飴村 行 04


爛れた闇の帝国


2011/02/04

 新年早々、飴村行さんはかっ飛ばしてくれた。初のハードカバーで届けられた新刊は、粘膜シリーズのやや滑稽な路線とは一線を画す仕上がりだ。

 裸で両手両足を壁に固定され、監禁された日本兵。場所は昭南島(シンガポール)の憲兵隊本部。憲兵が言うには、男は大罪を犯したらしい。教えてくれと懇願する男に、憲兵は冷酷に笑う。刺激を与えてやるから、自分で思い出せ。

 母子家庭に育った高校2年生の正也は、気力を失っていた。先輩で不良の崎山が、23歳も歳の離れた母と付き合い出し、入り浸るようになると、正也にはますます居場所がない。高校も何となく退学してしまい、幼い頃からの親友、晃一と絵美子に心配される。

 過去と現代が交互に繰り返されるという構成に目新しさはないが、一貫して戦時中を舞台としてきた飴村さんが、現代を描くのは初めて。飴村さんの描く現代は、過去と同様にやっぱりえげつないのは言うまでもない。現代には現代の、軍隊とは違った理不尽さがある。正也の母が怖い先輩とできているのはほんの序の口。

 過去編の拷問シーンは、過去作品と比較すれば割とあっさりしている。とはいえ、一般的基準では十分グロいしきついだろう。男は徐々に記憶を取り戻していく。一方、現代編はシチュエーションの嫌さで読ませている感がある。正也の予想通りの展開になったと思ったら、最後には正也の予想をはるかに超える真相が待っていた…。

 読者の興味は、過去と現代がどう繋がるのかに絞られてくる。えええええっ!!!!! まさかそのような力業が炸裂するとはっ!!!!! ぎゃははははは、すげえよ飴村行の想像力。ミステリー的な構成にホラーで決着をつける。繋がりが明らかになると、結末は見え見え。

 人の心の奥底にはね、必ず爛れた闇が潜んでいるんだよ――とはよく言ったもので、最後は誰もが本性丸出し。僕の中にも爛れた闇が潜んでいるんだろうか。粘膜シリーズには行き詰まりも感じていたのだが、ところがどっこい、飴村流ホラーは進化し続ける。



飴村行著作リストに戻る