蒼井上鷹 07 | ||
まだ殺してやらない |
期待の新鋭蒼井上鷹、ついに講談社ノベルスに進出である。失礼ながら、双葉ノベルスや祥伝社ノン・ノベルは置いていない書店も多く、これを機会に蒼井さんを知る読者もいると思う。それによって過去の作品も注目されるなら喜ばしい。
ノンフィクション作家の瀧野和一は、最愛の妻を惨殺された。被害者をじわじわいたぶる手口から、連続殺人犯カツミ≠フ犯行と考えられた。自ら調査に乗り出す瀧野。やがてカツミ≠ヘ逮捕されたのだが、同じ手口の事件が発生した…。
どちらかというと登場人物も含めコミカルな雰囲気だった過去の作品と比較すると、設定は至ってシリアス。蒼井流ミステリの一ファンにはかなり「普通」に映る。登場人物には蒼井作品らしい面影が多少残っているものの、気弱には感じられない。
蒼井さんらしさを感じさせるのは構成の面である。意外な犯人やトリックをご所望ならば期待しない方がいい。それぞれの人物の動機や意図が複雑に絡み合い、二転三転する展開。アンフェアの連続を許容できるかどうかで、評価が分かれる作品だ。
プロローグ的な意味合いを持つ第一部「見えない出口」は、これだけで短編として読むことも可能だ。いきなりアンフェアの嵐。僕は蒼井さんの作風を知っていたので、そりゃないだろと思いつつ笑って許せたが、ガチガチの本格を好むファンは、この時点で投げ出したくなるに違いない。読み進めるべきかどうかは第一部で判断できるだろう。
読む進めると判断したとして、第二部以降も心してかかっていただきたい。何から何までアンフェアだったことが最後に明らかになる。タイトルの本当の意味はこれか。ここまでアンフェアにアンフェアを積み重ねると清々しくさえあるが、破綻していないのはすごい。
やっぱりこの人はただ者ではない。欲を言うなら、事件には直接関係ないあるエピソードが、ちょっと浮いている。もっとも、しっかり裏はかかれたが。
蒼井さんの長編の中では、間違いなく最もいい出来だ。それでも敢えて言いたい。蒼井さんの実力はこんなものではないはずだ。次回作にますます期待。でも、最後のお遊びは必要なかったかな。某話題作のパクリだろこれ。