蒼井上鷹 01


九杯目には早すぎる


2007/06/20

 「キリング・タイム」で第26回小説推理新人賞を受賞。「大松鮨の奇妙な客」で第58回日本推理作家協会賞短編部門の候補になる。蒼井上鷹という作家の名を知ったのは、会社の近くの書店に最新刊『俺が俺に殺されて』が平積みされていたためだった。

 さらに別の書店に行くと、何と過去の作品も平積みされている。人の評価を読む前にとりあえず買うのが僕の信条…というか悪い癖。本との出合いは一期一会なり。

 本作は蒼井上鷹さんの単行本デビュー作となる短編集である。失礼ながら版元が双葉ノベルスなので見つけにくいだろう。あの書店にあったのは何かの縁だ。短編5編の間にショートショートを4編挟むという珍しい構成。2007年版『本格ミステリ・ベスト10』のアンケート全回答を見返すと、蒼井上鷹の名を挙げている目敏い回答者も数人いた。

 最初からひどい結末だよ「大松鮨の奇妙な客」。斬新ではないし〈茶碗丼〉を作った理由もやや弱いが、構成力は新人離れしている。ネット上で小説を発表したら共作を迫られ、「私はこうしてデビューした」。自分の都合のいいように翻訳してしまう人っているよねえ。この結末は…付きまとい続けた甲斐があったってことか。

 マイペースさではもっとすごい「タン・バタン!」。本人に悪気がないから困ったもんだ。上司まで絡んでさあ大変。タイトル通りのドタバタぶりに悲哀がにじむ。着メロがますます嫌いになったぞ。「見えない線」とは男女を結ぶ線か隔てる線か。ブラックな作品を集めた本作中では異質なシリアス路線。しかし、やはり悲哀がにじむ。

 最後の「キリング・タイム」は、休日に運悪く上司に遭遇し酒に付き合わされ…というシチュエーションに苦笑するが、ひねり方も堂に入ったもの。選評によると、我が身がかわいい小市民の悲哀がよく描けているという点も評価されたようだ。

 ショートショート4編が実に秀逸だ。男女関係のもつれが一発でわかる「においます?」。ちっとも「清潔で明るい食卓」じゃない。「最後のメッセージ」は意外な形でもたらされた。最短のハードボイルドか「九杯目には早すぎる」。これらだけ立ち読みはなしよ。

 意外性の中にも人間のおかしさが光る全9編。買って損はない。



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