

普段からむっつり無口な旦那がその時初めてこう言いました。


翌日、「許可」がおりた電話をもらった時、私が電話にでた隙を見て、

息子は外へとびだし40分ほど探し回ったことを思い出します。

                  つづく