蒼井上鷹 12 | ||
人生相談始めました |
版元はPHP研究所で、タイトルは『人生相談始めました』。ミステリ界に独特のポジションを築いた蒼井上鷹さんが、まさか啓蒙書を書いたのかと思ったら…。
繁華街から少し外れた雑居ビルの2階にある、モーさんがバーテンダーを務める小さなショットバー、その名も〈モーさんの隠れ家〉。小料理屋を営んでいたモーさんの父は、かつて客から受けた相談を日記に残していた。モーさんは常連客から相談を持ち込まれると、父の日記帳を紐解き、似たような相談事例を探すのだった。そして…。
本作のポイントは、モーさんの純粋な善意のアドバイスが、ことごとく裏目に出てしまうこと。第1話からなかなかにビターで、というよりブラックで、お堅いイメージのあるPHP研究所的にこのネタは許されるのかと思ってしまった。
それにしても、どこか奇妙…はっきり言えば垢抜けない作風の蒼井作品だが、ずいぶんこなれてきたなあ。この方の作品にしてはとても「普通」なのである。「普通」なのが「意外」に感じられる作家も珍しい。と、序盤は思っていた。
しかし、このまま終わる蒼井上鷹ではなかった。基本フォーマットはほどなくぐちゃぐちゃになり、モーさん以外のゲストの入れ替わりは激しい。詳しくは書けないが、終わったはずの事件が蒸し返されたり…。やっぱり蒼井上鷹はこうでなくては。
実はモーさんは2代目で、初代モーさんから店を引き継いだ。それにまつわる秘密も最後に明かされるのだが……聞いてねえってそんな話。
と、いつもの蒼井作品らしさを残しつつ、文体や謎の収束のさせ方など、全体的にかなり洗練されてきた印象を受ける。その点は寂しいというか、痛し痒しというか、複雑な気分である。洗練されてきたことを素直に喜べない作家も珍しい。
本当にこの方の思考回路ってどうなっているんだろう。蒼井上鷹が書いた啓蒙書なら、啓蒙書嫌いの僕でも読んでみたいぞ。