飴村 行 02


粘膜蜥蜴


2009/12/19

 2010年版『このミステリーがすごい!』第6位、『文春ベスト10』第7位。文庫版の手軽さもあり、つい手に取ってしまったのだが…何がそんなに絶賛されたんだ???

 時代は戦時下。町で唯一の病院・月ノ森総合病院の院長を父に持つ雪麻呂は、2人の同級生を自宅に招待し、地下室へと誘う。月ノ森家の権威は絶対で、傍若無人な雪麻呂に誰も逆らえない。渋々招待を受けた真樹夫は、案の定理不尽な命令をされ…。

 ここまででまだ40ページ。雪麻呂の弾けたキャラクターに呆気に取られるだけ。しかし、そんな暴れん坊の雪麻呂も、爬虫人の下男・富蔵の言うことは聞き入れるらしい。何の説明もなく爬虫人なんてものが登場するが、この程度で気にしてはならない。

 第弐章に入ると、いきなり舞台が東南アジアのナムールに飛ぶ。陸軍の少尉で真樹夫の兄・美樹夫は、重要人物を護送する命を受け、2人の部下を伴いチャラン村に向かう。この重要人物・間宮は、雪麻呂が大人になったらこうなるだろうなあという男。こいつのおかげでしなくてもいい苦労をすることになり…。

 ゲリラの襲撃を避けて密林を抜けようとする一行。さあここからが本番。肉食ミミズだの超特大のゴキブリだの、川口浩探検隊もびっくりの謎の生物が襲いかかる! しかし、恐怖を感じる以前に引きつった笑いが止まらない。第壱章との繋がりが最後に明かされるのだが、ここだけ独立した話にすればよかったのに。

 再び日本に戻って第参章。許婚の座を巡る血みどろの格闘だの、軍のジャイロで大はしゃぎだの、再び雪麻呂が暴走する。210ページで披露される富蔵の雪麻呂応援歌に、飯噴くかと思った。好き放題を繰り広げた雪麻呂に、最後に待ち受ける運命とは?

 要するにグロ描写がメインで、ストーリーはあってなきに等しい。本気なのかふざけているのか判断に困るという点でも、平山夢明作品の系譜に近い。この手の描写には平山夢明作品で免疫ができていたため、インパクトが弱められた点は否めない。

 一応謎が一つに繋がっていることには触れておこう。



飴村行著作リストに戻る