北村 薫 他 リレー小説


9の扉


2009/08/03

 普段、あまりアンソロジーを手に取ることはない。ところが、本作品集は9人中5人が読んだことがある作家で占められている。特に、さっぱり新刊が出ず、どうやって生計を立てているのか心配な殊能将之さんの作品が含まれていたので、手に取ることにした。

 本作はリレー小説という趣向であり、作品を書き上げたら次の作家にお題を出す。リレーされた作家はお題に従った作品を書き、また次の作家にお題を出す。かなりこじつけだったり、既出作品の設定を一部借用していたり、思い切り続きを書いていたり様々だが、各作家の個性が出て、大変満足度が高い作品集と言えるだろう。

 トップバッターは、この企画の提案者である北村薫さん。「くしゅん」は是非夫婦で読んでほしい、切なさの中にも北村さんらしい優しさが垣間見える好編。続く法月綸太郎さんの「まよい猫」は、ペット専門探偵という設定から荻原浩さんの『ハードボイルド・エッグ』を彷彿とさせるが、とてもキュートな作品に仕上がっていて意外な印象を受ける。

 そして殊能将之さんの「キラキラコウモリ」。お題がそもそも難しいが、クリアしていると言っていいのだろうか…。殊能作品としてはひねり不足か。奄美大島在住とは知らなかった鳥飼否宇さんの「ブラックジョーク」。栄枯盛衰が激しいお笑い業界をテーマにしているが、結末はとびきりブラックだった。そんな甘い世界じゃないってか。

 こちらも新刊はご無沙汰の麻耶雄嵩さん「バッドテイスト」。ハードボイルドっぽい作風に面食らうが、ひねりは効いている。究極の悪趣味? 竹本健治さんの「依存のお茶会」。何となく小難しいイメージを持っていたのだが、イメージ通りの内容でした。いけすかない奴らの薀蓄の応酬。うーむ、『ウロボロス』シリーズもこんな感じなのか?

 貫井徳郎さんの「帳尻」と歌野晶午さんの「母ちゃん、おれだよ、おれおれ」はワンセットである。「帳尻」に登場するあまりにも不運な男。もう笑うしかないが、不運は終わりではなかった…。「母ちゃん、おれだよ、おれおれ」は、タイトルがすべてを物語っている。

 最後を飾る辻村深月さんの「さくら日和」は、甘酸っぱい物語とだけ書いておくが、最初の「くしゅん」に繋げているところがうまい。そうえいば作風も北村さんっぽいような。



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